本日5月20日、NVIDIAの新世代グラフィックカード「GeForce RTX 5060」が正式に発売された。5万5800円前後という価格設定で、ミドルレンジGPUとして多くのゲーマーの注目を集めているが、ネット上やPCショップの店員、ゲーム業界関係者からは思いのほか厳しい評価が相次いでいる。なぜこれほど批判的な意見が多いのか?業界の内側から見た本音を解説していこう。
目次
1. VRAM 8GBという致命的な弱点
RTX 5060に対する最大の批判点は、たった8GBのVRAM容量だ。2025年の現在、ミドルレンジGPUとしては明らかに少なすぎる。
ゲームにおいて、GPUはVRAM容量ごとに必要とされる性能が異なる。8GBで求められる性能と12GB、16GBで必要な性能はそれぞれ異なるのだ。RTX 5060自体の処理能力(コア性能)は悪くないが、この8GBというVRAM容量が大きなボトルネックになってしまう。
実際、「Cyberpunk 2077」や「Hogwarts Legacy」などの大作ゲームでは、高画質設定にすると8GBのVRAMでは容量不足に陥ることが各メディアのレビューでも指摘されている。VRAM容量が足りなくなると、ゲーム中の読み込み遅延やカクつきの原因となり、せっかくの高性能GPUも十分に活用できなくなってしまう。
2. RTX 4060 Ti との立ち位置が不明確
発売前から各メディアに課されていた厳しいレビュー制限の中で、特に違和感があったのはRTX 4060 Tiとの直接比較が避けられていた点だ。
公開されているスペック情報を分析すると、RTX 5060はRTX 4060からは15~25%程度の性能向上があるものの、重要なのはRTX 4060 Tiとの関係だ。RTX 4060 Tiは品薄になる前の価格が安定していた時期には5.6万円~6.2万円前後で購入できており、RTX 5060(5.5万円前後)と価格帯が重なる。
問題は、RTX 5060はフレーム生成を使わない素の性能では、RTX 4060 Tiに劣っている可能性が高いという点だ。DLSS Frame Generationなどの技術を使えば性能で上回るかもしれないが、そもそも両モデルともVRAM容量が8GBと同じであり、フレーム生成技術を使うまでもないケースが多い。
つまり、RTX 5060もRTX 4060 Tiも同じVRAM容量の制約の中で、素の描画性能では後者が上回る可能性があるため、同程度の価格ならRTX 4060 Tiの方が魅力的な選択肢となる。これらの要因から、NVIDIAがレビュー時にRTX 4060 Tiとの直接比較を避けようとした意図が垣間見える。
正確な性能差は発売後の詳細なレビューを待つ必要があるが、公開されているスペック情報からはこのような懸念が生じている。
3. 5万円超という厳しい価格設定
RTX 5060の公式価格は5万5800円~。これは品薄前の前世代RTX 4060 Tiとほぼ同等の価格帯であり、多くのゲーマーやPC業界関係者がこの価格設定に疑問を投げかけている。
今の市場環境では、RTX 5060に5万円以上を投じる合理的な理由を見出すのが難しい。もし4万7000円以下であれば検討の余地もあっただろうが、5万円を超える価格設定は、その性能向上の程度を考慮すると厳しいと言わざるを得ない。
特に予算に制約がある場合、AMD Radeon RX 7600、RX 6600やIntel ARC B580といった競合他社製品の方がコストパフォーマンスに優れており、より魅力的な選択肢となるだろう。これらの製品は価格が抑えられている上に、十分な性能を発揮するためだ。
4. 新機能とVRAM不足の矛盾
RTX 5060の目玉機能は、DLSS 4の「Multi-Frame Generation(MFG)」と「Smooth Motion」と呼ばれる技術だ。これらは、AIを使って追加のフレームを生成し、ゲームをより滑らかに表示する機能である。
ここで大きな問題が生じる
問題1: 新機能が必要なのは重いゲームなのに、そもそもVRAMが足りない
