2025年、市場が新たな世代へと移行する中、その性能を最大限に引き出す上で最も重要な基盤となるのがマザーボードである。しかし、無数のチップセット、VRMフェーズ数、拡張スロット、そして価格帯の中から、自身の用途と予算に合致した「最適な一枚」を選び出すのは、知識と経験を要する複雑な作業だ。
本記事では、この混沌としたマザーボード市場を整理し、最新のAMDおよびIntelプラットフォームそれぞれにおいて、GearTuneが自信を持って推奨する製品を10枚に厳選して提示する。単なるスペックの羅列ではなく、なぜその製品が推奨に値するのか、その根拠と共に詳細に解説していく。
AMD AM5 おすすめマザーボード
Ryzen 9000シリーズおよび7000シリーズの性能を最大限に引き出すためのAM5マザーボードを、価格帯と特性別に選定した。
迷ったらこれを選べ!鉄板のミドルレンジモデル
MSI MAG B850 TOMAHAWK MAX WIFI
上位製品の「MSI MAG X870 TOMAHAWK WIFI」と同じ14+2+1フェーズ80A SPS電源回路を搭載。
最大の魅力は、X870モデルが抱えるUSB4とM.2スロットの複雑な排他仕様から完全に解放されている点で、CPU直結のPCIe5.0 M.2スロット2基を制約なく最大性能で利用可能。
純粋なゲーミング性能と明快で堅実な拡張性を求める大多数のゲーマーにとって、極めて合理的で優れた選択肢となる。
製品名の「MAX」は、この妥協なき実用性こそが真の最大形であるというメーカーからのメッセージだろう。
特に理由がなければ、X870モデルではなくこちらを選択すべき。
※B850モデルにはマルチGPUがサポートされていないので注意。
ASUS TUF GAMING B650E-PLUS WIFI
80A Dr.MOS採用の12+2+1という強力な電源回路を搭載し、Ryzen 9クラスのCPUも安定して運用可能。
B650Eチップセットにより、PCIe 5.0対応のグラフィックスカードスロットとM.2スロットを両方備える。
黒系の質実剛健なPCを組むなら、これを選んでおけばまず間違いない、傑作マザーボードである。
ASRock B650 Steel Legend WiFi
14+2+1フェーズ 80A Dr.MOSの強力な電源回路、高品質なコンデンサ、そしてこの価格帯では珍しい8層PCB基板を採用。
スペックシートからは読み取りにくい部分にまでコストをかけた、質実剛健な設計が光る。
白とシルバーを基調とした冬季迷彩デザインも美しく、性能と見た目の両方を高いレベルで満たしたいユーザーに強く推奨できる一枚だ。
特徴で選ぶ!個性派モデル
GIGABYTE B850 A ELITE WF7 ICE
基板からヒートシンク、各種コネクタに至るまで白で統一された、市場で最も美しいマザーボードの一つ。
14+2(60A Dr.MOS)+2(ディスクリートMOSFET)フェーズの電源回路はRyzen 9を余裕で駆動でき、性能面でも抜かりはない。
シルバーの金属光沢がアクセントとなり、PCケース内を華やかに彩る。性能は確保しつつ、何よりも見た目を重視する「白PC」ビルダーにとって、これ以上ない選択肢となるだろう。
NZXT のH9等と組み合わせるのがおすすめだ。
MSI B850 GAMING PLUS WIFI6E
コストを抑えつつ白色のGen5対応マザーボードを求めるユーザー向けの製品。
電源回路は12+2+1フェーズのディスクリートMOSFETであり、Dr.MOSではない点にコストカットの跡が見える。
しかし、その分価格は抑えられており、Ryzen 9の運用も可能な設計となっている。堅実な性能とコスト、そして白というデザイン性を両立させた、バランスの取れた一枚だ。
ASRock B650M Pro X3D WiFi
8+2+1フェーズ 60A Dr.MOSの電源回路は、Ryzen 7 9800X3Dや7800X3DといったV-Cache搭載CPUに最適化されている。
Micro-ATXフォームファクタでありながら、ゲーマーが必要とする十分な拡張性を確保。コンパクトで高性能なゲーミングPCを組む上で、非常にコストパフォーマンスの高い選択肢となる。
性能を追求するハイエンドモデル
ASRock X870E Nova WiFi
20+2+1フェーズ 110A SPSというモンスター級の電源回路に、サーバーグレードの8層PCBを採用。
Ryzen 9 9950Xの極限オーバークロックにも耐えうる、まさにエンスージアストのための一枚だ。合計5基のM.2スロット(うち1基はPCIe 5.0対応)、USB4、Wi-Fi 7、5Gbps LANと、考えうる全ての最新インターフェースを網羅。
