フェーズ数って結局なに?いくつ要るの?
「マザーボード 性能」や「マザーボード 選び方」で検索すると、フェーズ数という言葉がよく出てくる。だが、何を意味していて、何フェーズあれば足りるのかは分かりにくい。店頭で聞いても、はっきり説明できる人は多くないのが現実だ。
そこで本記事は、まず“やさしく”要点だけを押さえ、足りないとどうなるか→どう選べばいいか→消費電力別の目安表→おすすめ構成まで、順番にまとめた。後半には中級者向けのちょっと詳しい解説も用意した。上からそのまま読めば大丈夫である。
目次
まず「フェーズ数」ってなに?
フェーズ数とは?
- フェーズ=CPUに電気を送る「給電チーム」の数
- 多いほど発熱を分散し安定化。ただし“数”だけでは不十分
フェーズ=小さな“給電チーム”の数だと思えばよい。
CPUは低い電圧で大きな電流を使う。そこでマザーボードは、同じ動きをする給電チームを複数用意して、交代で電気を送っている。これがフェーズである。
- フェーズが多いほど、各チームの負担が軽くなる(=熱くなりにくい)。
- フェーズが多いほど、供給できる電力量が増える(Ryzen9等の消費電力の多い上位CPUを使うことができる)
- ただし、チームの“質”と“冷やし方”が悪いと、人数を増やしても苦しい。“数”だけでは決まらないのがポイントだ。
まずはここだけ知っておけばOK
- 仕様表はVcore(CPU用)のフェーズ数だけを見る(合計14+2+1などと表記されている場合は最初の数字「14」がVcore用フェーズになる)。
- パワーステージ(DrMOS/SPS)の“定格A”を見る(60A/80A/90A/110Aなど)。容量が大きいほど多くの電流を扱えるため高性能だ。
- VRMヒートシンクの作りを見る(フィンが立っている、ヒートパイプがある、面積が広い等)。
フェーズが「足りない」とどうなる?
足りない(または部品の質や冷却が弱い)と、VRMが過熱しやすい。結果として——
- 温度上限に達してしまい、強制的に性能が落ちてしまう(サーマルスロットリング)
- CPUが要求する電力を供給しきれず、CPU本来の性能を発揮できなくなってしまう。
- 長期的には寿命にも不利になる。※VRM回路を構成する部品は温度により耐久性が大きく変動する。
CPUに最適なフェーズの選び方
1.自分の使い方(負荷の重さ)を見極める
ゲームだけ/配信や編集もやる/長時間レンダリング・AVX多用…といった用途で必要な余裕は変わる。
2.仕様表はここ見ればOK
- Vcoreのフェーズ数
- パワーステージ(DrMOS/SPS)の定格A(例)80A DrMOS,60A SPS等
- VRMヒートシンクの作り(フィン・ヒートパイプ・大きさ)
※DrMOSやSPSの記載のない場合、昔からあるタイプのディスクリート型MOSFET(変換効率が悪く発熱しやすい)であることがほとんど。
基本的にはDrMOS・SPSタイプのMOSFETを選択しよう※DrMOS・SPSであれば記載してあることが多い
3.最後はパワーステージの定格A×フェーズ数で決める
温度は実測しないとわからない。要求される消費電力に対し、どのくらいのフェーズ数があれば足りるのか目安を覚えよう。
CPUの消費電力で選ぶ「必要目安」表
想定の使い方 | 代表的なCPU | PPT / 実効Wの目安 | ざっくりIout (Vcore=1.15V) | 推奨Vcoreフェーズ数 (実効最大電力で長時間安定運用できる目安) |
---|---|---|---|---|
そこまで重くない一般的なゲームやネットサーフィン用途 省エネCPU | Core i5 12400(F) Ryzen 7 5700X Ryzen 5 7600 Ryzen 7 7700 Ryzen 9 7900 ※Ryzen7 7800X3D Ryzen 5 9600X※65W Ryzen 7 9700X※65W | 65~119 ※PPT 162W のRyzen7 7800X3Dは実効88W以下になる場合が多い | 57~104A | ディスクリート型 6フェーズ以上 DrMOS / SPS(定格60A) 6フェーズ以上 ※4~5フェーズあれば足りると思うが、DrMOS対応で6フェーズ未満のマザーボードはおそらく存在しない |
