サードパーティのアップスケーリングツール「Lossless Scaling」が導入した新機能「Adaptive Frame Generation(適応型フレーム生成)」が、Digital Foundryの検証で驚くべき性能を発揮していることが明らかになった。ミドルレンジのPC構成でも低いベースフレームレートから滑らかな120FPSの出力を可能にするこの技術は、NVIDIAなどの専用ハードウェアに依存しない点で大きなアドバンテージを持っており、新たな可能性を示すものとして注目を集めている。
目次
Lossless ScalingのAdaptive Frame Generationとは
Lossless Scalingは元々、公式サポートのないゲームでもアップスケーリングを可能にするサードパーティツールとして知られていたが、今月初めに「Adaptive Frame Generation」という新機能を導入。これはゲーム内で生成された実際のフレームの間に、AIを使って中間フレームを生成することでフレームレートを向上させる技術だ。
NVIDIA DLSSのFrame Generation、AMD FSRのFluid Motion Frames、Intel XeSS Frame Generationなど、各社が提供している類似技術と基本的な原理は同じだが、Lossless Scalingの大きな特徴は特定のハードウェアに依存せず、幅広いGPUで利用できる点にある。
Digital Foundryによる検証結果
Digital Foundryの最新ポッドキャストによると、同社の技術専門家たちはRyzen 5 3600 CPUとRTX 4060 GPUを搭載したミドルレンジシステムで検証を実施。この比較的控えめな構成でも、以下のような印象的な結果が得られたという
- Control(コントロール): 1440p解像度、高設定、レイトレーシング有効でも、低いベースフレームレートから安定した120FPSの出力を実現
- Starfield(スターフィールド): ネイティブ4K解像度でも同様に滑らかな120FPSのゲームプレイが可能
これらの結果は、ベースとなる実フレームレートが低くても、Adaptive Frame Generationによって視覚的には滑らかな体験が得られることを示している。
メリットと制限
Digital Foundryは、この技術が「素晴らしいコンセプト実証」だと評価する一方で、いくつかの制限も指摘している
メリット
- ハードウェア非依存: 特定のGPUアーキテクチャに依存せず、幅広いシステムで利用可能
- 互換性: 公式のアップスケーラーをサポートしていないゲームでも使用可能
- パフォーマンス: 低フレームレートの環境から視覚的に滑らかな出力を実現
制限
- ビジュアルアーティファクト: フレーム生成に伴う視覚的なノイズや不自然さが一部に見られる
- 高いレイテンシー: 低いベースフレームレートに起因する入力遅延が大きい(NVIDIA Reflexなどの技術で部分的に緩和されるが完全ではない)
- 専用技術との比較: DLSS、FSR、XeSSなど、公式サポートのあるゲームでは専用のアップスケーラーの方が依然として優れたパフォーマンスと画質を提供
NVIDIAのSmoothMotionとの比較
最近NVIDIAが導入した類似技術「SmoothMotion」との比較では、Lossless ScalingのAdaptive Frame Generationが以下の点で優位性を持つ可能性が示唆されている
- ハードウェア汎用性: SmoothMotionはRTX 40シリーズ以降のGPUに限定されるのに対し、Lossless ScalingはAMDやIntel、さらには古いNVIDIA GPUでも動作する
- 設定の柔軟性: より細かい調整が可能で、ゲームごとの最適化も行いやすい
- 独立したソリューション: ドライバーアップデートに依存せず、安定した機能提供が期待できる
ただし、NVIDIAのハードウェアに最適化されたSmoothMotionは、RTXグラフィックスカードでは低い処理負荷でより高い品質を実現できる可能性もある。両者の詳細な比較は今後のベンチマークやテストで明らかになるだろう。
アップスケーリング技術の最新動向
Digital Foundryの報告では、現在のアップスケーリング技術の状況についても触れられている
- DLSS: 最新のTransformerモデルの導入により、依然としてCNNモデルを使用する他の技術よりも優れた画質を提供
- FSR: 最新バージョンでは大幅な進化を遂げ、以前のDLSS(CNNモデル)とほぼ同等の画質を実現
- XeSS: Intelの技術も着実に進化しているが、まだ普及度は限定的
これらの公式アップスケーラーは、サポートしているゲームでは引き続き最良の選択肢であり、Lossless Scalingのような汎用ソリューションは「サポートがないゲーム」のためのバックアップオプションとして位置づけられる。
今後の展望
Lossless ScalingのAdaptive Frame Generationは、現時点ではまだ「コンセプト実証」段階にあるものの、その可能性は非常に興味深い。特に注目すべき将来の方向性として以下が考えられる
- アルゴリズムの改良: ビジュアルアーティファクトの低減やレイテンシーの更なる改善
- 軽量化: より低い処理負荷での動作による互換性の拡大
- 特殊なユースケース: 古いハードウェアや特定の環境での有用性の向上
この技術は、特に新しいハードウェアへのアップグレードが難しいユーザーや、公式サポートのないマイナーなゲームをプレイするユーザーにとって、大きな可能性を秘めている。
筆者のコメント
Lossless ScalingのAdaptive Frame Generationは、現在のゲーミング環境において注目すべき技術革新だ。ハードウェア依存のない汎用的なフレーム生成技術という点で、既存のソリューションとは一線を画している。
特に印象的なのは、比較的控えめなスペックのシステムでも高解像度・高設定・レイトレーシング有効という 厳しい条件下で、視覚的に滑らかな体験を提供できる点だ。これは、最新ゲームを楽しみたいがハイエンドGPUの価格高騰で手が出せないユーザーにとって、救世主となる可能性を秘めている。
もちろん、現時点ではビジュアルアーティファクトや入力遅延といった課題も存在する。競争力のあるゲームでは、この遅延は致命的な問題になり得る。しかし、シングルプレイヤーのストーリー重視ゲームなど、瞬時の反応が求められないゲームジャンルでは、十分に実用的な選択肢になるだろう。
個人的に最も期待しているのは、この技術が「ハードウェアアップグレードの延命剤」となる可能性だ。現在のGPU価格高騰と供給不足の状況を考えると、既存のハードウェアでより良いゲーム体験を実現できる技術の価値は非常に高い。Lossless ScalingのAdaptive Frame Generationは、その一歩を示すものだと言えるだろう。
NVIDIAのSmoothMotionと比較すると、ハードウェア汎用性という点で大きなアドバンテージがある。AMD GPUやIntel GPUユーザー、あるいは古いNVIDIA GPUユーザーにとって、このような選択肢があることの意義は大きい。特に、各GPU世代での特徴的な「強み」と「弱み」を考えると、特定のゲームでは公式ソリューションよりもLossless Scalingのアプローチが優れた結果をもたらす可能性も十分にある。
最後に、このような第三者による革新的な技術の登場は、NVIDIAやAMD、Intelなど大手メーカーにとっても良い刺激となるだろう。競争が活発化することで、最終的にはユーザーが恩恵を受けることになる。今後のアップデートや機能追加にぜひ注目していきたい。
※本記事の情報はDigital Foundryのポッドキャストおよび各種報道に基づいています。実際の性能や互換性は環境によって異なる場合があります。
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