昨日報じたAMD Ryzen 7 9800X3Dの「突然死」問題について、ASRockが公式声明を発表。「CPUは壊れていない」と明言し、一部の報道で広がっていた「大量のCPU故障」という情報は「誤情報」であると断定した。問題の本質は「メモリ相性によるブート不良」であり、新バージョンのBIOSでの対応を進めていることを明らかにした。
目次
ASRockの公式声明内容
ASRockは2月25日、公式サイトでプレスリリースを発表するとともに、日本向けX(旧Twitter)アカウントでも声明を出した。これによると
「誤情報が拡散されているので一言!結論から言うと、壊れていません。一部のCPUがメモリ相性問題で起動しない問題です」(ASRock Japan公式アカウント)
この発表は、Redditなどで広がっていた「9800X3Dが大量に故障している」という情報を真っ向から否定するものとなった。特に注目すべきは、問題の原因が「CPUの故障」ではなく「メモリ相性によるブート不良」であると明確に特定された点だ。
新BIOS「3.20」の提供開始
ASRockは問題解決のため、全AM5マザーボード向けに新しいBIOSバージョン「3.20 Beta」をリリースした。公式プレスリリースでは以下のように説明している
「AMDのRyzen 9000シリーズプロセッサを搭載した際の予期せぬブート問題やエラーコードを改善するため、ASRockはAM5シリーズマザーボード向けに最新の3.20ベータBIOSをリリースしました」
このBIOSは、ASRock公式サイトからダウンロード可能となっており、マザーボードのBIOS Flashback機能を使用して簡単にアップデートできるとしている。
問題の実態:「死亡」ではなく「ブート不良」
ASRockの説明によれば、これまで「CPU死亡」と報告されていた事例の多くは、実際には以下のような状態だったと推測される
- メモリ相性によるブート不良
- 特定のメモリ構成とCPUの組み合わせで起動できない
- マザーボードのデバッグLEDが「CPU」や「DRAM」エラーを表示
- 外見上は「CPU故障」と区別がつかない症状
- BIOS設定の問題
- EXPOプロファイル適用後に発生するケースが多い
- 特定のBIOSバージョンで問題が顕著に
- 解決可能な一時的問題
- BIOS Flashbackで旧バージョンに戻すことで復活するケース
- 特殊なBIOS設定で回復するケース
この発表は、Reddit上で報告されていた「BIOS Flashbackでの復活例」や「特別なBIOSで復活した例」とも整合性がある。多くのケースでは、CPUそのものに物理的な故障は発生していなかった可能性が高い。
メモリ相性問題の可能性
ASRock Japanの声明で明示された「メモリ相性問題」という原因について、技術的に考えられる背景は以下の通りだ
9800X3DのメモリコントローラーとDDR5メモリの互換性
- Zen 5アーキテクチャの新しいメモリコントローラー
- 特定のDDR5メモリ構成との相性問題
BIOSによるメモリタイミング・電圧制御
- 適切でないメモリ設定(特にEXPOプロファイル使用時)
- 不安定なメモリ設定によるシステム起動不良
X3D特有の電圧感度
- 3Dキャッシュを搭載するX3DモデルはCPU電圧に特に敏感
- メモリコントローラー電圧の不適切な設定が安定性に影響
これらの要因が複合的に作用し、特にASRock製マザーボードで顕著に現れた可能性がある。ASRockが特定のBIOSバージョンでこの問題に対処していることから、ファームウェアレベルでの修正が可能な問題であると判断できる。
他のマザーボードメーカーの動き
ASRockに続き、MSIやGigabyteなど他のマザーボードメーカーも対応に動き始めている
- MSI:清水貴裕氏(MSI担当)が「AMDが各ベンダーと動いている」と発言
- Gigabyte:公式発表はまだないが、対応準備中と思われる
特にMSI担当者の発言からは、問題が業界全体で認識され、マザーボードメーカー各社とAMDが協力して対応していることがうかがえる。ただし、ASRock以外のメーカーからの具体的な対応策の発表はまだ行われていない。
今後の対応と購入検討者へのアドバイス
現在推奨される対応策は以下の通り
現在9800X3Dを使用中の場合
- ASRock製マザーボードでは、BIOS 3.20へのアップデートを検討
- 正常動作している場合は、急いでBIOSアップデートを行う必要はない
- 症状が出ている場合、BIOS Flashbackで3.10または3.20に変更を試みる
購入を検討中の場合
- パニックになって購入を中止する必要はなさそう
- ただし、可能ならASRock製マザーボードでは最新BIOSへの更新後に使用
- メモリ選びには注意し、QVLリスト掲載品の選択が望ましい
ASRockの発表が正確であれば、これは深刻なハードウェア故障ではなく、ソフトウェアアップデートで解決可能な問題である可能性が高い。
問題の再評価:パニックは不要か
今回のASRockの声明は、「9800X3D大量故障」という見方を根本から覆すものだ。Reddit上で収集された40件以上の「故障例」の多くが、実際には一時的なブート不良であった可能性が高い。
「突然死」と判断された要因としては
- デバッグLEDの「CPU」エラー表示が故障と誤認された
- BIOSアップデートではなくCPU交換で対応したケース(実は不要だった可能性)
- 初期の少数の実際の故障例がSNSで拡散され、印象が強化された
特に今回の件では、最初に「ASRockマザーボードで9800X3Dが死ぬ」という情報がSNSで急速に拡散し、それがメディアに取り上げられ、さらに大きく報じられるというパターンが見られた。これは現代のネット社会における「情報拡散と増幅」の典型的な例だろう。
筆者のコメント
ASRockの公式声明により、この問題の見方が大きく変わった。当初「9800X3Dの大量故障」と懸念されていた事態は、実際には「メモリ相性によるブート問題」であり、BIOS更新で解決可能というのが現時点での最も信頼できる見解だ。
前回の記事では限られた情報に基づいて問題の深刻さをお伝えしたが、今回の公式発表を受けて認識を改める必要がある。ハイエンドハードウェアの初期不具合については、メーカー各社が多大な努力を重ねて対応にあたっていることに、あらためて敬意を表したい。また、前回の記事で不確かな情報をもとに懸念を広げる一因となってしまったことについては、読者の皆様にお詫び申し上げる。
今回の教訓として参考になるのは以下の点だろう
- 新製品導入時は最新BIOSの適用を検討する
- メモリ相性を考慮し、可能ならQVLリスト掲載品を選ぶ
- 問題発生時はハードウェア交換を急ぐ前に、BIOSダウングレードなどの対策を試す
また、各社の対応スピードは注目に値する。問題が表面化してからわずか数日で、ASRockは原因究明と対策BIOSのリリースを行った。今後も他社からの対応が続くと予想され、問題は早期に収束していくのではないかと期待している。
※本記事はASRock公式発表、ASRock JapanのX投稿、およびwccftech.comの報道に基づいています。状況は日々変化しており、新たな情報が入り次第更新いたします。
情報・参考


コメント
ASRockだし、実際に修正版のファーム出てからじゃないと何とも言えないな。
B550のUSB不安定問題未だに直してなかったりして信頼がそもそもない。