重めのゲームや動画編集用途 ミドルクラスCPU | Core i5 14400(F) Core i5 14500 Ryzen 7 5800X Ryzen 5 7600X Ryzen 7 7700X Ryzen 7 9800X3D ※Ryzen7 7800X3D PBO Ryzen 9 9900X | 120〜179 | 104〜157A | ディスクリート型 10フェーズ以上 DrMOS / SPS(定格60A) 8フェーズ以上 |
重いゲーム+配信 本格的な動画編集用途 ハイエンドCPU | Core i5 14600K(F) Core i7 14700(F) Core i7 14900(F) Ryzen 9 7900X Ryzen 9 7950X Ryzen 9 9950X | 180~230 | 174~200A | ディスクリート型 12フェーズ以上※非推奨 DrMOS / SPS(定格60A) 10フェーズ以上 |
本格的な動画編集、3DCG制作等のクリエイティブ用途 長時間レンダリング 重いAVX等 | Core i7 14700K(F) Core i9 14900K(F) Ryzen 9 7950X(PBO) Ryzen 9 9950X(PBO) | 240〜300 | 209〜261A | ディスクリート型 非推奨 DrMOS / SPS(定格60A) 12フェーズ以上 ※筆者としてはこのクラスのCPUをフルパワーで連続使用する場合、80A DrMOS / SPS かつ14フェーズ以上あるマザーボードしか使わない |
- 補足:窒息ケースや水冷クーラーを使用する場合、冷却のために推奨より2フェーズ増やしておくのがおすすめ。
※水冷クーラー使用時はVRMヒートシンクに風が当たりにくくなる為冷えにくくなる。
目安のざっくり基準
- 120W以下:6フェーズ以上
- 180W級:10フェーズ以上
- 240W級:12フェーズ以上
- 高負荷運用:80A×14フェーズ前後推奨
おすすめ構成
初心者向け:静かで強いゲーミング(Core i5 / Ryzen 5)
- マザーボード:Vcore 6フェーズ以上
- CPU:〜120Wクラス
- 電源:80 PLUS Gold 650〜750W(ATX 3.x対応だと将来も安心)
ASRock B650 Pro X3D WiFi は50A DrMOS Vcore 8フェーズ以上あり、150WクラスまでのCPUは余裕で運用できる計算になる。ゲーム用途メインなら9800X3Dを使っても全く問題ない。
中級向け:配信+編集(Core i5(K) / Ryzen 7)
- マザーボード:60A級 Vcore 10フェーズ以上
- CPU:〜200Wクラス
- 電源:80 PLUS Gold 750~850W
Vcoreは80A DrMOS + 12フェーズと超強力。Ryzen9 でも余裕で対応できる実力を持つ。
※同じTUF GAMINGシリーズでも【– E 】とEのつくマザーボードは性能が大きく劣るので要注意
上級向け:長時間レンダ/AVX(Core i7, i9 / Ryzen 9)
- マザーボード:60A級 Vcore 12フェーズ以上
- CPU:〜300W運用も視野
- 電源:Gold/Platinum 850〜1200W(GPU次第で1000W推奨)
Vcoreは 80A SPS + 14フェーズとコンシューマ向けCPUには過剰とも言える程のスペック。
フェーズ以外の拡張性やスペックも非常に高く執筆時点でGearTune最推しマザーボード。
さらに詳しく知りたい人へ
フェーズとは何か(PWMコントローラーが数える“単位”)
フェーズとは、PWMコントローラーが個別に制御する給電チームの単位である。1フェーズの中には、スイッチ素子(DrMOS/SPSなどのパワーステージ)とインダクタ(チョーク)、出力側のコンデンサがいる。PWMは複数フェーズに位相差をつけて順番に働かせ、CPUに滑らかな直流を届ける仕組みだ。
位相(フェーズ)数が多いほど、電源供給が安定し、MOSFET1つあたりの電流を減らすことで発熱の低減、長寿命化が期待できる。
しかし、位相数が増えるほどコストと故障率が上がり、スイッチング損が増え低電流時の効率が下がるというデメリットもある。
消費電力の少ないミドル以下の省エネCPUにとって、多すぎるのは良くない。
ただし、OCする場合フェーズ数は多いほど良い。
