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Mark Cerny、AMD共同開発『Project Amethyst』を語る:これは単なる次世代コンソールではない

なぜ今、Project Amethystに注目すべきか

PlayStationの伝説的システムアーキテクトMark Cernyが、AMDのJack Huynh(Computing and Graphics Group担当SVP兼GM)と共に、2025年10月9日に公開した最新ビデオで、ゲーム業界に大きな波紋を投げかけた。

その内容は、単なる次世代コンソールの仕様発表ではない。Cerny自身が「step-change(段階的変化を超えた飛躍)」と表現するこのProject Amethystは、PC市場を含むゲーミングハードウェア全体の設計思想を根本から変える可能性を秘めている。

従来、Sonyは独自のカスタムチップを開発し、その後AMDがそれを一般市場に展開するというパターンを踏襲してきた。

しかし、Project Amethystはこの常識を覆す。両社は初期段階から共同設計を行い、その成果物はPlayStation 6だけでなく、AMDのRDNA 5アーキテクチャ、さらにはPC向けGPU市場全体に波及する。これは、ゲーム業界における技術開発の在り方そのものの転換点である。

Project Amethystとは何か:Sonyの戦略転換

Project Amethystは2023年に始動し、2024年12月にPS5 Proのテクニカルプレゼンテーションで初めて公式発表された。その名称は、AMDのブランドカラーである赤とPlayStationの青を組み合わせた紫色の宝石「アメジスト」に由来する。

Cernyは今回のDigital Foundryへのメールインタビューで、戦略の根本的な変化を明確に述べている:

「我々は焦点を大きく転換した。過去には、PlayStation専用のカスタム技術を独自に開発していた。しかし今、Project Amethystでは、AMDのロードマップハードウェアとライブラリの共同エンジニアリングと共同開発に、はるかに大きな重点を置いている。この変化は非常に大きな影響をもたらす。開発者が、デスクトップ、ラップトップ、コンソールなど複数のプラットフォームで機能すると理解して技術を構築できれば、新機能の採用率ははるかに高くなる。」

この発言の重要性は、単なる技術共有を超えている。

従来、PlayStation独自技術は採用率が限定的だった。しかし、Project Amethystによる技術が最初からマルチプラットフォームを前提に設計されることで、開発者は安心して最新技術を採用できる。結果として、技術の市場浸透速度が劇的に向上する。

さらに重要なのは、Cernyが明言した技術の優先順位の変化だ。

彼はラスタライゼーション性能の向上を「可能な範囲で」とし、機械学習とレイトレーシングに注力すると断言した。

実際、PS6のリーク情報では、ラスタライゼーション性能はPS5比で2.5〜3倍に留まる一方、レイトレーシング性能は6〜12倍に達するとされている。これは、ゲーミングハードウェアの設計思想における明確なパラダイムシフトである。

3つの革新技術の詳細分析

Project Amethystが掲げる3つの技術は、それぞれが独立して機能しつつ、相乗効果を発揮するよう設計されている。

Neural Arrays:AIアップスケーリングの効率化

Neural Arraysは、機械学習処理を従来よりも効率的に実行するための新しいハードウェアアーキテクチャだ。Cernyの説明によれば、「画面の大部分を一括で処理できる」ことが最大の特徴である。

従来のGPUアーキテクチャでは、AIアップスケーリング(PS5 ProのPSSRやAMDのFSR)を実行する際、タイル単位で処理を分割する必要があった。これはメモリアクセスのオーバーヘッドを生み、効率を低下させる要因となっていた。Neural Arraysはこの問題を解決し、「fully-fused networks(完全融合ネットワーク)」の実現を目指す。これにより、AIアップスケーリングとデノイジング処理の両方が、従来よりも遥かに少ない消費電力で実行可能になる。

具体的な影響として、FSR 4がすでにこの技術の恩恵を受けている。AMDは2025年2月にFSR 4を発表し、5月にはRedstoneアップデートで機械学習ベースのフレーム生成とレイ再生成を予告した。これらの技術は、Neural Arraysを前提に設計されている。

Radiance Cores:レイトレーシングの再定義

Radiance Coresは、レイトレーシングとパストレーシングを専用処理するハードウェアブロックだ。Jack Huynhの説明によれば、この技術は「ハードウェアからソフトウェアまで、パストレーシングパイプライン全体を再考した」結果である。

従来、レイトレーシングはGPUの演算リソースとCPUの両方に大きな負荷をかけていた。特に、レイの交差判定(ray traversal)は計算負荷が高く、これがボトルネックとなっていた。Radiance Coresは、このレイトラバーサルを完全に制御する専用ハードウェアとして設計されている。結果として、CPUはジオメトリとシミュレーションに専念でき、GPUはシェーディングとライティングに集中できる。

Huynhは「よりクリーンで、より高速で、より効率的なパイプライン」と表現したが、これは単なる性能向上以上の意味を持つ。現在、高性能PCでさえ、パストレーシングを70fps以上で動作させることは困難だ。しかし、Radiance Coresによって、数年後のコンソールがこれを実現可能になる可能性が示唆されている。

