2025年9月のSteam Hardware Surveyが公開された。データが示すトレンドは極めて明確だ。
8GB VRAMの時代は、完全に終わった。
長年ゲーミングPCのメインストリームを支配してきた8GB構成が、ついに明確な衰退期に入ったのである。そしてこのトレンドが示唆するのは、NVIDIAとAMDが推し進める「8GB新製品戦略」が、すでに市場に拒絶されているという事実だ。
目次
8GB VRAM、たった1ヶ月で1.37%という歴史的減少
9月のSteam Hardware Surveyにおいて、8GB VRAM搭載GPUのシェアは33.66%を記録した。前月比でマイナス1.37%という、これまでにない大幅な減少である。
たった1ヶ月で1.37%減少という数字がどれだけ異常か、理解しているだろうか?
Steam Hardware Surveyは通常、月ごとに0.1〜0.3%程度の緩やかな変動を示す。ところが今回、8GB VRAMはその4倍以上のペースで減少しているのだ。これは統計的な誤差ではない。市場の明確な意思表示である。
さらに注目すべきは、この減少が新製品の大量投入にもかかわらず起きている点だ。
RTX 5060、RTX 5060 Ti、そしてAMD Radeon RX 9060 XT。2025年に投入された新製品の多くが8GB構成で市場に送り込まれている。にもかかわらず、8GB VRAMのシェアは減少し続けている。
これは何を意味するのか?
ユーザーは新製品すら買わず、中古市場や型落ちモデルからより多くのVRAMを持つGPUを選択しているのである。
16GB VRAMが最速成長 – 12GBをスキップして直接移行する流れ
では、ユーザーは何を求めているのか?
答えは明白だ。16GB VRAMである。
16GB VRAM搭載GPUのシェアは7.52%に到達し、前月比でプラス0.72%という全VRAM構成の中で最も高い成長率を記録した。8GB VRAMの減少幅と16GB VRAMの増加幅を比較すると、ほぼ完全に一致している。
つまり、8GBユーザーは16GBへと直接移行しているのである。
12GB VRAM(シェア19.22%、+0.40%)も成長しているが、市場に12GB GPUの選択肢が限られているため、多くのユーザーは12GBという中途半端な容量をスキップして16GBに直行している。
この傾向は実に理にかなっている。現代のAAAタイトルは、8GB VRAMではテクスチャの読み込み問題、スタッター、最悪の場合クラッシュを引き起こす。一方、16GBであれば、ユーザー側の設定調整を最小限に抑え、安定したフレームレートを維持できる。
市場は極めて明確なメッセージを送っている。8GBでは不十分だと。
6コアCPU、ついに30%を割り込む歴史的転換点
GPU市場だけではない。CPU市場も大きな転換期を迎えている。
長年メインストリームゲーミングPCの標準であった6コアCPUが、Steam Hardware Survey史上初めて30%を下回ったのだ。
シェアは29.79%(前月比マイナス0.49%)。依然として最も一般的な構成ではあるが、その優位性は急速に失われつつある。
一方、8コアCPUのシェアは25.28%(前月比+0.87%)に達し、着実に成長を続けている。この勢いが続けば、2026年初頭には8コアが6コアを追い抜くことになるだろう。
16コアCPUも9月の最大シェア増加の一つを記録しており、高コア数への移行は明白だ。
なぜ8コア、16コアへの移行が加速しているのか?
答えは簡単だ。現代のゲームエンジン(Unreal Engine 5、Frostbite、REエンジンなど)は、マルチスレッドとL3キャッシュでスケールする設計になっている。
6コアCPUでは、バックグラウンドタスク(Discord、ブラウザ、配信ソフトなど)を同時実行すると、ゲーム側に割り当てられるコアが不足し、フレームタイムの乱れやスタッターが発生する。
8コア以上であれば、こうした問題は大幅に軽減される。コア数の増加は、単なるベンチマークスコアの向上ではなく、実際のゲーム体験における安定性の向上をもたらすのである。
RTX 5070がRTX 5060を上回る異常事態 – ユーザーはVRAM容量を最優先
GPU市場において、極めて注目すべき現象が起きている。
RTX 50シリーズの中で、RTX 5070(Steam シェア1.69%)がRTX 5060(1.13%)を上回る人気を示しているのだ。
この逆転現象が何を意味するか、理解しているだろうか?