重要なのは、フェーズ数=PWMコントローラーが直接さばける系統の数だという点である。PWMが扱えるフェーズ数には上限があり、多フェーズを直接制御できる高機能PWMは高価で、ミドルレンジには過剰なことが多い。
“見かけのフェーズ”を増やす二つの手法(ダブラーとパラレル)
現在の主流は、PWMの限界をダブラーかパラレル(並列)で補うやり方である。ただし目的と副作用が違う。
ダブラー(倍化)
エントリー〜ミドル帯でよく使う。PWMの1つの出力を二分して、タイミングをずらしつつ2つのフェーズとして駆動する方法だ。
ダブラーICによって位相を変え、PWMが直接扱える数を見かけ上“倍”にできるので、少ないPWMピンで多相に見せることができる。位相を増やせるぶん波形は整いやすいが、仲介ICを挟む都合でわずかな伝搬遅延が入る。
このため、メーカーやレビュアーの中にはダブラーで増やした分を“真のフェーズ”として数えない立場もある(“フェーズ数”と表記するのは微妙、という考え)。
パラレル(Teamed/並列)
ミドル以上(DrMOS/SPS採用の帯域)で主流。
PWMコントローラーが扱える5〜8フェーズ程度をそのまま直結で使い、1フェーズあたりのパワーステージを2個(ときに3個)並列にするやり方だ。
例として、「7フェーズ(PWM直制御)×各フェーズ2パワーステージ=14パワーステージ」というVcore構成が非常に多い。上位モデルでも考え方は同じで、“20フェーズ”と謳う実体が「10フェーズ×2並列」、“24フェーズ”が「12フェーズ×2並列」というパターンがよくある。
パラレルはダブラーではないため、応答の遅延を増やさずに1フェーズあたりの許容電流を稼げる。現行CPUのように瞬間的に電流をドンと要求する負荷に強く、実効挙動はトゥルーフェーズ(PWMが全相を直接制御)にかなり近い。このためパワーステージ数=フェーズ数とみなして表記するメーカーも少なくない(マーケ的にはそう書きやすい)。
フェーズ数を増やすデメリットである、スイッチング損の増加による低電流時の効率悪化に対し効果的だ。
VRMを形作る残りの要素(チョークとコンデンサ)
インダクタ(チョーク)は、スイッチで刻まれた電気をなめらかな直流に整える“濾過器”である。昔はむき出しのコイルが載っていたが、今は密閉型の四角いチョークが主流だ。出力側のコンデンサは一時的に電気を貯めて電圧の揺れを抑える“バッファ”である。
まとめると、PWM(司令塔)→パワーステージ(スイッチ)→チョーク(整える)→コンデンサ(仕上げ)→CPUという流れになっている。ここが見えていれば、VRMの大枠は理解できている。
どこまでを“トゥルーフェーズ”と呼ぶか(実務的な割り切り)
- トゥルーフェーズ:PWMが各フェーズを直接個別制御。理想論としては最も素直だが、PWMが高価になる。※現在はほぼない
- ダブラー多用:見かけの相数が多い設計。平滑性は上がるが、仲介ICの分だけやや遅延が入る。
- パラレル:PWMの実フェーズは少なめだが、各フェーズの許容電流を増やすことで応答の速さを保ったまま余裕を確保できる。
もう一歩だけ深掘り(判断のコツ)
フェーズの数字を鵜呑みにせず、次の3点だけを見ると間違えにくい。
1つ目はDrMOSやSPS対応のMOSFETが使われているか、2つ目はパワーステージの個数と定格A(50/55/60/70/80/90/100/105/110A等)、3つ目はVRMヒートシンクの作り(フィン・ヒートパイプ・面積)である。
この3点を確認できれば使いたいCPUに最適なマザーボードを選ぶことができる。
まとめ:フェーズ数は“数×定格A×冷却”のバランス
CPUに合ったマザーボードを選ぶコツは、単純なフェーズ数だけで判断しないことが重要だ。
パワーステージの定格Aと冷却構造をあわせて確認すれば、必要な安定性と性能を引き出すことが出来る。自分の用途に応じた余裕を持ったマザーボードを選ぶことが、長く快適にPCを使う一番の近道となる。
今回の記事では言及していないが、高クロックのメモリを使う場合や、動作の安定性を重視する場合、Vcore以外のSOCやMISCのフェーズ数も重要になる。ある程度Vcore フェーズが充実したマザーボードであればSOCやMISCフェーズもそれなりのものが使われているので、それほど心配する必要はない。興味があるなら調べてみるのも面白いと思う。
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