ゲーミングPCを購入する際、様々なオプションやサービスが提案されるが、その多くは実は不要なものだ。本記事では、PCショップやBTOメーカーが提案する「追加オプション」や「有料サービス」のうち、実際には必要のないものを徹底解説する。無駄な出費を省き、本当に必要な性能向上に予算を使うための完全ガイドだ。
サービス編
初期設定サービス
不要レベル:☆☆☆☆☆
これははっきり言って「情弱ビジネス」の典型だ。Windows 11の初期設定は指示通りに進めれば10~20分で終わる簡単な作業だ。仮に分からなくても、スマホで「Windows 11初期設定方法」と検索すれば解決する。
初期設定を早く終わらせたい場合は、ローカルアカウントを作成するのがおすすめだ。方法は以下の通り
- 初期設定画面で Shiftキーを押しながらF10キーを押す
- コマンドプロンプトが立ち上がるので、以下のコマンドを入力しEnterキー
【oobe\bypassnro.cmd
】 - 再起動後、インターネット接続画面で「インターネットに接続していません」を選択
※インターネットに接続している状態だとローカルアカウントの作成ができないので注意 - 次のページで「制限された設定で続行」をクリックするとローカルアカウントの作成画面に移る
- 後は設定を進めればOK
なお、初期設定を省略するよりも、むしろWindows 11の設定をきちんと確認しながら進めることで、自分のPCの理解が深まり、後々のトラブル対応にも役立つ。「分からないから」という理由で数千円~1万円以上する初期設定サービスに頼るのは非常にもったいない。
延長保証
不要レベル:☆☆☆☆
理由は期待値(費用対効果)が低いためだ。大体どのPCメーカーでも1年間の自然故障保証がついている。信頼性工学的に見て、1年間自然故障が起こらなかったPCがその後2年以内に壊れる確率は非常に低い。基本的に初期不良対応期間(一年間の自然故障保証期間)に故障しなければ問題ないと考えて良い。
ただし、以下のケースでは例外的に検討の余地がある
- 50万円以上の超高性能PC: 爆熱ハイエンドGPUを搭載している場合、ミドルクラスGPU搭載モデルより故障リスクが高まる
- 4年以上の長期保証: 3年を過ぎると一気に故障率が上がるため、長期利用を前提とする場合
- ビジネス用途: 故障によるダウンタイムが収入に直結する場合
結論として、20万円台のゲーミングPCでは完全に不要だ。一つの目安として、40万円以上のPCには付けても良いが、それ以下なら保証料金を他の性能向上に回した方が良い。また、ゲーミングPCは技術進歩が早いため、3年以内に買い替えることも多く、その場合は延長保証の意味がさらに薄れる。
サブスク保証(物損保証など)
不要レベル:☆☆☆☆
月額制の物損保証を含むサブスク型保証は、期待値が低いうえにシンプルに高すぎる場合が多い。特にデスクトップPCの場合、物理的な衝撃や水濡れなどの事故が起きる確率は極めて低い。
また、定期メンテナンスや診断費が割引になるメリットもあるが、PCショップが近所にないと手軽にサービスを受けられない。
ノートパソコン限定で、以下のような特殊な使用環境では例外的に検討の余地がある
- 外回りや現場仕事で頻繁に持ち運び、物理的ダメージを受けるリスクが高い
- 飲食しながらの作業が多く、液体こぼしのリスクが高い
- 子供がPCに触れる機会が多い環境
しかし、通常の使用環境では完全に無駄な出費となる。筆者を含め、PCに詳しい人やPCショップ店員の多くはこうした保証に加入していない。理由は単純で、費用対効果が悪すぎるからだ。
リカバリーメディア

