ゲーミングPCの構成選びにおいて、予算20万円前後という価格帯は、実のところ最も判断が難しい「沼」である。この予算ではBTO(受注生産)パソコンで満足のいく構成を見つけるのは難しく、必然的に自作PCが最もコストパフォーマンスの高い選択肢となる。
この記事では、無駄を徹底的に削ぎ落とし、数年後も「この構成にして良かった」と後悔しないための、鉄板構成を紹介する。
パーツ構成例
パーツ種別 | 製品型式 | 詳細 | 参考最安価格(2025/10/16時点) |
CPU | Ryzen 7 7800X3D | AM5 | 55,800円 |
CPUクーラー | ID-COOLING FROZN-A620 PRO SE | 空冷 サイドフロー | 4,973円 |
グラフィック | SAPPHIRE PULSE Radeon RX 9060 XT GAMING OC 16GB | RX 9060XT (16GB) | 57,273円 |
マザーボード | ASRock B650 Steel Legend WiFi | WiFi/Bluetooth機能付き PCIe 5.0対応 | 22,202円 |
メモリ | シリコンパワー ゲーミング DDR5 32GB | DDR5 6000MHz CL30 16GB 2枚組 | 15,280円 |
SSD | Crucial T500 2TB CT2000T500SSD8JP | Gen4 2TB DRAMキャッシュ搭載 | 19,564円 |
電源ユニット | ASRock Challenger CL-750G | 750W ゴールド認証 5年保証 非モジュラー | 9,680円 |
PCケース | MSI MAG FORGE 130A AIRFLOW | ATX | 5,973円 |
OS | Windows 11 Home | 15,000円 | |
合計 | 205,745円 ※OSなし190,745円 |
なぜこのパーツを選ぶのか?【理由と戦略】
この構成は、単に安いパーツを寄せ集めたものではない。「なぜ今、この組み合わせが最強なのか」という明確な戦略に基づいている。
CPU:Ryzen 7 7800X3D
正直に言えば、純粋なゲーム用途ならここまで高性能なCPUは不要かもしれない。しかし、最新世代の登場に伴い価格が大きく下落した今、このCPUは圧倒的なコストパフォーマンスを誇る。特にフレームレートを重視するFPSゲーマーにとっては最高の選択肢であり、将来的なGPUのアップグレードにも余裕で対応できる。
予算をさらに抑えたい場合は、Ryzen 7 7700が次点候補だ。こちらは純正CPUクーラーが付属するため、クーラー代を節約できるメリットも大きい。
GPU:Radeon RX 9060 XT 16GB
本構成の主役。最新世代ではないが、WQHD(2560×1440)解像度において、ほとんどのゲームを快適にプレイできる確かな実力を持つ。最大の強みは16GBという大容量VRAM(ビデオメモリ)だ。これにより、VRAM消費の激しい最新ゲームでも設定を妥協する必要がなく、一部の上位GPUより安定したプレイが可能になる場面すらある。
また、豊富なVRAMは生成AI(ローカルLLM)やVRゲームの入門用としても極めて優秀。これが6万円以下で手に入る現在、初めての自作PCにこれほど理想的なグラフィックボードは存在しない。
マザーボード&メモリ
マザーボードは、将来性も考慮しPCIe 5.0対応の製品から選定。ASRock「B650 Steel Legend WiFi」は、WiFi 6EやBluetooth 5.2といった必須機能を網羅しつつ、上位のRyzen 9も余裕で動かせる堅牢な電源部を持つ。冬季迷彩を思わせるデザインは、白基調のPC構成にも映えるだろう。
※Ryzen 9000シリーズの焼損問題が気になる人は以下の他社製品がおすすめ
メモリは32GBを必須と考えるべきだ。ゲームをしながらブラウザやDiscordを開くのは当たり前の時代であり、16GBではすぐに限界が来る。『Escape from Tarkov』のような重量級ゲームをプレイするなら64GBも視野に入れたい。AM5プラットフォームはメモリ4枚挿しとの相性問題が出やすいため、増設ではなく最初から大容量の2枚組を選ぶのが鉄則だ。
選定したメモリはSK Hynix製チップを採用し、Ryzenの性能を最大限に引き出す「6000MHz CL30」で動作する。BIOSからEXPO(メモリのオーバークロック設定)を有効にすることを忘れないようにしよう。
PCケース、CPUクーラー
ケースは、RGBファンが標準で4基付属するMSI「MAG FORGE 130A AIRFLOW」を選んだ。追加のファン購入なしで十分なエアフローが確保でき、初心者にとって間違いのない選択肢だ。
CPUクーラーには、デュアルタワー型の高性能モデル「FROZN-A620 PRO SE」をあえて採用した。7800X3Dは省電力なため、より安価なシングルタワー型クーラーでも冷却は可能だ。しかし、動画のエンコードやレンダリングといったCPUに高負荷をかける作業も想定し、冷却性能にマージンを持たせている。この性能が5,000円以下で手に入る以上、あえて下位モデルを選ぶ必要はない。
ストレージ&その他
ストレージには、TLC NANDとDRAMキャッシュを搭載し、性能と信頼性に優れるCrucial「T500」の2TBモデルを選定。ポイントは最初から大容量の2TBを選ぶことだ。CPU直結の最も高速なM.2スロットは数が限られている。ここに大容量SSDを1本搭載することで、将来的な増設の自由度を確保している。
電源ユニットは、将来のパーツアップグレードや安定性を考慮し、750Wの80PLUS GOLD認証モデルを選んだ。今回選んだ製品はケーブル着脱不可の直付け式のため、配線のしやすさを重視するなら、フルモジュラー式の以下のような製品も良い選択肢だ。
※750Wモデルと価格差が少ないため、より大容量の850Wモデルが狙い目。
筆者のコメント
予算20万円。これはPCショップの店員が最も頭を悩ませる予算なのだ。一見すると十分な金額に見えるが、CPUとGPUのどちらにも全力を注ぎきれず、かといってマザーボードや電源といった基盤部分を疎かにするわけにもいかない。絶妙に痒いところに手が届かない価格帯なのである。
用途が明確な上級者であればうまくやりくりできるが、用途が定まっていない初心者には、性能のマージンが少ない構成を提案しにくいのだ。
今回提示した構成は、その沼に対する一つの解である。しかし、自作PCの構成は無限に存在する。誰か一人の意見に固執せず、この記事を一つの参考として、ぜひ自分だけの一台を組み上げてほしい。
構成に関する質問や相談の場として、近々Discordコミュニティを立ち上げる予定だ。興味がある方は、ぜひ参加してほしい。
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