「全部入り」の最高性能を求めるならば、これ以外の選択肢はない。
MSI MAG X870 TOMAHAWK WIFI
14+2+1フェーズ 80A SPSの強力な電源回路を備え、Ryzen 9 9950Xを安定駆動させる。
しかし、X870チップセットの仕様により、背面のUSB4ポートと2番目のM.2スロットが帯域を共有するという、無視できない排他仕様が存在する。Gen5 SSDを2枚搭載したい場合など、用途によってはB850モデルの方が合理的である可能性も考慮すべきだ。
AMD公式のマルチGPUサポートが必要なユーザー向けの選択肢と言える。
GIGABYTE X670E GAMING PLUS WIFI
型落ちとなったX670Eチップセットの強みを最大限に活かした、コストパフォーマンスに優れる一枚。
14+2+1フェーズ 80A SPSの強力な電源回路を持ちながら、価格は比較的手頃。最大の特徴は、グラフィックスカードとM.2 SSDの両方でPCIe 5.0に対応している点だ。合計4基のM.2スロットなど、高い拡張性も健在。最新規格の恩恵を、コストを抑えつつ享受したい賢明なゲーマーにとって、今なお魅力的な選択肢である。
Intel LGA1851 おすすめマザーボード
Arrow Lake-Sこと、Core Ultra 200シリーズのための、現時点での鉄板モデルを選定した。
MSI MAG Z890 TOMAHAWK WIFI
16+1+1+1フェーズ 90A SPSの強力な電源回路を搭載し、最新Core Ultraプロセッサーの性能を最大限に引き出す。
PCIe 5.0対応M.2スロットを1基、PCIe 4.0対応を3基備え、ストレージ拡張性も十分。Wi-Fi 7、5G LAN、Thunderbolt 4といった最新インターフェースも網羅する。特筆すべきは、EZ M.2 Clipなど、自作初心者にも配慮したDIYフレンドリー機能が充実している点だ。次世代Intelプラットフォームにおいて、安定性、耐久性、機能性のバランスが最も取れた、堅実なゲーミングマザーボードと断言できる。
総括:あなたのための最適な一枚は
今回の選定から、2025年現在のマザーボード市場のトレンドが見えてくる。AMDプラットフォームでは、必ずしも上位のX870チップセットが最適解ではなく、実用性で上回るB850モデルが多くのユーザーにとってのスイートスポットとなっている。一方で、Intelプラットフォームは、Z890が安定した性能と機能性を提供している。
最終的に、あなたのPC自作における成功は、予算と目的を明確にし、それに合致したマザーボードを選択できるかにかかっている。本記事が、そのための信頼できる指針となれば幸いである。
筆者のコメント
上位チップセットであるX870の落とし穴について、GearTuneは改めて警鐘を鳴らしたい。
かつてのX670が2チップ構成で圧倒的な拡張性を見せたのとは対照的に、現行のX870はB850と同じシングルチップ構成へと変更された。ここまでは単なる仕様変更だ。問題は、B850と変わらぬチップセット基盤に課せられた「USB4搭載義務」である。
このUSB4こそが、今回の混乱の根源だ。CPUから出る貴重なPCIeレーンを消費してしまうため、マザーボードメーカーは設計に苦慮することになった。その結果、何が起きるのか。
最も分かりやすい例がASRock社の製品だ。「B850 Steel Legend」が4基のM.2スロットを搭載するのに対し、上位のはずの「X870 Steel Legend」は、USB4の代償としてM.2スロットが3基に『削減』されてしまっているのだ。多くのユーザーにとってオーバースペックな機能のために、最も重要なストレージ拡張性が損なわれるという、本末転倒な事態が発生している。
今回レビューしたMSIの「MAG X870 TOMAHAWK WIFI」は、スロット自体を削るのではなく「排他仕様」という形でこの問題を巧みに回避している。だが、それはユーザーに『CPU直結の高速M.2 SSDか、USB4か』という究極の二者択一を迫ることに他ならない。
「X」の文字が付くものが常に最も拡張性が高いという幻想は、今世代においては捨て去るべきだ。自らの用途を冷静に見極め、見せかけのスペックに惑わされることなく、B850 TOMAHAWKのような真に合理的な製品を選択することを強く推奨する。
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