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AMD、Instinct MI430Xを発表。HBM4メモリ432GB搭載でHPC・Sovereign AI向け、NVIDIAに対抗

AMDが、NVIDIAとのAI覇権争いにおいて、新たな一手を打った。

AMDは Instinct MI430X AIアクセラレーターを発表した。このチップは、 次世代CDNAアーキテクチャ(CDNA 5) を採用し、 HBM4メモリ432GB と メモリ帯域幅19.6TB/s を搭載する。AMDは、これを 「リーダーシップパフォーマンス」 を提供するチップと位置づけている。

MI430Xは、従来のMI355Xの後継ではない。AMDは、これを MI300Aの「真の後継」 と呼んでいる。つまり、 HPC(High Performance Computing:ハイパフォーマンスコンピューティング)とSovereign AI(自国主権AI) に特化した製品だ。

最大の特徴は、 ハードウェアベースのFP64演算能力 と ハイブリッド演算(CPU+GPU) を搭載していることだ。これにより、科学技術計算とAIワークロードを同時に高速処理できる。従来のAI専用アクセラレーターとは異なり、 汎用性と性能を両立 している。

既に、米国政府の次世代Exascaleスーパーコンピューター 「Discovery」 と、ヨーロッパのExascaleクラスシステム 「Alice Recoque」 での採用が決定している。これらのシステムは、次世代AMD EPYC「Venice」CPUと組み合わせて使用され、 大規模AIモデルのトレーニング、ファインチューニング、デプロイ を可能にする。

AMDは、2026年にMI400シリーズ(MI455XとMI430X)を投入し、2027年にはMI500シリーズで 次の大きな飛躍 を目指している。NVIDIAの独占に挑む、AMDの戦略が具体化しつつある。

Instinct MI430Xの仕様:HBM4で19.6TB/sを実現

まず、MI430Xの技術仕様を確認する必要がある。

HBM4メモリ432GB搭載

MI430Xは、 HBM4メモリを432GB 搭載する。

HBM4は、次世代の高帯域幅メモリで、HBM3やHBM3Eよりもさらに高速かつ大容量だ。432GBという容量は、大規模AIモデルや科学技術計算に十分な余裕を提供する。特に、数百億パラメーター規模のAIモデルをメモリ上に展開し、高速に処理できる。

メモリ帯域幅19.6TB/s

メモリ帯域幅は 19.6TB/s だ。

これは、GPUコアとメモリ間のデータ転送速度を示す。AI処理や科学技術計算では、膨大なデータをメモリから読み込み、処理結果を書き戻す。帯域幅が広ければ広いほど、この処理が高速化される。19.6TB/sは、現行のHBM3E搭載GPUを大きく上回る性能だ。

次世代CDNAアーキテクチャ(CDNA 5)

MI430Xは、 次世代CDNAアーキテクチャ を採用している。

AMDによれば、これは CDNA 5 である可能性が高い。CDNAは、AMDのデータセンター向けGPUアーキテクチャで、AI・HPC向けに最適化されている。CDNA 5は、前世代のCDNA 3(MI300シリーズ)から大幅に進化し、演算効率とメモリ効率が向上していると予想される。

ハードウェアベースFP64演算能力

MI430Xの重要な特徴は、 ハードウェアベースのFP64演算能力 を搭載していることだ。

FP64(倍精度浮動小数点演算)は、科学技術計算で必須の演算だ。気象シミュレーション、分子動力学、流体力学など、高精度な計算が必要な分野では、FP64が使用される。一方、AI処理では通常、FP16やFP8といった低精度演算が使われる。

MI430Xは、FP64をハードウェアで直接サポートすることで、 科学技術計算とAI処理の両方で高性能 を発揮する。これは、AI専用アクセラレーターにはない強みだ。

ハイブリッド演算(CPU+GPU)

さらに、MI430Xは ハイブリッド演算(CPU+GPU) をサポートする。

これは、MI300Aで導入された技術で、CPUとGPUを同一パッケージに統合し、両者が密接に連携して処理を行う。CPUが得意なシリアル処理とGPUが得意な並列処理を組み合わせることで、ワークロード全体の効率が向上する。

MI430Xも、この技術を継承し、さらに進化させている可能性が高い。

MI300Aの「真の後継」という位置づけ

AMDは、MI430Xを MI300Aの「真の後継」 と呼んでいる。

MI300Aとは何か

MI300Aは、AMDのAPU(Accelerated Processing Unit)型AIアクセラレーターだ。

CPUとGPUを同一パッケージに統合し、HBM3メモリを共有する。これにより、CPU-GPU間のデータ転送が高速化され、特定のワークロードで高い性能を発揮する。

MI300Aは、米国の Exascaleスーパーコンピューター「El Capitan」 に採用され、 大規模な成功 を収めた。El Capitanは、世界最高峰のスーパーコンピューターの一つであり、核兵器シミュレーションやエネルギー研究に使用されている。

