AMDの幹部Frank Azor氏が「大半のゲーマーは1080pでプレイしており、8GBのVRAMで十分」と発言し、RX 9060 XT 8GBモデルの正当性を主張したことが物議を醸している。しかし、この発言にはAMD自身の矛盾があり、さらに深刻なのは同一製品名での販売による消費者の誤認誘導だ。NVIDIAのRTX 5060 Tiでも同様の問題が発生しており、GPUメーカーとBTOメーカーが結託した「性能詐欺」とも言える販売手法が横行している。
目次
AMDの矛盾した主張
Frank Azor氏の発言の最大の問題は、AMD自身の製品戦略との矛盾にある。AMDはRX 9060 XTを1440p向けGPUとして宣伝し、「最も要求の厳しいゲーミング負荷に対応するよう設計されている」と謳っている。さらに、この解像度で「ウルトラスムース」なゲーミング体験を提供すると主張していた。
しかし、現実的には多くの最新AAA級タイトルでは、1080pでも8GBのVRAM容量では不足するケースが増えている。1440pでの快適なゲームプレイを謳いながら、8GBモデルを同じ名前で販売するのは明らかに矛盾している。
また、AMDは過去にRX 7000シリーズ発売時、NVIDIAのRTX 40シリーズの少ないVRAM容量を厳しく批判していた。その同じAMDが今度は8GBモデルを正当化するのは、一貫性に欠ける姿勢だと言わざるを得ない。
同一製品名による消費者の誤認誘導
最も深刻な問題は、VRAM容量が異なる製品を同じ名前で販売していることだ。以下の製品が同一名称で販売されている
- RX 9060 XT: 8GBモデルと16GBモデル
- RTX 5060 Ti: 8GBモデルと16GBモデル
GPUコアが同一であっても、VRAM容量の違いにより実際のゲーム性能には明確な差が生じる。特に最新のAAA級タイトルや高解像度設定では、その差は無視できないレベルになる。
正しい製品名の付け方
このような混乱を避けるためには、メーカーは以下のような命名規則を採用すべきだった
AMD の場合:
- RX 9060 XT(16GBモデル)
- RX 9060(8GBモデル)
※前世代のRX 7000シリーズではVRAM容量別に型番が異なり、8GBモデルは RX 7600、16GBモデルは RX 7600 XTと性能に基づく適切な製品名だった
NVIDIA の場合:
- RTX 5060 Ti(16GBモデルのみ)
- RTX 5060(8GBモデル)
VRAM容量により性能差が生じる以上、製品名や型番を明確に区別することで、消費者が適切な選択をできるようにするべきだ。
BTOメーカーとの結託による詐欺的販売手法
さらに悪質なのは、多くのBTOメーカーがこの状況を悪用していることだ。具体的には以下のような手法が横行している
- 「RTX 5060 Ti搭載」を大々的に宣伝
- 実際には8GBモデルを標準採用
- メディアレビューは主に16GBモデルで実施
- 消費者は16GBモデルの性能を期待して購入
- 実際に届くのは性能の劣る8GBモデル
これは明らかに性能詐欺と言える状況だ。多くのメディアが16GBモデルでレビューを行っているため、消費者は16GBモデルの性能を基準に購入判断を下す。しかし、実際に手に入るのは8GBモデルであり、期待した性能が得られないという問題が発生している。
GPUメーカーの責任
この問題の根本的な責任は、同一製品名での販売を決定したGPUメーカーにある
AMD: 過去にNVIDIAのVRAM不足を批判しておきながら、同様の手法を採用
NVIDIA: RTX 4060 Tiから続く混乱を招く命名規則を継続
両社とも、消費者の誤認を招くことを承知の上でこの販売戦略を採用していると考えられる。特に、レビューサンプルとして16GBモデルを優先的に提供しながら、市場では8GBモデルを主力として販売する手法は悪質だ。
ライトゲーマー向け8GB GPUは必要だが…
誤解のないよう明記すると、8GB VRAM搭載GPU自体を否定するものではない。主にeスポーツタイトルや軽量ゲームをプレイするライトゲーマーにとって、8GBのVRAMは確かに十分な場合が多い。
実際、Steamの統計を見ると、最もプレイされているゲームは以下のようなタイトルだ
- Counter-Strike 2
- Dota 2
- PUBG: Battlegrounds
- Apex Legends
これらのeスポーツタイトルでは、8GBのVRAMでも十分快適にプレイできる。
しかし、問題は製品の位置づけと命名だ。RX 9060 XTやRTX 5060 Tiクラスの性能を持つGPUであれば、本来は12GB以上のVRAMを搭載すべきだ。このクラスのGPUを購入するユーザーは、最新のAAA級タイトルを高画質設定でプレイすることを期待している可能性が高い。
適正な製品ラインナップとは
理想的なGPUラインナップは以下のようになるべきだ
エントリーレベル(4万円以下)
- 8GB VRAM
- 主にeスポーツタイトル向け
ミドルレンジ(4~7万円)
- 12GB VRAM
- 1440p/高画質設定対応
アッパーミドル(7~10万円)
- 16GB VRAM以上
- 4K/最高画質設定対応
現在の問題は、ミドルレンジクラスの性能を持つGPUに8GBしか搭載せず、それをさも高性能製品であるかのように販売していることだ。
消費者ができる対策
この状況下で消費者ができる対策は以下の通りだ
- 製品名だけでなくVRAM容量を必ず確認
- BTOメーカーの宣伝文句に惑わされない
- 実際に搭載されるGPUの詳細仕様を事前に確認
- 8GBモデルと16GBモデルの性能差を理解した上で選択
- 可能な限り16GBモデルを選択(将来的な安心のため)
特にBTOメーカーからの購入時は、「RTX 5060 Ti搭載」という宣伝文句だけでなく、実際に搭載されるモデルのVRAM容量を必ず確認することが重要だ。
筆者のコメント
今回のGPUメーカーによる同名製品での販売手法は、過去のIntel製CPUで見られた問題と酷似している。Intel 13・14世代CPUでは、電力無制限運用時(i7より上位のモデルで300W以上の消費電力)のベンチマークスコアを大々的に宣伝していた。しかし、多くのBTO製品では65Wまで電力制限されており、実際の性能は同価格帯のRyzenに劣っていた。
今回のGPU問題は、まさにこれと同レベルの悪質な手法だ。メーカーは最良の条件(16GBモデル)での性能を宣伝し、実際には制限のある製品(8GBモデル)を販売する。消費者は期待した性能を得られず、結果的に「騙された」という感情を抱くことになる。
この状況は、GPUメーカーとBTOメーカーが結託した組織的な消費者搾取と言っても過言ではない。特に知識の少ない一般消費者ほど被害を受けやすく、非常に悪質だ。
業界全体として、このような混乱を招く販売手法は即座に改めるべきだ。消費者の信頼を失えば、長期的には業界全体の成長にも悪影響を与えるだろう。我々消費者としては、こうした手法に騙されないよう、常に詳細な仕様を確認し、適切な選択をしていく必要がある。
※本記事は、AMD公式発表およびVideoCardz.com等のメディア情報に基づいています。実際の性能や価格は、発売後の詳細なレビューをご確認ください。
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