通常、GPU市場では下位モデルほど価格が手頃で販売数も多くなる。RTX 4060がRTX 4070を上回り、RTX 3060がRTX 3070を上回るのは当然の市場原理である。
ところがRTX 50シリーズでは、この原理が完全に崩壊している。
理由は明白だ。RTX 5060の8GB VRAM制限に対する市場の拒絶反応である。
ユーザーは、より安価なRTX 5060を避け、価格差を支払ってでもより多くのVRAMを持つRTX 5070を選択しているのだ。
これはNVIDIAに対する明確な警告である。
8GB VRAMという制約は、もはやユーザーが受け入れられるラインを完全に下回っている。価格の安さではカバーできないレベルの制約なのだ。
AMDの躍進が止まらない – Intelは史上最低シェアを更新
CPU市場においても、地殻変動が起きている。
AMDのCPUシェアは41.31%(前月比+1.15%)に達し、6月以降約2%ポイント増加した。一方、Intelは58.61%と、Steam記録上の史上最低シェアを更新している。
AMDが5割シェアに到達するのは、もはや時間の問題だ。
AMDの強さの源泉は、言うまでもなくRyzen X3Dシリーズである。特にRyzen 7 9800X3Dは、ゲーミングパフォーマンスチャートを完全支配している。
3D V-Cache技術は、ゲームにおいて一貫して他のCPUを上回るパフォーマンスを発揮する。そしてIntelは、2026年までCore Ultra 400 “Nova Lake”を投入できず、Ryzen 9000X3Dシリーズへの有効な対抗策を持たない。
この状況でIntelに残された手段は何もない。
市場シェアの減少を止める術がないのである。
メーカーは市場の声を聞け – 8GB GPUを作り続ける愚かさ
2025年9月のSteam Hardware Surveyが示すトレンドは、極めて明確だ。
ユーザーは、より多くのVRAM、より多くのコア、より多くのRAMを求めている。そしてこの要求は、単なる贅沢ではなく、現代のゲームタイトルを快適にプレイするための必然的な要件である。
ところがNVIDIAとAMDは、この市場の声を無視している。
RTX 5050、RTX 5060は8GB固定。RTX 5060 TiとRX 9060 XTには16GBモデルも存在するが、8GB版が「基本モデル」として位置づけられている。
問題の本質はここだ。自作PC市場では16GBモデルが圧倒的人気なのに、OEM/BTOメーカーの多くが8GB版を標準採用し、16GB版を「割高なオプション」扱いにしている。
メーカーは在庫リスクを恐れ、8GB版を優先出荷する。消費者は「標準モデルで十分だろう」と購入し、後に制約に直面して後悔する。
市場は既に8GBを拒絶しているのに、メーカーは8GB製品を優先出荷し続けている。これはメーカー側の市場認識が根本的に誤っているか、意図的に消費者を誤誘導しているかのどちらかだ。
16GB VRAMの急速な成長は市場の明確なシグナルだ。このトレンドに対応できなければ、市場シェアを失うリスクは避けられない。
【結論】2025年末以降のゲーミングPCに必要な最低スペック
2025年9月のデータが示すのは、ゲーミングPC市場における明確な転換点である。
8GB GPUの時代は終わった。6コアCPUの支配も終焉を迎えようとしている。
そして、より高性能な構成が新たな標準となる時代が到来している。
2025年末以降にゲーミングPCを構築または購入するなら、以下のスペックを最低ラインとして推奨する。
- GPU:16GB VRAM以上(12GBは妥協ライン、8GBは論外)
- CPU:8コア以上(6コアはもはや推奨できない)
- RAM:32GB以上(16GBは論外、メモリ64GB時代の到来も近い)
これは贅沢な構成ではない。今後3年間を見据えた実用的な最低ラインなのである。
市場は既に動いた。問題は、NVIDIAとAMDがこの変化に追随できるかどうかだ。
筆者の本音
この8GB VRAM減少トレンドは予想されたものだった。だが、その変化の速度には正直驚いている。
たった1ヶ月で1.37%減少という数字は、市場の意思がいかに明確であるかを示している。
筆者はこれまで一貫して「8GBでは不十分」と警告してきた。そして今、Steam Hardware Surveyがそれを裏付けている。
特に注目すべきは、RTX 5070がRTX 5060を上回っている現象だ。これは単なる性能差ではなく、VRAM容量に対する市場の明確な選好を示している。
価格差を超えて、ユーザーはより多くのVRAMを選択しているのだ。
NVIDIAとAMDは、この現実を直視すべきである。8GB GPUを新製品として投入し続けることは、もはや市場の要求に応えていない。
ユーザーは、メーカーの都合ではなく、実際のゲーム体験を優先する。
今後数ヶ月で、この傾向はさらに加速するだろう。2026年には、16GB VRAMが二桁シェアに到達し、8コアCPUが6コアを追い抜く。そして、32GB RAMが標準となる。
この変化に対応できないメーカーは、市場から退場を余儀なくされる。
ゲーマーは、もはや妥協しない。
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