Intelが、次の一手を明らかにした。
2026年に投入予定の 「Arrow Lake Refresh」 ――Core Ultra 290K Plus、270K Plus、250K Plusといったラインナップのスペックがリークされ、その詳細が見えてきた。
主な改善点は以下の通りだ
- クロック速度が100MHz向上
- E-coreの増加(特にミドルレンジモデル)
- メモリサポートの強化
- TDPは据え置き
一見すれば、順当な進化に見える。しかし、 この「小幅改善」で、AMDの猛攻に対抗できるのか という疑問が残る。
現在、AMDはデスクトップ市場で33.6%のシェアを獲得し、Intelを確実に追い込んでいる。その中で、Intelが提示したのは 「Refresh」 ――つまり、 新アーキテクチャではなく、既存設計の改良版 だ。
これは、Intelの復活への一歩となるのか。それとも、時間稼ぎに過ぎないのか。冷静に分析する必要がある。
目次
Arrow Lake Refreshのスペック詳細
まず、リークされたスペックを整理しよう。
Core Ultra 9 290K Plus
| 項目 | Core Ultra 9 285K(現行) | Core Ultra 9 290K Plus(Refresh) |
|---|---|---|
| コア構成 | 8P+16E | 8P+16E(変更なし) |
| 最大クロック | 5.7 GHz(Thermal Velocity Boost) | 5.8 GHz(+100MHz) |
| P-coreターボ | 5.5 GHz | 5.6 GHz(推定) |
| TDP(PL1/PL2) | 125W / 250W | 125W / 250W(変更なし) |
| メモリサポート | DDR5-6400 | DDR5-7200 |
Core Ultra 7 270K Plus
| 項目 | Core Ultra 7 265K(現行) | Core Ultra 7 270K Plus(Refresh) |
|---|---|---|
| コア構成 | 8P+12E | 8P+16E(E-core +4) |
| 最大クロック | 5.5 GHz | 5.5 GHz(変更なし) |
| P-coreターボ | 5.4 GHz | 5.4 GHz(推定) |
| TDP(PL1/PL2) | 125W / 250W | 125W / 250W(変更なし) |
Core Ultra 5 250K Plus
| 項目 | Core Ultra 5 245K(現行) | Core Ultra 5 250K Plus(Refresh) |
|---|---|---|
| コア構成 | 6P+8E | 6P+12E(E-core +4) |
| P-coreターボ | 5.2 GHz | 5.3 GHz(+100MHz) |
| E-coreターボ | 4.6 GHz | 4.7 GHz |
| TDP(PL1/PL2) | 125W / 159W | 125W / 159W(変更なし) |
この表から分かることは
- フラッグシップ(290K Plus): クロックのみ向上、コア数は変わらず
- ミドルレンジ(270K Plus、250K Plus): E-coreが4個増加
- 全モデル: TDPは据え置き
つまり、 大幅な性能向上ではなく、細かな改良の積み重ね だ。
この改善で何が変わるのか
では、これらの改善が実際のパフォーマンスにどう影響するのか。
1. クロック100MHz向上の効果
100MHzのクロック向上は、シングルスレッド性能に 約2〜3%の向上 をもたらす可能性がある。
しかし、これは誤差の範囲に近い。ゲーミング性能で言えば、 数fps程度の差 にしかならないだろう。
2. E-core増加の意義
270K Plusと250K Plusで、E-coreが4個増えた。
これは、 マルチスレッド性能の向上 につながる。動画編集、レンダリング、配信といった用途では、恩恵があるだろう。
しかし、 ゲーミング性能への影響は限定的 だ。なぜなら、多くのゲームはP-coreの性能に依存しており、E-coreの増加はほとんど影響しないからだ。
3. メモリサポートの強化
詳細は不明だが、DDR5の高速メモリサポートが強化される可能性がある。
これは、 メモリボトルネックが発生するシーンでの性能向上 につながる。ただし、一般的なゲーミング用途では、DDR5-6400で十分であり、これ以上の高速化の恩恵は薄い。
4. TDP据え置きの意味
TDPが変わらないことは、 電力効率が向上している ことを示唆する。
同じ消費電力で、より高いクロックとより多くのコアを動かせるのであれば、これはIntelの製造プロセス改善の成果と言えるだろう。
しかし、AMDとの差は埋まるのか
ここで重要な問いがある: この改善で、AMDに対抗できるのか?
