5月20日に発売予定のNVIDIA GeForce RTX 5060について、世界各国のメディアが「プレビュー記事」を一斉公開した。しかし、記事公開の背景には前例のない厳しい条件と制限が課されていることが明らかになった。複数の海外メディアおよび日本国内のASCII.jpのレポートによると、これらの「プレビュー」にはNVIDIAが詳細に設定した条件下でのみテストが許可され、透明性と公平性に対する重大な疑問が生じている。
目次
異例のプレビュー条件
ドイツのGameStar Techが明らかにした情報によると、NVIDIAは今回のRTX 5060プレビューに以下のような厳格な条件を設けている
- 比較対象の制限: 基本的にはRTX 3060とRTX 2060 Super(あるいはRTX 2060)との比較を主軸とし、一部メディアには例外的にRTX 4060との比較も認めている
- 検証タイトルの制限: Avowed、Doom: The Dark Ages、Marvel Rivals、Cyberpunk 2077、Hogwarts Legacyの5タイトルのみ
- 設定条件の厳格化: 1080p解像度、Ultra/最高画質設定、DLSSクオリティモード、レイトレーシング有効
注目すべきは、多くのメディアがRTX 4060との性能比較を行うことに厳しい制限を受けていた点だ。ドイツのGameStar Techが公開したレビュー条件ではRTX 4060との比較が明示的に禁止されていた一方、日本のASCII.jpなど「特別扱い」された一部メディアには例外的に比較許可が与えられていた。この選択的な情報開示は、公平性という観点から問題を複雑にしている。さらに重要なのは、現行ミドルレンジGPUの中で最も重要な比較対象となるべきRTX 4060 Tiとの性能比較が、全てのメディアで禁止されていた点である。
条件付きのAI最適化されたパフォーマンス
今回のプレビュー環境には、ハードウェアの真の性能を評価する上で重大な偏りがある
- DLSS 4とMulti-Frame Generation(MFG)の過度な強調: 全てのテストでDLSS 4とMFGが強制的に有効化され、RTX 5060の素の性能が隠されている
- 限定されたゲームタイトル: NVIDIA技術との最適化が特に進んだタイトルのみを選択し、様々なゲームエンジンでの汎用的な性能評価を避けている
- 1080p限定: 2025年の現在、1440pや4Kでのゲームプレイも一般的になる中、あえて1080pのみに制限している
フランスのJeuxvideo.comは「Jensen Huang(NVIDIAのCEO)が”実性能”と”見た目の滑らかさ”を混同している」と指摘し、AIによるフレーム補間技術を「パフォーマンス」と呼ぶことに疑問を投げかけている。実際には、それは「見かけ上のフレームレート」を高めているに過ぎない。
各国メディアが報告する違和感
複数の国のメディアから、この異常な制約に対する疑問の声が上がっている。ドイツのGameStar Techは「将来的にはNVIDIAが制限なく事前にGPUをテストできる従来の方法に戻ることを望む」と明記。
イギリスのTom’s Guideは「VRAM使用量が8GBを超えるゲームでの検証がまだされていない」と指摘し、RTX 5060の8GB VRAM容量に対する懸念を指摘。
フランスのJeuxvideo.comは、Hogwarts Legacyのようなゲームでは1%最低フレームレートが低すぎるとして「まともにプレイできる状態とは言い難い」とまで述べている。
意図的に制限されたRTX 4060 Tiとの比較
特筆すべきは、NVIDIAが各メディアに対して異なるレベルの制限を課している点だ。ドイツのGameStar Techは明確にRTX 2060 SuperとRTX 3060のみとの比較を指示されたと報告している一方、ASCII.jpやTom’s HardwareなどにはRTX 4060との比較も許可されていた。
しかし最も疑問を抱かせるのは、どのメディアもRTX 4060 Tiとの比較を行っていない点だ。RTX 4060 Tiは価格帯も近く、特に8GBモデルとの比較は多くの消費者にとって重要な判断材料となるはずだが、そうした比較データが見当たらない。
