2025年8月、自作PC市場は奇妙な熱気に包まれている。特定の製品に熱狂する声が大きくなる一方で、その喧騒を冷めた目で見つめる者も少なくない。PCショップの現場にたった経験から言わせてもらえば、市場の評価と製品の本質との間には、無視できないほどの「歪み」が生まれているのが見て取れる。
本記事では、特定の信者やインフルエンサーの声に惑わされず、本当に価値ある選択をするために、今この市場で何が起きているのか、その内実を解説する。
ようやくRyzenに追いついた世間と、「情弱」の熱狂
ZEN2アーキテクチャ以降、AMD RyzenがIntelを性能面で凌駕していたのは、自作に詳しい者にとっては自明の理であった。しかし、その事実が市場の共通認識となるまでには、あまりにも長い時間を要した。
今、Ryzen X3Dシリーズが異常なほどの人気を博している。Intelの戦略的失敗も手伝ってのことだが、このCPUに今更熱狂しているユーザーの多くは、残念ながら情報感度が高いとは言えない。
本当に情報を追っている者、いわゆる「情強」は、2022年の時点でRyzen 7 5800X3Dの革新的な性能に気づき、そして2024年の春、Ryzen 7 7800X3Dの価格が5万円を切った好機を逃さず手に入れている。市場評価のこの遅れは、自作上級者と初心者の間に、埋めがたい情報格差を生み出しているのが現状だ。
Radeonの勝利と、NVIDIA信者の「信仰」
GPU市場に目を向けると、CPU市場以上に興味深い現象が起きている。
Radeon RX 9000シリーズの躍進
まず結論から言えば、現在のRadeonは極めて優秀だ。特にRX 9000シリーズは、過去のRadeonが抱えていた課題をほぼ全て克服した、完成された製品群と断言できる。
かつてのRX 7000シリーズも性能は高かったが、エンコーダー品質やレイトレーシング性能の課題、一部製品の不安定さや不良率の高さなど、「安かろう悪かろう」のイメージを払拭しきれていなかった。しかし、RX 9000シリーズは、高いゲーム性能、安定した動作、そして競合に引けを取らない高品質なエンコーダーを備え、CUDAへの依存がない限り、これを選ばない理由はない。持ち上げすぎと揶揄されることもあるが、その評価は完全に適切であると判断するのが妥当だ。
NVIDIAとその信者への苦言
一方で、NVIDIA製品とその支持者には、ある種の「信仰」にも似た危うさを感じる。これはIntel信者よりも根深い。なぜなら、多くのNVIDIA信者は、Radeon製品を実際に試すことなく、想像だけでその価値を断じている傾向が強いからだ。対照的に、AMDユーザーの多くはIntelやNVIDIA製品を使った経験の上で評価を下している。この差は大きい。
製品自体に目を向けても、その傾向は見て取れる。RTX 40シリーズは、省電力性と性能の両立という点では確かに優秀な製品であった。しかし、L2キャッシュで帯域幅を補うなど、露骨なコストカットと利益重視の価格設定が目立ち始めた世代でもある。
そして、現行のRTX 50シリーズは、そのコストカット路線をさらに推し進めた製品だ。アーキテクチャの劇的な進化よりも高クロック化で性能を稼いでおり、技術的な魅力に乏しい。エンコーダーやAI性能など見るべき点はあるものの、全体としては、割高で、旧世代の焼き直しという印象が拭えない。
結論:誰の声を聞くべきか
市場は今、声の大きい者の意見に流されやすい、非常に不安定な状態にある。しかし、本質を見抜けば、本当に価値のある製品は自ずと見えてくるはずだ。
- CPU: 周囲の熱狂に惑わされず、自身の予算と目的に合った製品を冷静に選ぶべきだ。過去の価格推移と性能評価を参考にすれば、より賢い選択が可能になる。
- GPU: 「ブランド」や「安心感」という曖昧な基準は一度忘れ、実際の性能とコストパフォーマンスを直視することが求められる。CUDAという明確な目的がない限り、現在のRadeonはあらゆるユーザーにとって最有力候補となる。
最終的に、この記事が読者一人ひとりの、後悔のない最高の選択に繋がること。それが、我々の唯一の目標である。
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