AMDの現状
現在、AMDは以下の強みを持っている
- Ryzen 9000シリーズ(Zen 5): 高い電力効率とマルチスレッド性能
- X3Dモデル: 圧倒的なゲーミング性能(Ryzen 7 9800X3Dなど)
- AM5プラットフォーム: 長期サポートによる信頼性
- 価格競争力: 同価格帯でIntelを上回る性能
IntelのArrow Lake Refreshの立ち位置
Arrow Lake Refreshは、確かに改善されている。しかし
- ゲーミング性能: X3Dモデルには依然として及ばない可能性が高い
- マルチスレッド性能: E-core増加で改善するが、Zen 5の効率には劣るかもしれない
- 価格: 詳細不明だが、同等性能のAMD製品より高価になる可能性
- プラットフォーム: 2026年後半にはNova Lake(新ソケット)が控えており、長期サポートに疑問
つまり、 Arrow Lake Refreshは「悪くはない」が、「決定打」にはならない だろう。
2026年という時期の問題
さらに重要なのは、 Arrow Lake Refreshが投入される「2026年」 という時期だ。
AMDのロードマップ
2026年には、AMDも次の一手を打ってくるだろう
- Zen 6(2026年): 新アーキテクチャによる性能向上
- 次世代X3Dモデル: さらなるゲーミング性能の向上
- AM5の継続サポート: ユーザーは安心してアップグレード可能
Intelの課題
一方、Intelは
- Arrow Lake Refreshは「Refresh」: 新アーキテクチャではない
- Nova Lake(2026年後半): 新ソケット(LGA-1954)への移行が控えている
- プラットフォーム分断: Arrow Lake Refreshを買っても、Nova Lakeへのアップグレードはできない
つまり、 2026年前半にArrow Lake Refreshを買うことは、「短命なプラットフォーム」に投資することを意味する 。
PCゲーマーにとっての意味
では、我々PCゲーマーは、Arrow Lake Refreshをどう見るべきか。
期待できる点
- 競争の継続: IntelがAMDに対抗し続けることで、市場の競争が維持される
- 選択肢の増加: Intel派のユーザーにとっては、改善された選択肢が得られる
- 価格への影響: Intelが価格競争力を持てば、AMD製品の価格も下がる可能性
懸念点
- 性能の伸びが小幅: 劇的な改善ではなく、現行モデルからの買い替え理由は薄い
- プラットフォームの短命さ: 2026年後半のNova Lake移行を考えると、投資価値に疑問
- AMDの方が魅力的: 同時期にZen 6が出るなら、そちらを選ぶ方が賢明かもしれない
結論:期待したいが、冷静に見極めるべき
IntelのArrow Lake Refreshは、 確実に改善されている 。
クロック向上、E-core増加、メモリサポート強化――これらは、全て前向きな変更だ。そして、何より IntelがAMDに対抗し続けようとしている姿勢 は評価に値する。
しかし、冷静に見れば、 これは「小幅改善」に過ぎない 。
AMDがZen 6で大きく飛躍する可能性がある中、Intelの「Refresh」がどこまで戦えるのかは未知数だ。また、2026年後半のNova Lakeへの移行を考えれば、 Arrow Lake Refreshは「つなぎ」の製品 という色合いが強い。
我々が取るべき姿勢は、期待しつつも、実際の製品レビューを待つこと だ。
IntelがAMDに対抗できるなら、それは市場にとって素晴らしいことだ。しかし、スペックシートの数字だけで判断するのは早計だ。 実際のベンチマーク、価格、そしてプラットフォームの将来性 ――これら全てを見極めた上で、賢い選択をすべきだろう。
筆者のコメント
Intelは、今まさに正念場にある。CEO Lip-Bu Tanの手腕で再建を進めているが、製品面での巻き返しはまだ見えていない。
Arrow Lake Refreshは、その「最初の試金石」となる可能性がある。しかし、正直に言えば、 これでAMDに勝てるとは思えない 。
なぜなら、AMDは単に製品が良いだけでなく、 ユーザーの信頼を勝ち取っている からだ。AM4の長期サポート、透明性の高いロードマップ、そして何より、約束を守る姿勢――これらが、AMDのシェア拡大を支えている。
Intelが本当に復活するには、製品の改善だけでは不十分だ。 ユーザーの信頼を取り戻すこと ――それが、最も重要な課題だ。Arrow Lake Refreshが、その第一歩になることを期待したい。














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