米国での半導体製造には、私たち消費者が直視しなければならない不都合な真実があります。それは「コスト」の問題です。
TSMCのアリゾナ工場(Fab 21)をはじめとする米国展開が、同社の利益構造を劇的に圧迫しているとの報道がなされました。
労働コストの高騰と設備の減価償却費により、米国でのチップ製造マージンは、台湾での製造に比べて著しく縮小しているとされています。
この製造コストの構造的な変化は、単なる企業の決算ニュースにとどまる話ではありません。
将来的にグラフィックボードやCPUの価格へ転嫁される可能性が高いからです。PCゲーマーや自作ユーザーにとって無視できないこの事象について、技術的・経済的背景から解説します。
米国製造が招くコスト増は避けられない
TSMCの米国工場での製造コスト増大は、将来的なハイエンドPCパーツの価格高止まり、あるいはさらなる値上げの前触れであると判断できます。
報道によれば、TSMCの米国展開は同社のチップ製造マージン(利益率)を大きく毀損しているといいます。
一部の指標では極端な利益率の低下も示唆されていますが、その主な要因は明確です。
NVIDIAやAMD、Appleといった主要クライアントがTSMCに製造を委託している以上、製造原価(COGS)の上昇は、巡り巡って最終製品の価格設定に影響を及ぼします。
「米国で作れば供給チェーンが安定する」という安全保障上のメリットは確かに存在します。
しかしコスト面だけで見れば、台湾製造時代のような高いコストパフォーマンスを期待するのは難しい局面に入ったと言えるでしょう。
なぜTSMCの利益はこれほど圧迫されているのでしょうか
TSMCの利益構造を崩している要因は、大きく分けて「労働コスト」と「減価償却費」の2点にあります。
1. 労働コストの構造的な格差
半導体製造は高度な自動化が進んでいるとはいえ、オペレーションを行うエンジニアや技術者の人件費は極めて重要です。
台湾と米国では人件費の基準が根本的に異なります。
特に熟練した半導体エンジニアの確保は米国でも競争が激しく、TSMCは優秀な人材のために高額な報酬を用意する必要があります。
加えて、労働文化の違いや現地の管理コストなどが、台湾本国とは比較にならない負担となっています。
2. 設備投資と減価償却の重圧
米国での工場建設コストは、台湾と比較して数倍に達するとも言われています。資材費の高騰や、現地の厳格な規制への対応がその理由です。
企業会計上、これらの巨額な設備投資額は数年にわたって「減価償却費」として経費計上されます。つまり、工場が稼働し続ける限り、膨大な固定費がTSMCの財務を圧迫し続ける構造になっているのです。これにより、ウェハ1枚あたりの製造コストは必然的に跳ね上がることになります。
「米国製なら安心」の裏にあるコスト負担
地政学的なリスクを分散させるためにサプライチェーンを米国へ移すことは、国家戦略としては正しい判断です。トランプ政権やバイデン政権が進めてきた「Made in USA」の半導体政策は、供給網の強靭化を目的としています。
しかし、一人のPCユーザーの視点に立った時、この政策は必ずしも財布に優しいものではありません。「供給の安定」と引き換えに支払うコストがあまりに大きいからです。
TSMCの米国ラインで製造されたチップを搭載したGPUやCPUが、従来の台湾製造版と同じ価格で販売される保証はありません。むしろ、AppleやNVIDIAなどのベンダーは、コスト増分を「プレミアム価格」として消費者に転嫁する可能性が高いと考えられます。
安心代として、GPUやCPUに数万円単位の上乗せを受け入れられるかどうか。これが今後の自作PC市場に突きつけられる課題となるでしょう。
私たちが取るべきアクションと買い時の見極め
以上の状況を踏まえ、PCパーツの購入を検討しているユーザーへのアドバイスは以下の通りです。
これまでは技術の進歩によって「性能あたりの単価が下がる」のが常識でしたが、今後はその常識が通用しにくくなります。製造プロセスの微細化限界に加え、今回解説した製造コストの増大により、ベース価格自体が上昇トレンドにあるためです。
もし現在、ハイエンドなゲーミングPCの構築を検討しているのであれば、台湾製造が主流である現行世代、あるいはコスト転嫁が本格化する前の製品を押さえておくのが賢明な判断かもしれません。「次世代を待てば安くなる」という期待は、少なくとも価格面においては裏切られるリスクがあることを考慮に入れておくべきでしょう。



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