MI430XはMI300Aの進化版

MI430Xは、MI300Aの設計思想を継承しつつ、大幅に強化されている。

HBM4メモリへの移行により、容量と帯域幅が向上した。次世代CDNAアーキテクチャにより、演算性能も向上している。そして、ハイブリッド演算能力により、 HPC・Sovereign AIワークロードに最適化 されている。

HPC・Sovereign AIに特化

MI430Xは、 HPC(High Performance Computing)とSovereign AI(自国主権AI) に特化している。

Sovereign AIとは、各国が自国のデータとAIモデルを自国内で管理・運用する概念だ。セキュリティや主権の観点から、重要なAI処理を外部のクラウドサービスに依存せず、自国のインフラで行う動きが加速している。

MI430Xは、こうした需要に応えるため、 高性能かつ汎用性のあるアクセラレーター として設計されている。

主要な採用事例:米国とヨーロッパのExascaleシステム

MI430Xは、既に複数の大規模プロジェクトでの採用が決定している。

米国政府「Discovery」スーパーコンピューター

米国政府の次世代Exascaleスーパーコンピューター 「Discovery」 は、MI430Xを採用する。

Discoveryは、HPE Cray GX5000スーパーコンピューティングプラットフォームを使用し、AMD Instinct MI430X GPUと次世代AMD EPYC「Venice」CPUを組み合わせる。このシステムにより、 米国の研究者は大規模AIモデルのトレーニング、ファインチューニング、デプロイを行い、エネルギー研究、材料科学、生成AIの分野で科学計算を推進 できる。

Discoveryは、米国のSovereign AI戦略の中核を成すシステムであり、MI430Xの性能と信頼性が評価された結果だ。

ヨーロッパ「Alice Recoque」Exascaleシステム

ヨーロッパのExascaleクラスシステム 「Alice Recoque」 も、MI430Xを採用する。

Alice Recoqueは、Evidenの最新BullSequana XH3500プラットフォームを使用し、AMD Instinct MI430X GPUと次世代AMD EPYC「Venice」CPUを統合する。このシステムは、 倍精度HPCとAIワークロードの両方で優れた性能 を提供する。

ヨーロッパも、Sovereign AIの観点から自国のAIインフラを強化しており、MI430Xはその重要な構成要素となる。

次世代EPYC「Venice」との組み合わせ

これらのシステムは、いずれも 次世代AMD EPYC「Venice」CPU と組み合わせて使用される。

VeniceはZen 6アーキテクチャを採用し、2nmプロセスで製造される次世代サーバーCPUだ。AMDのCEO Lisa Su氏は、2025年第3四半期の決算説明会で、VeniceとMI400シリーズが 2026年に同時リリース されることを確認している。

MI430XとVeniceの組み合わせにより、 CPUとGPUが最適に連携 し、HPC・AIワークロード全体の性能が最大化される。

MI400シリーズとMI500シリーズのロードマップ

AMDは、MI430Xを含むMI400シリーズを2026年に投入し、2027年にはMI500シリーズで次の飛躍を目指している。

MI400シリーズ:MI455XとMI430X

MI400シリーズには、 MI455X と MI430X の2つのモデルがある。

MI455Xは、AI推論・トレーニングに特化したモデルで、MI325Xの後継だ。一方、MI430Xは、HPC・Sovereign AI向けで、MI300Aの後継だ。AMDは、用途に応じて2つのモデルを提供することで、 市場の幅広いニーズに対応 する。

両モデルとも、HBM4メモリを搭載し、次世代CDNAアーキテクチャを採用する。これにより、 NVIDIAのBlackwell(GB200など)に対抗 する。

2026年リリース予定

AMDのCEO Lisa Su氏は、MI400シリーズが 2026年にリリース されることを確認している。

具体的な時期は明示されていないが、2026年前半から中盤にかけて市場投入される可能性が高い。この時期は、NVIDIAの次世代アーキテクチャRubin(2026年予定)とも競合する。

MI500シリーズ:2027年の大きな飛躍

AMDは、2027年に MI500シリーズ をリリースする計画だ。

MI500シリーズは、 次の大きな飛躍 と位置づけられており、さらに進化したアーキテクチャとメモリ技術を採用すると予想される。HBM5メモリや、さらなる演算効率の向上が期待される。

AMDは、年次リリースサイクルを確立し、 NVIDIAに追いつき、追い越す 戦略を進めている。

NVIDIAとの競争:Sovereign AI市場の奪取

MI430Xの発表は、AMDのNVIDIA対抗戦略の一環だ。

NVIDIAの独占状態

現在、AI向けGPU市場はNVIDIAが独占している。

NVIDIA H100、H200、そして最新のBlackwellアーキテクチャ(GB200など)は、AI処理において圧倒的な性能を誇る。多くの企業やクラウドプロバイダーがNVIDIA製品に依存しており、AMDの市場シェアは限定的だ。

