記事内にPRが含まれています。

【2026年1月】Qualcommの2nmチップ製造委託とSamsung内部の戦略的なジレンマ

2026年1月のCES会場で、Qualcommの最高経営責任者クリスティアーノ・アモン氏が重要な発表を行いました。

同社が次世代フラッグシップチップの製造にSamsungファウンドリの2nmプロセスの利用を検討しているというものです。

この動き斜陽とも考えられるSamsungファウンドリにとって大きな勝利である一方、実は同社のシステムLSI部門で開発されている自社製SoC「Exynos」との間に新たな課題をもたらす可能性があります。

Exynosプロセッサ | サムスン半導体日本
Samsung Exynosプロセッサは、PC、モバイル、IoT、モデム、RFに究極のパフォーマンスと電力効率のソリューションを提供します。
Exynos - Wikipedia

Qualcommが狙う2nm製造とデュアルファウンドリ戦略

業界報道によると、Qualcommは次期Snapdragonチップ、通称Snapdragon 8 Elite Gen 6の製造において、TSMCに加えてSamsungの2nmプロセスの利用を真剣に検討しています。QualcommのアモンCEOは「複数のファウンドリ企業の中で、まずSamsung Electronicsと最新の2nmプロセスを使った契約製造について協議を開始した」と述べ、チップ設計はすでに完了していると明かしました。

この背景には、Qualcommが長年追求してきたデュアルファウンドリ戦略があります。単一の製造委託先に依存することのリスクを分散し、価格交渉力を維持するため、複数のファウンドリを活用する方針です。

現在、AI需要の爆発的増加によりTSMCの製造能力は逼迫しており、同社の2nmウェハー価格は1枚あたり3万ドルに達すると報じられています。一方、Samsungは2万ドル程度で提供できるとされ、約33%のコスト優位性を持っています。Qualcommにとって、技術要件を満たすSamsungの2nmプロセスは、TSMC依存度を下げる絶好の機会となります。

Samsungファウンドリの復活とExynos開発への影響

Samsungファウンドリにとって、Qualcommからの受注は収益面でも技術力の証明という点でも大きな意味を持ちます。同社は2025年7月にTeslaから総額165億ドルのAI6チップ製造契約を獲得しており、2nmプロセス技術への信頼を取り戻しつつあります。

しかし、この成功は社内のシステムLSI部門、つまりExynos開発チームにとっては複雑な状況を生み出します。

限られた製造キャパシティの配分問題

最先端の2nmプロセスの生産能力は、立ち上げ初期段階では極めて限定的です。報道によれば、SamsungはファウンドリのHwaseong S3工場の生産能力の約10%をQualcommのSnapdragon 8 Elite Gen 6製造に割り当てる計画とされています。

企業全体の利益を考えれば、外部から巨額の収益をもたらすQualcommの注文を優先するのは合理的な判断です。その結果、同じ製造ラインを使用する予定の自社製チップExynos 2600は、生産枠の確保が課題となる可能性があります。

実際、最新の報道によると、Galaxy S26シリーズにおけるExynos 2600の搭載比率は約25%に留まり、残りの約75%はQualcommのSnapdragon 8 Elite Gen 5が採用される見込みです。これは製造キャパシティの制約も一因と考えられます。

エンジニアリングリソースの集中

製造ラインだけでなく、技術リソースの配分も課題となります。Qualcommのような大口顧客に対応するためには、ファウンドリのトップエンジニアたちが歩留まり改善やプロセス最適化に注力する必要があります。

報道によれば、Samsung 2nmプロセスの歩留まりは2025年11月時点で37%でしたが、2026年1月には50%まで改善されました。この改善には相当な技術リソースが投入されたと推測されます。

結果として、Exynos向けのプロセス最適化に割けるリソースが減少する可能性があり、Exynosの競争力向上が遅れるリスクがあります。

Galaxy戦略への影響

この状況は、SamsungのスマートフォンMX事業部の戦略にも影響を与えます。

これまでSamsungは、Galaxyフラッグシップシリーズにおいて地域によってSnapdragonとExynosを使い分ける戦略をとってきました。これはコスト削減だけでなく、Qualcommに対する価格交渉力を維持する狙いもありました。

しかし、Samsungファウンドリの2nmラインがQualcommの注文で埋まれば、次世代GalaxyシリーズにExynos 2600を十分な数量供給することが困難になる可能性があります。実際、Galaxy S26シリーズでは、最上位機種のS26 Ultraが全世界でSnapdragon 8 Elite Gen 5のみを搭載し、ExynはS26とS26 Plusの特定市場向けに限定される計画です。

さらに、2026年後半に発売予定のGalaxy Z Fold 8やGalaxy Z Flip 8といった折りたたみスマートフォンにも、Samsung製造の2nm Snapdragonチップが採用される可能性が報じられています。

ファウンドリ事業優先がもたらす戦略的選択

Samsungは現在、重要な戦略的選択を迫られています。ファウンドリ事業を優先してQualcommなど外部顧客からの収益を最大化するか、自社チップブランドExynosの競争力強化を優先するかという選択です。

財務的には、外部受注を優先する方が短期的な収益性は高まります。Tesla、Qualcomm、さらにAMDやGoogleといった大口顧客からの受注は、長年赤字に苦しんできたファウンドリ事業の黒字化に貢献します。

一方で、Exynosブランドを縮小すれば、Qualcommへの交渉力が低下し、長期的にはチップ調達コストが上昇するリスクもあります。また、自社で最先端チップを設計・製造できる垂直統合の強みを失うことにもなります。

消費者と業界への影響

この動向は、スマートフォン愛好家や業界に二つの側面で影響を与えます。

ポジティブな側面

Samsungが第2の製造拠点となることで、次世代Snapdragonの供給不足リスクが軽減され、搭載デバイスの価格安定化が期待できます。また、Exynos搭載モデルとSnapdragon搭載モデルの性能差に悩まされてきた一部市場のユーザーにとって、より一貫した製品体験が得られる可能性があります。

懸念される側面

一方で、Exynosがハイエンド市場から撤退すれば、Android向けフラッグシップSoC市場におけるQualcommの支配力が強まります。実質的な競合がMediaTekのみとなる可能性があり、長期的には技術革新の停滞や価格上昇を招く恐れがあります。

報道によると、2nmプロセスで製造されるSnapdragon 8 Elite Gen 6 Proは1個あたり300ドルを超える可能性があり、これはフラッグシップスマートフォンの総製造コストの約3分の1を占める水準です。競争が減少すれば、こうしたコスト上昇が消費者価格に転嫁されやすくなります。

まとめ:2026年の戦略的岐路

2026年1月現在、QualcommとSamsungの協議はまだ正式契約には至っていません。しかし、両社の交渉は「デザイン完了」段階にあり、商用化は近い将来に予定されています。

Samsungが「ファウンドリビジネスの成功」を取るか、「自社チップブランドの競争力維持」を取るか。この選択は同社の半導体戦略の将来を大きく左右します。

現時点では、Samsungは両立を目指しているように見えます。Exynos 2600を一部Galaxy機種に搭載しながら、同時にファウンドリ事業を拡大する戦略です。しかし、製造キャパシティとエンジニアリングリソースが限られる中、この両立が持続可能かどうかは、今後の歩留まり改善と製造能力拡張のスピードにかかっています。

2026年の半導体業界は、この巨大企業の社内調整と戦略的決断、そしてファウンドリ市場におけるTSMC、Samsung、そして将来的にはIntelを含めた新たな競争構図に注目が集まることになるでしょう。

コメント

タイトルとURLをコピーしました