不要レベル:☆☆☆☆☆
これは特に不要度の高いオプションだ。
初期設定と同時にリカバリーメディアを進めてくることが多いが、そもそも初期設定自体不要なサービスなのでWindowsインストールメディアで十分。
また回復ドライブを自分で作ることも可能だが、必要なデータをバックアップしてからクリーンインストールしたほうが良い。
- 高すぎる価格: 数千円するリカバリーメディアだが、自分で作成すれば500~1,000円程度のUSBメモリで作成可能
- 簡単に自作可能: Microsoftの公式サイトから「Media Creation Tool」をダウンロードし、USBメモリでWindowsインストーラーを簡単に作成できる
※個人的には汎用性の高いRufusがおすすめ - クリーンインストールが最適: システムに問題が生じた場合、メーカー独自のリカバリーより、純正Windowsの新規インストールの方が余計なソフトウェアがなくクリーンな状態になる
シンプルが故に問題の切り分けも迅速に行うことが可能
※ドライバの再インストールは必要になるので注意しよう。PCの型番を検索すればドライバのダウンロードが可能だ。
大切なデータについては、リカバリーに頼る前に日頃からバックアップ習慣をつけるべきだ。Cドライブ以外の場所やクラウドストレージにデータを保存する習慣をつければ、リカバリーメディアは完全に不要となる。
データ復旧サービス
不要レベル:☆☆☆☆☆
データ復旧サービスは非常に割高で、復旧できる可能性も決して高くない。特に物理的に破損したストレージからのデータ復旧は、専門業者でも完全な復旧は難しい。
最も重要なのは「予防」だ
- クラウドストレージの活用: OneDrive、Google Drive、Dropboxなどを利用
- 外付けHDDやSSDへの定期バックアップ: 重要ファイルは定期的に別メディアにコピー
- NASの導入: 重要度の高いデータを扱う場合はRAID構成のNASの導入も検討
大切なデータは常に複数の場所に保存する「3-2-1バックアップ戦略」(3つのコピー、2種類の媒体、1つはオフサイト)を心がけるべきだ。これにより、データ復旧サービスの必要性はほぼなくなる。
USBメモリに保存しておくだけでも十分だが、フラッシュメモリの特性上データの長期保存には向いていない。長期保存をする場合はHDDにデータを保管しよう。
セキュリティソフト
不要レベル:☆☆☆☆☆
現代のWindowsには標準でWindows Defenderが搭載されており、これだけで十分なセキュリティレベルを確保できる。サードパーティー製のセキュリティソフトは以下のデメリットがある
- システムリソースの消費: ゲーミング時のパフォーマンスに悪影響を与える可能性がある
- 誤検知の可能性: 正常なプログラムをマルウェアと誤認することがある
- 価格: 年間サブスクリプションの費用がかかる
ウイルス感染の主な原因は、危険なリンクへのアクセスや不明なソフトのダウンロードなど、ユーザー自身の行動によるものだ。安全なブラウジング習慣と基本的なセキュリティ意識があれば、Windows Defenderで十分だろう。
特に、以下の基本的な対策を守れば、追加のセキュリティソフトは不要だ
- 怪しいメールの添付ファイルを開かない
- 公式サイト以外からソフトウェアをダウンロードしない
- Windowsとブラウザのアップデートを欠かさない
- 不明なUSBメモリを差し込まない
カスタマイズ編
パーティション分割
不要レベル:☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
BTOパソコンを購入する際に提案されるパーティション分割サービスは完全に不要だ。理由は以下の通り
- 簡単に自分でできる: Windowsの「ディスクの管理」から数クリックで分割可能
- 柔軟性の欠如: 事前に分割してもらうと、後から容量配分を変更するのが面倒
- 実用性の低さ: 論理的な分割よりも、物理的に別のストレージを追加する方が安全性が高い
パーティション分割の代わりに、データ用に別の物理ストレージ(追加のSSDやHDD)を導入する方がトラブル時の安全性が高まる。Cドライブが破損しても、別ドライブのデータは無事という利点がある。
BTOショップが提案するパーティション分割サービスは、数千円もするケースがあるが、数分で自分でできる作業に対価を払う必要はない。
電源ユニットのアップグレード

不要レベル:☆☆☆
BTOメーカーが標準で提供する電源ユニットは、搭載されているGPUやCPUに対して十分なテストが行われている為、基本的には不要
特に注目すべきは以下の点だ
- 省電力設定: 爆熱高消費電力で有名な13、14世代IntelのCPUでも、ほとんどのBTOメーカーでは適切な電力制限がかけられている。
- 十分な余裕: 標準電源は必要な電力に余裕を持たせて選定されている
- コスト効率: 電源ユニットのアップグレードよりも、GPUやCPUの性能向上に予算を使った方が体感性能は上がる
一般的なゲーミングPCでは、標準電源で十分だ。例外としては、以下のようなケースが考えられる
- 将来的にGPUを大幅にアップグレードする具体的な予定がある
- 消費電力の非常に高いハイエンドGPUに交換予定
- 電源の静音性能に特にこだわりがある
これらの特殊な要件がない限り、標準電源で十分なパフォーマンスが得られる。
周辺機器のセット購入

不要レベル:☆☆☆
BTOショップやメーカーサイトで提案されるキーボード、マウス、モニターなどの周辺機器セットは、以下の理由から通常は避けるべきだ
- 選択肢の制限: セット提案される製品は限られており、自分に最適な製品が含まれているとは限らない
- 価格の不透明さ: 個別購入より安く見えても、実際には質の低い製品だったり、市場最安値と比較すると割高だったりすることがある
- 実機確認の重要性: 特にキーボードやマウスは実際に触ってみないと使用感がわからない
周辺機器は、PCとは別に専門店やECサイトで個別に購入することをおすすめする。具体的に欲しい製品が決まっていて、偶然BTOパソコンとセットで割引されている場合のみ、セット購入を検討する価値がある。
特にゲームを快適に楽しむためのマウスやキーボードは、個人の手の大きさや好みに大きく左右されるため、可能であれば実機を確認してから購入すべきだ。
Windows 11 Pro