- 「Cyberpunk 2077」や「Hogwarts Legacy」などの大作ゲーム(AAAタイトル)こそ、これらの新機能の恩恵を受けるはず
- しかし、これらの大作ゲームは高解像度テクスチャを多用するため、8GBのVRAMではすでに限界ギリギリ(というかアウト)
- 結果として、フレーム生成技術を使う前から、VRAM不足で苦しむことになる
問題2: フレーム生成技術自体がVRAMをさらに消費する
- DLSS 4やMFGを有効にすると、それ自体がVRAMを余分に使用する
- すでに限界近くのVRAM使用量の状態でさらに消費が増えると、むしろゲームがカクついたり、テクスチャが粗くなったりする
- 結局、滑らかな映像を得るための機能が、逆に映像品質を下げる原因になりかねない
分かりやすく言えば、これは「スポーツカーのエンジンを軽自動車に載せたようなもの」だ。パワーはあるのに、そのパワーを活かすキャパシティ(ボディ剛性、タイヤトレッド幅、サスペンション性能等)が小さすぎて、性能を活かせない。
もしRTX 5060が12GBのVRAMを搭載していれば、これらの新機能を十分に活かせて、評価は全く違っていただろう。つまり、良いエンジン(処理性能)を活かせるだけの十分な車体(VRAM)があれば、本当の実力を発揮できたはずなのだ。
5. 128bitのバス幅は時代遅れ
技術的な観点からもう一つ批判されているのが、RTX 5060の128bitという狭いメモリバス幅だ。GDDR7メモリの採用により帯域幅自体はRTX 4060から55%ほど向上しているものの、依然として広いバス幅を持つ競合製品と比べると制約が大きい。
メモリクロックをいくら上げても、バス幅が狭いと限界がある。特に高解像度やテクスチャ量の多いゲームでは、データの読み書きがボトルネックになりやすい。これは道路に例えると、いくら車の速度が速くても、道路が一車線しかないと渋滞が発生するようなものだ。
コスト削減のために128bitバス幅を選んだのは理解できるが、少なくともミドルレンジGPUには192bitくらいは欲しかった。GDDR7を使用せず、GDDR6 12GB構成で192bitにした方がコスト面でも良かったのではないだろうか。
結局のところ、誰のためのGPUなのか?
これらの問題点を総合すると、RTX 5060は非常に中途半端な立ち位置に追いやられていると言わざるを得ない。
初心者ゲーマーには価格が高すぎるし、熱心なゲーマーにはVRAM容量が少なすぎる。予算を少し増やせばRadeon RX 7800 XTやRX 7700 XTが選べるし、予算を抑えたいならIntel ARC B580の方がコスパで上回る。
PCショップを回っても、販売員がRTX 5060をおすすめするシチュエーションが思い浮かばないという声が多い。現状では、予算に応じてRTX 4060かRTX 5060 Tiを勧められることが多いだろう。
何が改善されるべきだったのか
RTX 5060が「良いGPU」になるための条件として、以下のいずれかが必要だったと主張したい
- 12GB以上のVRAM容量
- RTX 4060から20%以上の【素の】性能向上
- より広いメモリバス幅(192bit以上)
残念ながら、これらの条件はいずれも満たされなかった。これがRTX 5060が厳しい評価を受けている理由だ。
筆者のコメント
これらの批判点を踏まえると、RTX 5060はNVIDIAにとっての「義務的な製品」という印象が強い。ラインナップを埋めるために出したものの、前世代からの大きな進化も、競合に対する圧倒的な優位性も見られない。
RTX 5060を検討しているユーザーには、直ちに購入を決断するのではなく、競合製品の発表や価格動向を見極めることをお勧めする。あるいは現時点でも、Radeon RX 7700 XTやIntel ARC B580はコストパフォーマンスの面でより魅力的な選択肢となっている。
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