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「本当のシングル性能」の正体。Cinebenchという“部分点”に騙されるな【完結編】

前編では「Cinebench=シングル性能」という図式が、いかに乱暴で実態と乖離しているかを解説した。
すると、当然の疑問が湧くはずだ。

「じゃあ、本当のシングル性能は何を見れば分かるんだ?」

今回はその問いに、技術的な裏付けと決定的な答えを提示する。
これを読めば、Core Ultra 9 285Kのような最新CPUのレビュー記事を見た際、グラフの矛盾がすべて氷解するはずだ。

「シングル性能」という言葉の解像度を上げろ

まず、あなたの脳内にある「シングル性能」という言葉をアップデートしてほしい。
シングル性能とは、1つの数字で表せる単純なパラメータではない。以下の要素が複雑に絡み合った結果だ。

  1. クロック周波数(エンジンの回転数)
  2. IPC(1回転あたりの仕事量)
  3. FPU性能(浮動小数点演算/レンダリング等の複雑な計算)
  4. ALU性能(整数演算/ゲームロジック等の単純計算)
  5. 分岐予測とキャッシュ(データの待ち時間を消す能力)

ここが最重要ポイントだ。
Cinebenchは、この中の「3. FPU性能」だけを極端に切り取っている。

なぜ「スコアが高いのにゲームが遅い」が起きるのか

「CinebenchのスコアはIntelが圧勝なのに、ゲームのフレームレートはRyzenが上」
最新のCore Ultra 200Sのレビューを見て、不思議に思ったことはないだろうか?

理由は明白だ。競技種目が違うからだ。

  • Cinebench (重量挙げ)
    連続したデータを、予測しやすい順番で、ひたすら計算する。
    ここでは「クロックの高さ」と「FPUの暴力」がモノを言う。Intelが得意なのは当然だ。
  • 実ゲーム・OS操作 (障害物競走)
    プレイヤーの操作に合わせて処理がランダムに変わる。「次はAか? Bか?」という条件分岐の連続だ。
    ここでモノを言うのは、計算力よりも「分岐予測の賢さ」と「キャッシュの応答速度(レイテンシ)」だ。

Ryzen(特にX3D)がCinebenchで負けてもゲームで最強なのは、この「障害物(分岐ミスとメモリ待ち)」を回避する能力が異常に高いからだ。
逆に言えば、Cinebenchしか見ないということは、
「重量挙げの選手を障害物競走に送り込んで、遅いと文句を言っている」のと同じである。

じゃあ、何を見れば「真の性能」が分かるのか?

「万能なシングル性能」など存在しない。あるのは「用途への適性」だけだ。
脳死でCinebenchを見るのをやめ、以下の3つを使い分けろ。

1. 日常・実務のキビキビ感を知りたいなら

👉 Geekbench 6 Single-Core を見ろ。

Geekbenchは、整数演算(文字処理、圧縮、HTML解析など)の比重が高い。
これはOSの挙動やブラウザの操作感に直結する。
ここでRyzenとIntelが拮抗、あるいはRyzenが上回っているなら、日常使いの体感は間違いなくRyzenの方が「速い」。

2. ゲーム性能を知りたいなら

👉 実ゲームの「1% Low FPS」 と 「低解像度検証」 を見ろ。

GPUの負荷が軽いフルHD設定などで、FPSがどこまで伸びるか。それがCPUの純粋な「描画命令を出す速度」だ。
また、平均FPSではなく「1% Low(最低FPS)」を見ること。ここが低いCPUは、数値上は速くても「カクつき(スタッター)」を感じる。
キャッシュ構造に優れたCPU(Ryzen X3D等)は、ここが劇的に強い。

3. クリエイティブ性能を知りたいなら

👉 PugetBench や Blender の実測タイムを見ろ。

「レンダリング」ならCinebench通りIntelが速いかもしれない。
だが、「Photoshopのフィルター処理」や「Premiereのプレビュー」は、整数演算やメモリ性能も絡む。
「合成スコア」ではなく「秒数」を見ろ。 それが唯一の真実だ。

【結論】ベンチマーク比較の決定版

最後に、迷える子羊たちのために「見るべき指標の対照表」を置いておく。

用途あなたが見るべきベンチマーク注目すべきCPU特性
動画・CGレンダリングCinebench R23 / 2024FPU性能・高クロック (Intelが得意)
Web・Office・普段使いGeekbench 6 (Single)整数演算・IPC (Ryzen有利な傾向)
FPS・競技ゲーム実ゲームの1% Low FPS大容量キャッシュ・低レイテンシ (Ryzen X3D一強)
総合的な判断上記すべてを見る偏りを知った上で選ぶ

筆者のコメント

Cinebenchは優秀なソフトだ。だが、それはあくまで「Cinema 4D」という特定アプリの性能指標に過ぎない。
それを「CPUの全性能」であるかのように崇めるのは、もはや宗教だ。

「Cinebench Singleが高い=最強」という思考停止を捨てろ。
その数字は、あなたのExcelを速くしないし、あなたのエイムを良くしてくれないかもしれない。

Core Ultra 200Sが良いCPUか、Ryzen 9000が良いCPUか。
その答えは、ベンチマークスコアの中ではなく、「あなたがPCで何をするか」という用途の中にしかない。

賢い自作erとは、高いスコアのパーツを買う人ではない。
「自分に必要な数字」を選び取れる人のことだ。

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