不要レベル:☆☆☆☆☆
ゲーミングPCを購入する際に提案されるWindows 11 Proへのアップグレードは、多くの一般ユーザーにとって完全に不要だ。理由は以下の通り
- Home版で十分: ゲームプレイに必要な機能はHome版に全て含まれている
- 費用対効果: Pro版の追加費用(通常1万円程度)は、GPUやSSDなど体感性能向上に回した方が有効
- 使わない機能: BitLocker、Hyper-V仮想化、リモートデスクトップホストなど、Pro版の追加機能は一般ユーザーにはほとんど不要
例外として、以下のようなユーザーはPro版を検討する価値がある
- 「Windows Sandbox」を頻繁に使用する
- ビジネス用途でActive Directoryドメインに参加する必要がある
- リモートデスクトップでの接続を頻繁に使う
- BitLockerによるドライブ暗号化が必要
上記の専門用語の意味が分からない場合は、それはPro版が不要な証拠だ。一般ゲーマーはHome版で十分である。
水冷CPUクーラーへのアップグレード

不要レベル:☆☆☆☆☆
空冷CPUクーラーから水冷クーラーへのアップグレードは、以下の理由から多くの場合不要だ
- 十分な冷却性能: 標準の空冷クーラーでも、BTOメーカーが適切な電力設定を行っているため冷却は十分
- コスト高: 簡易水冷は一般的に5,000円以上の追加費用がかかる
- 寿命と信頼性: 水冷システムはポンプの故障リスクがあり、長期的な信頼性は空冷より劣る場合が多い
また、性能を発揮できる寿命は2~3年程となり、完全に消耗品だ。 - メンテナンス: 水冷クーラーはメンテナンスが難しく、グリスの塗り替えも複雑
冷却水の交換はできない※やろうと思えばできなくもないが、漏れる可能性があるのでおすすめしない。
水冷クーラーが有用なケースは限られており、以下のような特殊な状況のみだ
- CPUの電力制限を開放する場合
- 究極の静音性を求めている
- 外観のカスタマイズを重視している
通常のゲーミング用途では、標準空冷クーラーあるいは少し上位の空冷クーラーで十分なパフォーマンスが得られる。未使用時の発熱は水冷より空冷クーラーの方が放熱効率が高い場合もある。
オプションのグリス(CPUグリス)
不要レベル:☆☆☆
BTOショップがオプションで提案するCPUグリス(サーマルペースト)のアップグレードは、以下の理由から不要だ
- コスト対効果: 高級グリスによる温度低下は数度程度で、体感性能にほとんど影響しない
- 割高な価格: オプション価格は市販の高級グリスよりも高いことが多い
- 消耗品: グリスは1-2年で性能が落ちるため、初期の高級グリスへの投資効果は限定的
- 自分で交換可能: 空冷クーラーの場合、グリスの塗り替えは簡単な作業で自分でもできる
標準で使用されるグリスでも十分な性能があり、特に問題なく使用できる。もし将来的にグリスの塗り替えが必要になった場合でも、1,000円程度の市販品で十分だ。1,000円台の安いグリスでも複数回の塗り替えが可能で、費用対効果は高い。
水冷クーラーを選択した場合は塗り替えが面倒になるが、それでもオプションのグリスにかける費用があれば、他の性能向上に予算を使った方が効果的だ。特に2-3年で買い替えるような使い方であれば、完全に不要なオプションと言える。
理解しておくべき点
BTOショップやメーカーが提案するオプションやサービスは、その多くが「利益率の高い追加サービス」という側面を持つ。消費者として重要なのは、本当に必要なものと不要なものを見極める目を持つことだ。
一般的に、ゲーミングPCのパフォーマンスに直結するのは以下の3つの要素だ
- GPU: グラフィック処理の中核、ゲーム体験に最も影響
- CPU: 処理速度全般に影響、特にシミュレーションやストラテジーゲームで重要
- SSD: ロード時間やシステム応答性に直結
- メモリ:ロード時間や遅延、スタッタリングに影響
限られた予算がある場合、上記4要素の性能向上に優先的に投資し、この記事で紹介した「不要なサービス・オプション」は思い切って削ることで、最高のコストパフォーマンスを実現できる。
筆者のコメント
PCショップに勤務し、何台ものゲーミングPCを販売・サポートしてきた経験から言えることは、多くのオプションサービスは「本当に必要なユーザー」と「全く必要ないユーザー」の区別なく提案されているという事実だ。
例えば、初期設定サービスは高齢者やPC初心者にとっては価値があるかもしれないが、若いゲーマーには完全に不要だ。同様に、Windows 11 Proは一般ゲーマーにはほぼ無意味だが、特定のビジネスユースには必須となる。
こうした「ユーザーの実際のニーズ」と「提案されるサービス」のミスマッチが、不必要な出費を生み出している。
重要なのは「自分にとって本当に必要なものは何か」を冷静に判断することだ。この記事が、そうした判断の一助となれば幸いだ。賢い選択で、限られた予算を最大限に活かしたゲーミングPC購入を実現してほしい。
※本記事は2025年3月時点の情報に基づいています。メーカーやショップの方針変更により、一部内容が異なる場合があることをご了承ください。
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