ASCII.jpのデータによれば、RTX 5060はRTX 4060と比較して
- Marvel Rivals: 約15%高速
- Cyberpunk 2077: 約25%高速
- Doom: The Dark Ages: 約17%高速
これらの数値は決して悪くないが、価格差を考慮すると「圧倒的な進化」とは言い難い。また、これらはDLSS Frame Generationを有効にした特殊な条件下での結果だ。ネイティブ性能での差はさらに小さくなる可能性がある。
プレビュー記事から読み取れる事実
制約のある中でも、各メディアの報告から客観的な事実をいくつか読み取ることができる
- RTX 3060と比較して55-60%の性能向上: Jeuxvideo.comの測定では、MFGを使用しない場合、RTX 5060はRTX 3060より55-60%高速
- 1080p/Ultra設定でのボトルネック: Cyberpunk 2077のパストレーシングモードでは、MFGなしで43FPS程度に留まる
- DLSS 4とMFGによる劇的なフレームレート向上: MFGを有効にすると、見かけ上のフレームレートは約3倍に向上するが、入力遅延は増加する
- 8GB VRAMの限界: Hogwarts LegacyやCyberpunk 2077では、8GB VRAMが限界に達していることを示唆する症状が見られた
発売前の適切な情報提供を妨げる問題点
最も問題なのは、NVIDIAが通常のレビュー解禁を発売日に設定しているという点だ。これにより以下の問題が生じる
- 発売日までに消費者が正確な情報を得ることができない
- 購入判断時に限定的な「プレビュー」情報しか参照できない
- 包括的なレビューが出るのは発売後数日経過後になる
Tom’s Hardwareによれば、通常のレビュープロセスでは1〜2週間前に十分な時間をかけてテストするのが慣例だが、今回はそれが意図的に避けられている。
ユーザーが知っておくべき真実
以上の事実を踏まえ、RTX 5060の購入を検討しているユーザーは以下の点に注意すべきだ
- 真の性能を評価するには総合レビューを待つ: 発売日後に公開される包括的なレビューを待って判断する方が賢明
- 8GB VRAMの限界を認識する: 2025年の現在、多くのAAA級タイトルでは8GBを超えるVRAM使用量が必要になっている
- DLSS 4依存の性能向上: ネイティブ性能の向上は限定的で、大部分の「進化」はAIフレーム生成技術に依存している
- 互換性のないゲームでの性能: DLSS 4に対応していない古いゲームや一部のタイトルでは、限定的な性能向上しか期待できない可能性がある
筆者のコメント
長年のPC自作経験と業界観察の視点から見て、今回のNVIDIAのアプローチには違和感を覚えざるを得ない。通常、メーカーが新製品に自信を持っている場合、あらゆる条件下での包括的なテストを許可し、その優位性を示そうとする。
厳格に制限された条件下での「プレビュー」のみを許可するという選択は、実質的に「都合の良い情報のみを先行して広めたい」という意図が透けて見える。特に、RTX 4060シリーズとの比較がないことは、「比較されたくない理由がある」と推測せざるを得ない。
この記事を読んでいるユーザーには、発売直後の購入を急がず、複数の信頼できるメディアが包括的なテストを行った結果を待ってから判断することを強くお勧めする。319ドル(日本では5万5800円前後)という金額は決して安い買い物ではなく、正確な情報に基づいた賢明な選択をすべきだ。
RTX 5060は特定の条件下では確かに魅力的な選択肢かもしれないが、その「条件」がどれほど限定的なものなのか、十分に理解した上で購入を検討すべきだろう。
※本記事はGameStar Tech、Tom’s Hardware、Tom’s Guide、Jeuxvideo.com、ASCII.jpなど複数の情報源に基づいています。各メディアの「プレビュー」記事および記載された制限条件について報告したものであり、NVIDIA製品そのものを批判する意図はないことを明記しておく。
情報・参考





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