Sovereign AI市場はAMDのチャンス

しかし、 Sovereign AI市場 は、AMDにとってチャンスだ。

各国政府や公共機関は、セキュリティや主権の観点から、自国内でAIインフラを構築しようとしている。この市場では、単なる性能だけでなく、 信頼性、サポート、長期的なパートナーシップ が重視される。

AMDは、米国政府やヨーロッパ政府との関係を強化し、MI430Xをこれらの市場に投入することで、 NVIDIAの独占を崩す 可能性がある。

HPC市場での実績

AMDは、HPC市場で既に実績がある。

El CapitanやFrontierといったExascaleスーパーコンピューターは、AMD製品を採用し、世界最高峰の性能を達成している。この実績は、MI430Xの信頼性を裏付ける。

HPC市場で培った技術とパートナーシップを、AI市場に展開する――これが、AMDの戦略だ。

PCゲーマーへの影響

MI430Xは、データセンター向けAIアクセラレーターであり、PCゲーマーに直接的な影響はない。

しかし、 間接的な影響 はある。

AMDのリソースがデータセンターに集中

AMDがデータセンター向けAI製品に注力すれば、 コンシューマー向けGPU(Radeon)へのリソースが削減される 可能性がある。

既に、AMDはRadeon RX 9000シリーズでハイエンド市場から撤退し、ミドルレンジに注力している。この傾向が続けば、コンシューマー向けGPUのイノベーションが停滞する可能性がある。

HBM4生産能力の奪い合い

MI430XはHBM4メモリを大量に使用する。

もし今後、コンシューマー向けGPUにもHBM4が採用される場合(可能性は低いが)、AMDのデータセンター製品と HBM4生産能力を奪い合う ことになる。その結果、コンシューマー向けGPUの供給が制限されるかもしれない。

しかし、AMDの財務健全化は長期的にプラス

一方で、AMDがデータセンター市場で成功し、収益を拡大すれば、 財務が健全化 する。

これにより、AMDは研究開発に投資し、長期的にはコンシューマー向けGPUにも恩恵がある。また、AMDがNVIDIAと競争することで、GPU市場全体の競争が活性化し、 価格が適正化される 可能性もある。

結論:AMDのNVIDIA対抗戦略が具体化

AMD Instinct MI430Xの発表は、 AMDのNVIDIA対抗戦略が具体化 したことを示している。

HBM4メモリ432GB、メモリ帯域幅19.6TB/s、次世代CDNAアーキテクチャ、ハードウェアベースFP64演算、ハイブリッド演算――これらの仕様は、 HPC・Sovereign AI市場でのリーダーシップ を目指すAMDの野心を反映している。

米国政府の「Discovery」とヨーロッパの「Alice Recoque」での採用は、 AMDの技術力と信頼性が評価された証 だ。これらのプロジェクトが成功すれば、AMDは他の政府機関や公共機関にも製品を展開できる。

2026年のMI400シリーズ、2027年のMI500シリーズ――AMDは年次リリースサイクルを確立し、NVIDIAに追いつこうとしている。 この戦いは、今後数年間、AI・HPC市場を形作る重要な要素となる。

我々は、AMDの挑戦を見守るべきだ。 NVIDIAの独占が崩れれば、市場は活性化し、イノベーションが加速する。それは、最終的に全てのユーザーにとって利益となる。

筆者のコメント

MI430Xの仕様は、技術的に非常に興味深い。

特に、 ハードウェアベースFP64演算とハイブリッド演算の組み合わせ は、AI専用アクセラレーターにはない強みだ。NVIDIAのH100やGB200は、AI処理に特化しているが、FP64性能は限定的だ。一方、MI430Xは、 科学技術計算とAI処理の両方で高性能 を発揮できる。

これは、HPC・Sovereign AI市場において決定的な差別化要因となる可能性がある。政府機関や研究機関は、単一のシステムで多様なワークロードを処理したいと考える。MI430Xは、その要求に応える。

ただし、 ソフトウェアエコシステムが鍵 だ。NVIDIAのCUDAは、業界標準として確立されており、多くの開発者やツールがCUDAに依存している。AMDのROCmは、改善が進んでいるが、まだCUDAに及ばない。

AMDが真にNVIDIAと競争するには、 ハードウェアだけでなく、ソフトウェアとエコシステム全体で勝負 する必要がある。それが実現できれば、AMDの未来は明るい。

個人的には、競争が激化することを歓迎する。独占は、イノベーションを停滞させる。AMDが挑戦者として存在することで、NVIDIAも進化を続け、市場全体が前進する。

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