NVIDIAのGeForce RTX 5060 Tiは8GBと16GBの2つのメモリ構成で発売されたが、両者の性能差は予想をはるかに超えるものだった。Hardware Unboxedの詳細なベンチマークによれば、8GB版はいくつかのゲームで「プレイ不能」レベルまで性能が低下し、最悪の場合は589%もの性能差が発生。なぜこれほどの差が生じるのか、そして8GB版を絶対に購入すべきでない理由を徹底解説する。
8GB版の致命的な欠陥と実害
1. 最低フレームレート(1% LOW FPS)の壊滅的な低下
8GB版の最大の問題は、平均フレームレートよりも1%最低フレームレート(1% LOW FPS)の極端な低下だ。これは実際のゲームプレイで「カクつき」や「フリーズ」として体感される。
主なタイトルでの1% LOW FPS差
- Horizon Forbidden West(4K DLSS-P, Very High):589%の差
- The Last of Us Part II(1080p Native, Very High):320%の差
- Final Fantasy XIV(1440p Native, Ultra):218%の差
- Hogwarts Legacy(1440p Native, High, RT):483%の差
この数値は単なる「少し遅い」ではなく、「完全に別次元の体験」を意味する。例えば、Horizon Forbidden Westでは16GB版が約68FPSで快適に動作する設定で、8GB版はわずか16FPS程度と文字通り「スライドショー」のような動作になる。
2. ゲームのクラッシュとテクスチャ破綻
VRAM不足は単に動作が遅くなるだけではない。より深刻な問題として、以下のような現象が報告されている
- Indiana Jones and Great Circle:1080pのUltra設定でクラッシュ
- 複数のゲームでテクスチャが極端に劣化
- ロード時間の大幅な増加
- シェーダコンパイル中のクラッシュ
特に深刻なのは、これらの問題がRTX 5060 Ti相当の性能があれば当然動くはずの設定やゲームで発生していることだ。つまり、GPUコア自体には十分な処理能力があるにもかかわらず、8GBという制限されたVRAMによって本来の性能を発揮できていない。
3. DLSS使用時の逆転現象
皮肉なことに、DLSS(特にDLSS Frame Generation)の使用時に問題が悪化するケースも報告されている。The Last of Us Part IIの1440p DLSS-Q + FGでは、8GB版の1% LOW FPSが一桁台まで落ち込むことがHardware Unboxedによって報告されている。
DLSS自体もVRAMを消費するため、もともとギリギリの状態では逆効果になりうる。最新のAI機能を活用するためにRTX 5060 Tiを購入するユーザーにとって、これは大きな誤算となるだろう。
NVIDIAの「不透明な戦略」
1. レビューサンプルの選択的配布
NVIDIAは多くのメディアに16GB版のみをレビュー用に配布し、8GB版は配布しなかった。Hardware Unboxedは8GB版を自費で購入してテストを行ったが、この行動はNVIDIAが8GB版の性能に自信がなかったことを示唆している。
発売と同時にレビューが公開されなかったことで、多くの消費者は両モデルの性能差を理解しないまま購入判断を迫られた。これは透明性に欠ける対応と言わざるを得ない。
2. メモリバスの共通化と価格設定
両モデルは同じ128ビットメモリバスを採用しているが、これは8GB版に対してさらに不利な条件となる。より高密度のメモリチップを使用できる16GB版は、同じバス幅でも効率的にデータを転送できるが、8GB版はその恩恵を受けられない。
価格差はわずか50ドル(約7,500円)だが、性能差を考えれば16GB版の方がコストパフォーマンスで圧倒的に優れている。
将来性の観点から見た8GB VRAMの問題
1. 現行ゲームでさえ不足するVRAM
テストで明らかになった通り、すでに多くの現行ゲームで8GBのVRAMは不足している。特に次の条件下では問題が顕著になる
- 1440p以上の解像度
- レイトレーシング機能の使用
- 高解像度テクスチャの使用
- オープンワールドゲーム
例えば、Final Fantasy XIVやHogwarts Legacyといった比較的最適化の進んだゲームでさえ、1440pの高設定では8GB版が大きく性能を落とす。
2. 今後のゲーム開発傾向
今後のゲーム開発はさらにVRAM要求が高まる傾向にある
- テクスチャ解像度の向上(8K以上のテクスチャの一般化)
- レイトレーシングの普及
- オープンワールドやロードレスゲームの増加
- AIを活用したゲーム内処理の増加
5万円以上するグラフィックカードを購入するユーザーは通常、3〜4年は使用することを想定する。しかし8GB版は購入から1年以内に多くのゲームで制約を感じ始める可能性が高い。
筆者のコメント
RTX 5060 Ti 8GBは現行ゲームでさえVRAM不足に直面する厳しい現実がある。最大589%の1% LOW FPS差は、単なる数値以上の実用的な問題だ。NVIDIAがレビュー用に8GBモデルを配布しなかったことは意図的な情報制限と言わざるを得ない。
特筆すべきは、DLSS Frame Generationなど最新機能が却って8GBモデルのパフォーマンスを悪化させるケースがあることだ。これは皮肉にも、最新技術を求めて購入する消費者の期待を裏切る結果となっている。
約10,000円の追加投資で最大6倍の性能差が解消できるなら、その選択は明らかだ。ミドルレンジでも12GB以上のVRAMが標準となりつつある現状では、8GBモデルは発売と同時に時代遅れとなっている。
※本記事はHardware Unboxedの詳細なベンチマークデータに基づいています。各ゲームにおける具体的なフレームレート数値はHardware Unboxedの動画内で報告されたものです。
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