Microsoftが、自らの手で「AIの無能さ」を世界に証明してしまった。
同社の公式Windowsアカウント(X)が投稿したCopilotの宣伝動画が、大炎上している。テックインフルエンサーが音声でCopilotに質問したところ、 間違った回答が返され、最終的にその提案は無視され、手動で設定を変更する という、まさに「AIが役に立たない瞬間」が白日の下にさらされたのだ。
この動画は、Microsoftが「AI搭載Windows 11」の素晴らしさをアピールするために作ったはずだった。しかし結果は真逆だった。 「Copilotは実用に耐えない」というメッセージを、Microsoft自身が発信してしまった のだ。
目次
何が起きたのか:宣伝動画の”事故”
問題の動画は、Microsoftの公式Windowsアカウントが投稿したものだ。登場するのは、テックインフルエンサーのJudner Aura(@UrAvgConsumer)。
動画の流れは以下の通り
- インフルエンサーがCopilotに音声で質問: 「Windows設定でフォントサイズを大きくする方法は?」
- Copilotが不完全な回答: 手順を途中までしか示さず、不十分な説明
- Copilotが誤った提案: 既に選択されているディスプレイスケーリングの割合 を提案(正しい設定ではない)
- インフルエンサーがCopilotを無視: 結局、自分で正しい設定(「Text size」アクセシビリティ設定)を見つけて変更
つまり、 Copilotは質問に正しく答えられず、インフルエンサーは最終的にCopilotの提案を無視した のだ。
これが、Microsoftが数百万人に見せたかった「AI搭載Windows 11の未来」である。
なぜこの動画が公開されたのか
最も不可解なのは、 なぜMicrosoftがこの動画を公開したのか という点だ。
Copilotが間違った回答をしたことは、撮影時点で明らかだったはずだ。普通なら、以下のような対応が取られる
- 撮り直し: Copilotが正しく機能するまで再撮影
- 編集でカット: 失敗部分を削除し、成功シーンのみを使用
- 台本の調整: Copilotが確実に答えられる質問に変更
しかし、Microsoftはどれも実行しなかった。 間違った回答をそのまま公開した のだ。
考えられる理由は、以下の2つだ
1. 監督体制の欠如
Microsoftのマーケティングチームが、動画の内容を十分にチェックしていなかった可能性がある。インフルエンサーに丸投げし、最終確認を怠った結果、この”事故”が起きたのだ。
2. Copilotの精度が低すぎる
何度撮り直しても、Copilotが正しく機能しなかった可能性もある。つまり、 「これでもマシな方」 だったのかもしれない。
どちらにせよ、 Microsoftの品質管理の甘さ が露呈した形だ。
ユーザーの反応:圧倒的な批判
この動画に対する反応は、予想通り圧倒的にネガティブだった。
X上での反応の一部を紹介する
「彼は文字通りAIが役に立たないことを示して、別のオプションを選んだ」
このコメントは 10万ビュー以上 を記録し、大きな共感を呼んだ。
その他の反応も、ほぼ全てが否定的だ
- 「これは宣伝ではなく、Copilotの無能さの証明だ」
- 「Microsoftは自分の製品を理解していない」
- 「AIの未来がこれなら、要らない」
つまり、この宣伝動画は 完全に逆効果 だった。Copilotへの信頼を高めるどころか、 「使えない」という印象を強めてしまった のだ。
Copilotの実態:本当に役立つのか
この事件は、 Windows 11のCopilotが抱える根本的な問題 を浮き彫りにしている。
1. 基本的な設定変更すら正確に案内できない
今回の質問は、 「フォントサイズを大きくする方法」 という、極めて基本的なものだった。
これは、Windows設定の中でも頻繁に使われる項目であり、AIが確実に答えられるべき質問だ。しかし、Copilotは失敗した。
もしこのレベルの質問に答えられないなら、 より複雑な質問にはどう対応するのか 。答えは明白だ。
2. ユーザーを混乱させる可能性
Copilotが間違った提案をした場合、ユーザーは以下のような問題に直面する
- 時間の無駄: 間違った設定を試し、結局手動で探す羽目になる
- 設定の破損: 誤った操作で、システム設定がおかしくなるリスク
