Armが、NVIDIA陣営に正式に参加した。
スーパーコンピューティング2025(SC25)カンファレンスで、ArmはNVIDIAの 「NVLink Fusion」エコシステム への参加を発表した。これにより、ArmのNeoverse CPUを採用する顧客は、NVIDIA GPUと ネイティブに接続 できるようになる。Grace HopperやGrace Blackwellで実証された高性能、高帯域幅、高効率を、エコシステム全体に拡大するというのがArmの狙いだ。
NVIDIAのデータセンター製品マーケティング責任者によれば、「ArmはNVLink IPを統合することで、顧客がCPU SoCを構築し、NVIDIA GPUに接続できるようにする」という。つまり、Arm陣営の企業は、 NVIDIAのAIアクセラレーターエコシステムに直結する道 を手に入れたことになる。
しかし、興味深いのは、Armが 昨年、対抗規格の「UALink」コンソーシアムにも参加している ことだ。NVIDIAのNVLinkに対抗するために、AMD、Intel、Googleなどが結成したUALinkに、Armは既に名を連ねている。
つまり、Armは 両陣営に股をかけている のだ。これは賢明なリスクヘッジなのか、それとも優柔不断な日和見主義なのか。
目次
NVLink Fusionとは何か
まず、NVLink Fusionがどのような技術かを理解する必要がある。
NVLink Fusionは、NVIDIAが2025年5月に発表した CPUやアクセラレーターメーカーにNVLink技術をライセンス提供 する取り組みだ。これまでNVLinkは、NVIDIA製品間を接続する独自技術だったが、NVLink Fusionによって、サードパーティ製CPUやアクセラレーターもNVIDIA GPUと高速接続できるようになる。
NVLink Fusionの狙いは明確だ。NVIDIAは、自社GPUを AIインフラの中心 に据え、その周辺にCPUやアクセラレーターを配置するエコシステムを構築しようとしている。NVLink Fusionは、その生態系への「入場券」を提供することで、NVIDIA GPUの支配力をさらに強化する戦略だ。
ArmがNVLink Fusionに参加する意味
では、Armがこのエコシステムに参加することは、何を意味するのか。
Arm顧客への価値提供
Armは、CPUコアの設計をライセンス提供する企業だ。Amazon、Ampere、Marvellなど、多くの企業がArmのNeoverse CPUコアを使ってデータセンター向けCPUを開発している。
これらの企業がNVLink IPを統合すれば、 NVIDIA GPUとのシームレスな接続 が可能になる。これは、AI向けインフラを構築する上で大きな競争力となる。なぜなら、現在のAI市場では、NVIDIA GPUが圧倒的なシェアを持っており、それとの親和性が製品の魅力を左右するからだ。
NVIDIAとの競合回避
興味深いのは、Arm自身がCPU製品を販売しているわけではないことだ。Armはあくまで設計をライセンスする立場であり、 NVIDIAと直接競合しない 。
NVIDIAは、自社のGrace CPUでArmアーキテクチャを採用している。つまり、ArmとNVIDIAは 相互に依存する関係 にある。この点で、ArmがNVLink Fusionに参加することは、両社にとってWin-Winの関係を強化する動きといえる。
エコシステムの拡大
Armの参加は、NVLink Fusionエコシステム全体の拡大にもつながる。Armのライセンシーが増えれば増えるほど、NVLink対応製品が市場に増え、NVIDIAの影響力も拡大する。
これは、NVIDIAが目指す 「NVIDIA中心のAIインフラ」 という構想を後押しする動きだ。
しかし、Armは両陣営に参加している
ただし、Armの戦略で注目すべきは、 NVIDIAの競合陣営にも参加している ことだ。
UALinkコンソーシアムとは
UALink(Ultra Accelerator Link)は、AMD、Intel、Google、Meta、Microsoft、Broadcomなどが2024年に結成したコンソーシアムだ。その目的は、 NVIDIAのNVLinkに対抗するオープンな相互接続規格を策定すること だ。
