近年、CPUの性能競争が激化している中、特にハイエンド市場においてIntelとAMDの戦いが熾烈を極めている。
しかし、その性能評価、特にマルチコア性能のベンチマークには注意が必要だ。
本稿では、Intel第13世代・第14世代のハイエンドCPUとAMD Ryzenシリーズの比較を通じて、ベンチマーク結果の解釈と実際の使用感の違いについて深く掘り下げる。
目次
Intel ハイエンドCPUのマルチコア性能の真実
Intel第13世代および第14世代のハイエンドCPU、特にCore i7以上のモデルにおいて、ベンチマークで示されるマルチコア性能は必ずしも実際の使用感を反映していない。
この乖離の主な原因は、これらのCPUの電力設定にある。
電力設定と性能の関係
IntelのハイエンドCPUは、定格の最高消費電力設定(MTP, PL2)が253Wに設定されている。
これまでの多くの製品では、実質的に電力制限が解除された状態で出荷されていた。これは自動車に例えると、エンジンのレブリミッターが外され、無制限に回転数を上げられる状態に相当する。
このような設定下では、CPUは極めて高い性能を発揮し、ベンチマークテストで非常に高いスコアを記録する。しかし、この状態は持続的な使用には適さず、様々な不具合を引き起こす可能性がある。
現在の状況と対策
最近のアップデートにより、IntelはこれらのCPUの電力設定を定格の253Wに制限するよう対策を講じている。しかし、253Wという設定自体が非常に高い消費電力であり、自動車に例えると9000rpm程度の超高回転に相当する。このため、CPUの性能はかなりピーキーになり、安定性や持続性に課題が残る。
編集部のテスト結果
環境:
- Intel Core i7 14700KF(Intel Default Settings、PL2:253W)
- ASRock Z790 Pro RS/D4
- DeepCool LT720(360mm 簡易水冷)
- DDR4 3200MHz 32GB ×2
Cinebench R23 Multiスコアは約33000。
テスト開始直後から95℃まで上昇し、ベンチマーク終了まで温度を維持。
360mm簡易水冷クーラーでさえすぐに95℃に達することから、空冷クーラーでこのスコアを出すのは困難と言える。
AMD Ryzenシリーズとの比較
AMDのRyzen 9シリーズ(7900X、7950X、7900X3D、7950X3D)は、PPT(Package Power Tracking)を230Wに設定している。これは自動車に例えると約8000rpmに相当し、Intelと比べるとやや控えめだ。
最新のZEN5モデルでは、さらに消費電力が抑えられている。
- Ryzen 9 9900X:PPT 162W
- Ryzen 9 9950X:PPT 200W
これらは、乗用車の通常使用範囲である6500rpm程度に相当する。
- 温度や消費電力の管理が細かく行われ、高負荷時でも安定動作が可能。
- 初期から控えめな電力設定を採用。
- 消費電力を下げても性能低下が少なく、安定した高性能を維持。
ベンチマーク結果の解釈
多くのベンチマークテストは短時間で行われ、CPUの瞬間的な最大性能を測定している。IntelのCPUは短時間の高負荷状況下で非常に高い性能を示すが、実際の使用シーンでは長時間の安定した性能が求められる。ここでAMD Ryzenシリーズの優位性が現れる。
実際の使用感への影響
ゲーミング性能
長時間のプレイセッションでも安定した動作を維持できるAMD Ryzenシリーズ、特に3D-VCache搭載モデルは、低消費電力でありながら13,14世代Intel Core i9を凌駕する圧倒的なゲーム性能を発揮する。
クリエイティブワーク
動画編集や3DCG制作などの長時間高負荷処理が必要な作業では、AMDのRyzenシリーズが安定した性能を発揮し、作業効率の向上に貢献する可能性が高い。
消費電力と冷却の重要性:10℃2倍則の観点から
10℃2倍則(CPUの温度が10℃上昇するごとに劣化速度が約2倍になる)を考慮すると、消費電力と冷却の問題の重要性がより明確になる。
IntelハイエンドCPUの課題
- 高い消費電力(253W)により、強力な冷却システムが不可欠。
- 不十分な冷却で20℃高い温度で動作すると、理論上約4倍の速度で劣化が進む。
- 高性能冷却システムによるコスト増と騒音増加。
AMDのRyzenシリーズの利点
- 控えめな消費電力設定(最大でも230W)により冷却要件が低下。
- 10℃低い温度で動作できれば、理論上の劣化速度は半分に。
- 小型で静音性の高い冷却システムの使用が可能。
- 150W程の消費電力に抑えると性能を維持したまま発熱を下げることが可能
- curve optimizer機能で簡単に低電圧化が可能。(低電圧化により消費電力を下げ、発熱も下げられる)
まとめ:ベンチマークを超えた真の性能評価
- ベンチマークスコアは必ずしも実際の使用感を反映しない。
- IntelのハイエンドCPUは瞬間的な高性能を発揮するが、持続的な高負荷作業では課題がある。
- AMD Ryzenシリーズは、長時間の高負荷作業でも安定した性能を維持。
- 実使用では、瞬間的な最大性能よりも持続的な性能が重要な場合が多い。
CPUの選択は、ベンチマークスコアだけでなく、実際の使用目的、環境、長期的な性能、消費電力、冷却要件を総合的に評価することが重要だ。
長時間の高負荷作業や安定性を重視する場合はAMD Ryzenシリーズ、短時間の高負荷処理や瞬間的な性能が重要な場合はIntelのCPUも選択肢となる。最終的に、ユーザーの具体的なニーズに基づいた選択が、最適なシステム構築への道となるだろう。
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