ゲーミングPCのBTOカスタマイズ画面。CPUやグラボで熱く頭を悩ませた後、ふと目に留まるオプション項目、「セキュリティソフト」。
「PCの安全のために」「同時購入でお得」といった甘い言葉が並び、よく分からないまま「お守り代わり」に数千円、あるいは1万円以上もする3年版などをカートに入れていないだろうか。
PCショップ店員の経験から、またITインフラの最前線に立つ我々の視点から、敢えて言わせてもらう。その判断は、限りなく”黒”に近いグレーだ。
結論から言おう。現代のゲーミングPCに、高価なサードパーティ製セキュリティソフトは原則不要である。 それは、ユーザーの漠然とした不安につけ込み、本来不要なコストを負担させるための、極めて巧妙なビジネスモデルに他ならない。
この記事では、なぜゲーミングPCに有料セキュリティソフトが不要なのか。その技術的根拠と、PCショップの裏事情を交えながら、徹底的に解説していく。
目次
根拠1:Windows標準搭載「Microsoft Defender」が主役になった現代
「Windowsの標準セキュリティは気休め程度」
「セキュリティソフトを入れないとウイルスに感染する」
もし、あなたが未だにそんな2010年代の古い常識に囚われているなら、今すぐその認識をアップデートする必要がある。
かつてのWindows Defenderが頼りなかったのは事実だ。しかし、それは遠い過去の話。現在のWindows 10 / 11に標準搭載されている「Microsoft Defender」は、もはや「おまけ」などではない。世界トップクラスの性能を誇る、極めて優秀なセキュリティシステムなのだ。
第三者評価機関である「AV-TEST」などが実施するウイルス検出率テストにおいて、Microsoft Defenderは常にトップグループに位置し、多くの有名有料ソフトと遜色ない、あるいはそれを上回るスコアを叩き出している。
- リアルタイム保護: ファイルのダウンロードや実行を常時監視し、脅威を即座に検出・ブロックする。
- ランサムウェア対策: 指定したフォルダへの不正なアクセスを監視し、身代金要求ウイルスの被害からデータを保護する。
- ファイアウォール: 不正な通信をブロックし、外部からの侵入を防ぐ。
- フィッシング対策: Edgeブラウザと連携し、偽のWebサイトから個人情報を守る。
これだけの機能が、Windowsユーザーであれば誰でも、追加費用なしで利用できる。基本的なPCの安全は、OS標準の機能で既に十分に確保されている。これが、有料ソフトが不要だと断言できる最大の技術的根拠だ。
根拠2:ゲーマーにとってセキュリティソフトは「百害あって一利なし」
我々ゲーマーにとって、セキュリティソフトは単なる「不要な出費」に留まらない。時として「パフォーマンスを低下させる害悪」にすらなり得る存在だ。
- リソースの浪費: セキュリティソフトは、その性質上、常にPCのバックグラウンドで動作し続ける。CPUパワーやメモリといった、ゲームのために1%でも多く確保したい貴重なリソースを、常に消費し続けるのだ。
- パフォーマンスの急低下: 定期的なフルスキャンや定義ファイルの更新が始まれば、ディスクアクセスが急増し、ゲームのフレームレートが突然ガクッと落ち込む(スタッター)原因になる。白熱したオンライン対戦の最中にこれが発生した時の絶望は、ゲーマーなら誰しも想像がつくはずだ。
- 誤検知と通信ブロック: 最新のゲームやアンチチートプログラムを「脅威」と誤検知し、実行を妨げたり、オンラインプレイに必要な通信を遮断したりするトラブルも後を絶たない。
もちろん、多くの有料ソフトには「ゲームモード」が搭載されている。しかし、エンジニア視点で見れば、これは対症療法でしかない。そもそも不要な常駐ソフトをパフォーマンスに影響が出ないように「ごまかす」機能であり、根本的な解決策ではないのだ。OSと一体化して最適化されたMicrosoft Defenderほど、スマートなソリューションは他にない。
根拠3:なぜPCショップはそれでも勧めてくるのか?その不都合な真実
「でも、PCショップの店があれほど熱心に勧めてくれたのだから、必要なんじゃないか?」
そう思うのも無理はない。しかし、そこにはPC販売の現場における、ユーザーには語られない「裏事情」が存在する。
はっきり言おう。PCショップがセキュリティソフトを強く推奨する最大の理由は、「利益率が非常に高いから」だ。
CPUやメモリ、グラボといったPCパーツの利益率は、競争の激化により数パーセント程度ということもザラだ。しかし、ソフトウェア、特にセキュリティソフトのようなサブスクリプション製品は、一度契約を取れば安定した利益が見込める、販売店にとって非常に「おいしい」商品なのである。
店舗や販売員個人に厳しい販売ノルマが課せられているケースも少なくない。「お客様の安全のため」という大義名分のもと、PCに詳しくないユーザーの不安を巧みに利用し、利益率の高いオプション製品をセット販売する。これが、我々が「情弱ビジネスのワナ」と呼ぶものの正体だ。
まとめ:賢いゲーマーはセキュリティソフトにお金を払わない
PCのプロとして、改めて断言する。Windowsを最新の状態に保ち、Microsoft Defenderが有効になっていることを確認し、そして常識的な使い方(怪しいファイルを開かない、怪しいサイトにアクセスしない)を心がけていれば、あなたのゲーミングPCは十分に安全だ。
有料セキュリティソフトの購入を検討する数千円、数万円があるのなら、迷わずSSDの容量アップや、より静かなCPUクーラー、握りやすいマウスへの投資に回すべきだ。それこそが、ゲーミング体験を直接的に向上させる、賢明で合理的な選択である。
漠然とした不安から解放され、自らの知識でPC環境を最適化する。それこそが、現代のPCゲーマーに求められる姿だと、我々は確信している。
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