NVIDIAの独占的な地位に危機感を抱いた業界大手が、 代替規格 を推進している。Armは、このUALinkにも参加している。
両陣営に股をかける戦略
つまり、Armは以下のような状況にある。
一方では、NVIDIAのNVLink Fusionに参加し、NVIDIA GPUとの統合を推進している。他方では、NVIDIAに対抗するUALinkにも参加し、代替規格の策定に協力している。
これは、 両陣営に保険をかけている とも、 優柔不断で立場を明確にしていない とも解釈できる。
リスクヘッジか、日和見主義か
Armの戦略をどう評価すべきか。
リスクヘッジとしての合理性
一つの見方は、 賢明なリスクヘッジ だというものだ。
現在、NVIDIA GPUが市場を支配している。しかし、AMD、Intel、その他のプレイヤーが巻き返す可能性もゼロではない。もしUALinkが成功し、業界標準となれば、NVLink一本に絞っていたArmは取り残される。
逆に、NVIDIAの支配が続けば、NVLink対応が不可欠だ。つまり、 どちらが勝っても対応できるよう、両方に参加しておく という戦略は、ビジネス的には合理的だ。
日和見主義としての懸念
一方で、 優柔不断な日和見主義 だという批判も可能だ。
両陣営に参加することで、どちらからも本気で信頼されない可能性がある。NVIDIAは「Armは本当に我々の陣営なのか」と疑問を持つかもしれないし、UALink陣営も「ArmはNVIDIAのスパイではないか」と警戒するかもしれない。
また、両方の規格に対応することで、 開発リソースが分散 し、どちらも中途半端になるリスクもある。
PCゲーマーへの影響
この動きは、我々PCゲーマーにとってどう影響するのか。
短期的には影響なし
正直に言えば、 短期的にはほとんど影響がない 。NVLink FusionやUALinkは、主にデータセンター向けのAIインフラに関連する技術であり、コンシューマー向けPCとは直接関係しない。
長期的には市場競争に影響
ただし、長期的には 半導体市場全体の競争構造 に影響を与える可能性がある。
もしNVIDIAの支配力がさらに強まれば、GPU価格は高止まりし、選択肢も限定される。一方、UALinkが成功し、競争が激化すれば、AMD、Intel、その他のプレイヤーが台頭し、我々にとっても恩恵がある。
Armがどちらの陣営を本気で支援するかによって、この競争の行方が変わる可能性がある。
結論:Armの戦略は成功するか
Armが両陣営に参加する戦略は、 リスクヘッジとしては合理的 だが、 どちらからも本気で信頼されないリスク を抱えている。
NVLink Fusionへの参加は、ArmのライセンシーにとってNVIDIA GPUへのアクセスを容易にし、短期的には大きなメリットがある。しかし、UALinkにも参加している以上、Armは どちらの陣営にも全力でコミットしていない という印象を与える。
成功するかどうかは、Armがこの微妙なバランスをどう保つかにかかっている。 両陣営から信頼を得つつ、どちらにも偏らない中立的な立場を維持できれば、Armは最終的な勝者となるかもしれない。しかし、中途半端な姿勢がどちらからも見放される結果になれば、Armは大きな機会を逃すことになる。
我々は、この駆け引きの行方を注視する必要がある。
筆者のコメント
両陣営に参加するというArmの戦略は、一見すると「保険をかけている」ように見える。しかし、AI市場の競争は極めて激しく、中途半端な姿勢は致命的になりかねない。
NVIDIAは、自社エコシステムへの全面的なコミットメントを求めるだろう。一方、UALink陣営も、本気で対抗するためには、参加企業の全力投球が必要だ。Armがどちらにも全力を尽くせるとは思えない。
結局のところ、Armは 「どちらが勝っても生き残る」 ことを優先している。これはビジネスとしては理解できるが、業界の進化を加速させる力にはならない。我々消費者にとっては、もっと明確な競争の方が望ましい。




















コメント