Universal Compression:帯域幅問題の解決策

Universal Compressionは、おそらく3つの技術の中で最も基盤的かつ重要なものだ。Cernyはこの技術を「特に重要」と評価し、その理由を「世代を重ねるごとに、メモリ帯域幅の大幅な増加を達成することがますます複雑になっているため」と説明した。

従来の圧縮技術(例:AMDのDelta Color Compression)はテクスチャのみに適用されていた。しかし、Universal Compressionは、その名の通り、あらゆる種類のデータに適用可能だ。これにより、実効的なメモリ帯域幅が大幅に向上する。

Cernyは、Universal Compressionが「Neural ArraysとRadiance Coresとの相乗効果」を持つことを強調した。なぜなら、効率的なメモリアクセスは、機械学習処理とレイトレーシングの両方にとって不可欠だからだ。特に、Neural Arraysによる大規模なデータ処理と、Radiance Coresによる高頻度のメモリアクセスは、Universal Compressionなしでは実現困難である。

PC市場への影響:RDNA 5とFSR 4

Project Amethystの真の革新性は、PlayStation専用技術に留まらない点にある。Cernyは明確に述べている:「Amethystはプロプライエタリな技術ではない。我々は本当に業界を前進させようとしている。明らかに、我々はこれらの技術を自社のコンソールで使用したいが、これらの技術はAMDの顧客なら誰でも自由に利用できる。」

この発言の意味は重大だ。PC Gamerのインタビューで、Cernyはさらに踏み込んで「RDNA 5、あるいはAMDが最終的にどう呼ぶかは分からないが、その大部分は私がプロジェクトで行っているエンジニアリングから生まれている」と述べた。つまり、Cernyが設計した技術の多くが、AMDの次世代GPU「RDNA 5」に直接統合されるということだ。

これは、PC市場にとって何を意味するのか?

第一に、FSR 4の進化だ。FSR 4は、PS5 ProのPSSRの「ドロップイン置き換え」として設計されており、Neural Arrays上で動作する。Tom’s Guideのインタビューで、Cernyは「これはアルゴリズムの縮小版ではなく、我々が共同開発したスーパーレゾリューションのフルファット版だ」と明言した。つまり、PS5 ProとRDNA 4以降のGPUは、本質的に同じアップスケーリング技術を共有する。

第二に、RDNA 5の競争力だ。NvidiaはDLSSとレイトレーシングで市場を支配してきたが、Project Amethystによって、AMDは初めて真の対抗馬となる可能性がある。Radiance CoresとNeural Arraysの組み合わせは、理論上、NvidiaのテンソルコアとRT Coreに匹敵、あるいは特定の用途では凌駕する可能性を秘めている。

第三に、クロスプラットフォーム開発の効率化だ。開発者は、PS6向けに最適化したコードが、そのままRDNA 5搭載PCでも効率的に動作することを期待できる。これは、過去にPlayStation独自技術が抱えていた「採用率の低さ」という問題を根本から解決する。

結論:これは業界全体の転換点である

Mark CernyがProject Amethystを「step-change」と表現した理由は明白だ。これは単なる次世代コンソールの仕様向上ではなく、ゲーミングハードウェアの開発手法そのものを変革する試みである。

従来、コンソールメーカーは独自技術で差別化を図り、その後PC市場にフィードバックするという一方通行のモデルだった。しかし、Project Amethystは双方向の共同開発モデルを確立した。SonyはAMDのロードマップに直接影響を与え、AMDはSonyの要求を製品ラインナップ全体に反映させる。結果として、PS6、RDNA 5、そして将来のXbox(MicrosoftもAMDと「multi-year partnership」を締結している)が、同じ基盤技術を共有することになる。

もちろん、Cerny自身が認めているように、これらの技術の実際の効果を定量化することは困難だ。「開発者が実際に機能を実装するまで、影響を定量化することは難しい」という彼の慎重な姿勢は、技術者としての誠実さを示している。しかし、FSR 4がすでに実装され、PS5 ProのPSSRが実証済みである以上、これは単なる理論ではない。

PC市場の観点から見ると、Project AmethystはAMDにとって転機となる。長年、NvidiaのDLSSとレイトレーシング性能に後れを取ってきたAMDが、初めて対等に戦える武器を手に入れた。RDNA 5が2027年頃にリリースされる頃には、Neural Arrays、Radiance Cores、Universal Compressionの3つの技術が統合され、ゲーミングGPU市場の勢力図を塗り替える可能性がある。

Cernyの言葉を借りれば、「我々はまだ始まったばかりだ」。しかし、その始まりは、明らかに業界全体を巻き込む「step-change」の幕開けである。PS6が登場する「数年後」を待たずとも、我々はすでにその影響をFSR 4やPS5 Proで目撃している。そして、RDNA 5の登場によって、PC市場もこの変革の一部となる。

ゲーミングハードウェアの未来は、もはやコンソールとPCという垣根を超えて、共通の技術基盤の上に構築されつつある。それがProject Amethystの本質であり、Mark Cernyが仕掛けた「step-change」の真の意味である。

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