AMDの最新CPUシリーズ「Ryzen 9000」において、一部ユーザーからCPU故障の報告が相次いでいる問題について、その原因の一端が明らかになりつつある。人気YouTuberの「Tech YES City」が公開した詳細な検証動画によると、ASRock製マザーボードではSOC電圧が動的に変動する挙動が確認され、これがCPU故障の一因となっている可能性があるとのこと。特にRyzen 9 9950XやRyzen 7 9800X3Dといった高性能モデルで故障事例が報告されており、多くのゲーマーやPCエンスージアストにとって見過ごせない問題となっている。
ASRock製マザーボードの特異な電圧挙動
Tech YES Cityによる検証では、ASRock、MSI、ASUS、GIGABYTEの4メーカーのX870Eマザーボードに同一のRyzen 7 9800X3D CPUを搭載し、各種負荷時における電圧挙動を徹底比較している。その結果、ASRock製ボードのみがSOC電圧の動的な変動を示すことが確認された。
他の3メーカーのマザーボードでは、アイドル状態、ゲームプレイ中、Cinebench実行時など、あらゆる負荷状態においてSOC電圧がほぼ一定値を維持している。特にASUS Crosshairボードは、テスト全体を通じてSOC電圧が完全に一定値(1.25V)を保っていた。
一方、ASRock製ボード(X870EおよびB850)では、SOC電圧が常に変動しており、最大で1.27Vという高い電圧まで上昇することが確認された。これは他メーカーのボードが保つ約1.2Vよりも明らかに高い値だ。
故障メカニズムの推測
動画内で示された仮説によれば、ASRockボードに見られる動的なSOC電圧の変化が、Ryzen 9000シリーズCPUの故障原因となっている可能性がある。特に問題となるのは、瞬間的に過大な電圧が要求され、それにマザーボードが応じてしまう場合だ。
通常、CPUが要求する電圧をマザーボードが供給するという仕組みになっているが、Ryzen 9000シリーズでは、BIOSコードや何らかの要因により、ごく短時間(マイクロ秒~ミリ秒レベル)で過大な電圧が要求され、それがCPUのSOC部分にダメージを与えている可能性がある。
興味深いのは、Ryzen 7000シリーズではこの問題が報告されていない点だ。このことから、Ryzen 9000シリーズでAMDが何らかの変更を加えた結果、ASRock製マザーボードとの組み合わせで問題が発生している可能性が示唆されている。
ユーザーができる対策
ASRock製マザーボードを使用しているRyzen 9000シリーズCPUユーザーに対して、暫定的な解決策が提案されている。それは、ASRockボードのBIOS設定にある「SOC OC Mode」を、「Auto」(デフォルト設定)から「Enabled」に変更するというものだ。
この設定変更により、SOC電圧が動的に変動する挙動が抑制され、他メーカーのマザーボードと同様に静的な電圧を維持できるようになる。Tech YES Cityはこの設定で数時間のテストを行い、SOC電圧が安定して推移することを確認している。
この設定変更により、稀に発生する過大な電圧要求を防ぎ、CPUの故障リスクを低減できる可能性があるとされている。
Ryzen 9000故障の実態
Reddit上では200件近いRyzen 9000シリーズCPUの故障報告があり、その多くがASRock製マザーボードとの組み合わせで発生している。故障したCPUは、メモリ1枚構成では動作する症状を示すことが多く、これはSOC部分(メモリコントローラを含む)に損傷が発生していることを示唆している。
また、故障したCPUのピンには特徴的な灰色のマークが見られるケースが報告されており、これも電気的な損傷の証拠と考えられている。
とはいえ、販売されたRyzen 9000シリーズCPU全体から見れば、故障事例は依然として非常に少数であり、極めて稀なケースであることも忘れてはならない。
今後の展望
今回の検証はあくまで予備的な段階であり、問題の原因がASRock製マザーボードにあるのか、それともAMD製CPU側の欠陥やバグにあるのかを明確に断定することはできない。しかし、特定のBIOS設定を変更することで回避できる可能性が示されたことは、多くのユーザーにとって朗報といえるだろう。
Tech YES Cityは、故障したRyzen 9 9950Xを交換し、元のASRockマザーボードに「SOC OC Mode」を「Enabled」に設定した状態で、長期的な安定性を検証していく予定だという。
ASRockはこの問題に対応するBIOSアップデートを提供する可能性があるが、それまでの間は、ASRock製マザーボードを使用するRyzen 9000シリーズCPUユーザーは、上記の設定変更を検討することが推奨される。
筆者のコメント
この問題を考える上で重要なのは、現時点で報告されている故障事例は全体から見ればかなり限定的だという点だ。Redditでの約200件の報告は、出荷された全Ryzen 9000シリーズから見れば極めて少数であり、大多数のユーザーは問題なく使用できている。
筆者自身もASRock製マザーボードとRyzen 9000シリーズの組み合わせで複数のシステムを構築してきたが、今のところ特別な問題は発生していない。これが統計的な偶然なのか、特定の条件下でのみ問題が起きるのかは判断が難しい。
ただし、Tech YES Cityが実証的に示したSOC電圧の動的な変動は、無視できない技術的な差異だ。これが直接的な故障原因かどうかは現時点で断定できないものの、「SOC OC Mode」を「Enabled」にするという簡単な対策を取っておくことで、潜在的なリスクを減らせる可能性がある。
この問題の責任がASRockにあるのか、AMDにあるのか、あるいは両者の相互作用によるものなのかは、さらなる調査が必要だ。Ryzen 7000シリーズでは同様の問題が報告されていないことを考えると、Ryzen 9000シリーズに特有の何かが関係している可能性も否定できない。
ゲーマーや自作PC愛好家としては、過度に恐れる必要はないが、情報収集と簡単な予防策を講じておくのが賢明だろう。ASRockとAMDの両社がこの問題を調査し、必要に応じてBIOSアップデートや公式な対応策を提供することを期待したい。それまでの間は、「SOC OC Mode」の設定変更という対策を検討しつつ、今後の展開を見守りたい。
※本記事はYouTuber「Tech YES City」の検証動画および各種ニュースソースの情報に基づいています。正式な解決策については各メーカーの公式発表をお待ちください。
※本記事はYouTuber「Tech YES City」の検証動画および各種ニュースソースの情報に基づいています。正式な解決策については各メーカーの公式発表をお待ちください。
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