PCパーツの世界にも、時代の流れというものがある。
かつてIntelの独壇場だったCPU市場に、新たな風を吹き込んだAMD Ryzen。その波は、業界に思わぬ変化をもたらすことになった。
過去を振り返る:AMDが背負った十字架
「PCは Intel Inside」
この言葉が絶対の真理とされた時代があった。そう、つい数年前までの話である。当時のAMDユーザーは、こんな会話を経験したことがあるだろう。
「どんなPCを使ってるの?」
「AMDのCPUのやつ」
「あっ…(察し)」
この「あっ…(察し)」という反応。何とも言えない負の感情を込められた沈黙。AMDユーザーなら誰もが経験した屈辱の瞬間である。まるで「安物買いの銭失い」と言われているような気分だった。
特にFX8350を使っていた猛者たちは、心の奥深くに言いようのない思いを封印してきた。
当時としては画期的な8コアCPUでありながら、シングルコア性能の弱さから「コア数だけ無駄に多い」と揶揄され続けた日々。その屈辱を胸に秘めながら、黙々とマルチコア対応の未来を待ち望んでいたのだ。
逆転の狼煙:Ryzenの登場
2017年、AMDが放った一矢、それがRyzenである。マルチコア性能で圧倒的な優位性を見せつけ、価格性能比でIntelを完全に凌駕した。しかし、根強い偏見はそう簡単には消えなかった。
「でもやっぱりIntelの方が安心でしょ?」
「ドライバーの相性とか大丈夫なの?」
「発熱がヤバそう」
根拠なき偏見の数々。だが、Ryzen 5000シリーズ、7000シリーズと世代を重ねるごとに、その実力は否定しようのないものとなっていった。
歴史は繰り返す:今度はIntelが標的に
ところが最近、妙な風向きの変化を感じないだろうか。Intel第13世代、第14世代CPUの発熱問題や各種不具合、ベンチマーク詐欺が話題となり、かつてAMDが受けていた差別的な扱いが、今度はIntelに向けられ始めている。
「Intelは火力発電所or暖房器具」
「電気代がヤバい」
「不具合多すぎでしょ」
「ベンチマーク詐欺だろ」
どこかで聞いたような批判の数々。
そう、かつてAMDが受けていた批判と、実に良く似ているのだ。
我々が学ぶべきこと
この現象から学ぶべきことは明確である。どちらのメーカーも、常に切磋琢磨しながら技術革新を続けている。
一時的な優劣は確かにあるが、それを必要以上に誇示したり、貶めたりする必要はない。
結局のところ、大切なのは自分の用途に合った製品を選ぶことである。
発熱が気になるなら適切な冷却対策を、コスパを重視するなら価格性能比を、という具合に。
おわりに
技術の世界に「永遠の覇者」などいない。今日の王者が明日には追われる身となるのが、この業界の面白さでもある。
メーカー間の健全な競争は、私たちユーザーにとって大きな恩恵となる。
だからこそ、不必要な偏見や差別は捨て、冷静な目で製品を評価できる消費者でありたいものだ。
そうそう、AMDユーザーの皆さん。かつての「あっ…(察し)」をネタにできる日が来て、ホッとしているでしょう?
でも、今度はIntelユーザーの気持ちも少しは分かってあげてくださいね。
コメント