- 信頼の喪失: 「AIは信用できない」という認識が定着する
つまり、 Copilotは「助け」ではなく「障害」になりかねない のだ。
3. 従来の検索やヘルプの方が確実
皮肉なことに、今回のケースでは 「Windows設定を手動で探す」方が早くて確実 だった。
これは、AIの存在意義を根本から揺るがす。もし従来の方法の方が優れているなら、 なぜAIを使う必要があるのか 。
AIの限界と過度な期待
この事件は、 AIへの過度な期待 という、業界全体の問題も示している。
MicrosoftだけでなくNVIDIA、AMD、Google、Appleなど、あらゆる企業が「AI」を前面に押し出している。しかし、現実には AIはまだ多くの場面で不完全 だ。
AIが得意なこと
- 大量のデータからパターンを見つける(画像認識、音声認識)
- 文章生成や要約(ChatGPTなど)
- クリエイティブな提案(デザイン、コード生成)
AIが苦手なこと
- 正確な手順の案内: 特定のソフトウェア操作など
- 状況判断: ユーザーの環境や設定に応じた柔軟な対応
- 責任を伴う判断: 医療、法律、金融など
今回の「フォントサイズ変更」は、 正確な手順の案内 に該当する。つまり、 Copilotは苦手分野で失敗した のだ。
PCゲーマーにとってのCopilot
では、我々PCゲーマーにとって、Copilotは役立つのか。
正直に言えば、 現状では懐疑的 だ。
ゲーミングPCで必要な操作は、以下のようなものだ
- グラフィック設定の最適化: ゲームごとに異なる設定
- オーバークロックやアンダーボルト: 慎重な操作が必要
- ドライバの更新やトラブルシューティング: 正確な手順が不可欠
これらは、 間違えるとシステムが不安定になる、あるいはゲームがクラッシュする リスクを伴う。
もしCopilotが「基本的なフォントサイズ変更」すら正確に案内できないなら、 こうした高度な操作を任せるのは危険 だろう。
結論:AIは”補助”であり、”代替”ではない
今回のMicrosoftの失態は、重要な教訓を示している。
AIは、まだ人間の代わりにはなれない。 少なくとも、Windows設定の案内程度のタスクですら、完璧にこなせるレベルには達していない。
Copilotが全く無用というわけではない。文章の要約や、アイデアのブレインストーミングなど、 「補助ツール」 としては役立つ場面もあるだろう。
しかし、 「AIに任せれば全て解決」という幻想は捨てるべきだ。 現実には、従来の方法――手動での設定変更、マニュアルの確認、コミュニティフォーラムでの情報収集――の方が、確実で早いケースが多い。
賢いユーザーは、AIを盲信せず、適切な場面で使い分ける。 それがGearTuneの結論だ。
筆者のコメント
この動画を見たとき、正直笑ってしまった。Microsoftが自らの製品の欠陥を、宣伝動画で暴露するという、ある種の「自爆」だからだ。
しかし、笑い事では済まない。筆者自身、GearTuneの運営や日々のコーディングにおいて、AIツールを多用している。n8nで複雑なワークフローを組んだり、ローカルLLMがどこまで実用レベルに達するのかを試したり、MCP対応したアプリケーションを片っ端から試してみたりと、その恩恵を日々受けているからこそ、その扱う難しさも痛感している。
そんな中でこの宣伝動画を見て、確信した。AIは非常に有用なツールであるが、現時点ではPC初心者を手助けできるレベルには到底達していない、と。それはまるで、インターネット黎明期のもどかしさが戻ってきたような感覚だ。使いこなせる人にはとんでもなく便利な世界が開ける一方で、扱えない人にはただの小難しく、役に立たないものにしか見えない。あの時代のデジタルデバイドが、今度は「AIデバイド」として再来しているかのようだ。
この一件は、 AI業界全体が抱える「誇大広告」の問題 を象徴している。企業は「AI搭載」を謳い、夢の未来を売り込むが、現実はまだそのレベルにない。我々ユーザーに出来ることは、その熱狂から一歩引いて、冷静にAIの実力を見極めることだ。AIは万能ではない。便利な場面もあれば、邪魔になる場面もある。それを理解したうえで、賢く使いこなす――それが、真のテクノロジーリテラシーなのだと、この動画は改めて教えてくれた。








































コメント