CPU選びは、難解なパズルのように見えるかもしれない。
クロック周波数、キャッシュ容量、TDP、プロセスルール……。ショップやレビューサイトには無数の専門用語が踊り、初心者を混乱させる。
だが、恐れることはない。CPU選びの正解に辿り着くためのルートは、実は驚くほどシンプルだ。
まずは「用途」から必要な「数」を割り出す。そして次に、メーカーごとの「質」を見極める。この順序さえ守れば、マーケティングの数字に踊らされることなく、自分のための最強のプロセッサーを手にすることができる。
本稿では、基本的な選び方の手順から始まり、カタログスペックには決して書かれないIntelとAMDの「構造的な不都合な真実」までを一気通貫で解説する。
ステップ1:用途から「物理的なコア数」を確定させる
CPU選びの第一歩は、「IntelかAMDか」悩むことではない。「自分には作業員(コア)が何人必要なのか」を確定させることだ。
現代のPCゲーミングとクリエイティブ環境において、選ぶべきコア数の基準は以下の3つに集約される。
6コア:予算重視の「最低ライン」
対象:ゲーム専用機としてコストを抑えたい人
かつて4コアが主流だった時代は終わった。現代のAAA級タイトルはマルチスレッド処理が前提であり、6コアが快適動作の最低条件だ。
Core i5やRyzen 5がこのクラスに該当する。ゲーム単体であれば問題なく動作するが、裏でブラウザを大量に開いたり、ウイルス対策ソフトが動いたりすると、余裕のなさが顔を出す。「最低限」の選択肢だと心得るべきだ。
8コア:ゲーマーのための「最適解」
対象:すべてのPCゲーマー
結論から言えば、ゲーマーは迷わず「8コア」を選ぶべきだ。
理由は明白である。PlayStation 5やXbox Series Xといった現行のコンソール機が、8コアのCPUを搭載しているからだ。
ゲーム開発者は、コンソールのスペックを基準にゲームを設計し、最適化する。つまり、世の中のゲームのほとんどは「8コアで最も効率よく動く」ように作られている。これより少なければ処理落ちのリスクがあり、多すぎてもゲーム側が使いきれない。
Core i7やRyzen 7を選んでおけば、ゲームプレイ中にDiscordで通話しようが、YouTubeを見ようが、ビクともしない安定感が手に入る。
10コア以上:クリエイターのための「生産力」
対象:動画編集、高画質配信、3Dレンダリングを行う人
ここから先は「遊び」ではなく「仕事」の領域だ。
特に動画編集ソフト(Premiere ProやDaVinci Resolveなど)は、CPUパワーを貪欲に食らう。タイムラインの操作感、エフェクトの処理、そして書き出し速度は、コア数に比例して快適になる。
「ゲームもするが、動画編集等のクリエイティブ用途もガッツリやる」という場合のみ、12コアや16コア、あるいはそれ以上のハイエンドCPUへの投資が正当化される。
ステップ2:メーカーとモデルの選定
必要なコア数が決まったら、次は具体的なモデル選びだ。ここで重要になるのが、「ゲーム特化」という選択肢の存在である。
ゲーマーの最終兵器「AMD 3D V-Cache」
もしあなたが「動画編集はしない、とにかくゲームのフレームレート(fps)を稼ぎたい」と願うなら、選択肢は一つしかない。AMDの「X3D」シリーズ(Ryzen 7 7800X3Dなど)だ。
このCPUは、CPUのすぐ側に超大容量のキャッシュメモリ(3D V-Cache)を積層している。
ゲーム処理において、CPUは頻繁にメモリへデータを取りに行くが、メインメモリはCPUにとって「遠くて遅い」場所だ。X3Dは、データを手元のキャッシュに置くことでこの移動時間を短縮し、驚異的なフレームレートを叩き出す。
特にフルHD環境でのFPSのような負荷の高いシーンで、その効果は絶大だ。Intelの最上位モデルをも凌駕する性能を、はるかに低い消費電力で実現する。ゲーマーにとっての「上がりのCPU」と言えるだろう。
ステップ3:カタログスペックが隠す「構造的欠陥」を見抜く
ここからが本題だ。
「コア数が多ければ速い」「最新モデルなら高性能」――そんな単純な常識が、現代のCPUには通用しない。
IntelとAMD、双方が抱えるアーキテクチャ上の「罠」を理解しなければ、高い金を払って”遅い”PCを作ることになりかねない。
Intelの罠:「Eコア」という名のベンチマーク・ブースター
Intelは第12世代以降、高性能な「Pコア」と、省電力な「Eコア」を組み合わせるハイブリッド構成を採用している。「Core i7-14700Kは20コア搭載!」などと宣伝されるが、この数字を額面通りに受け取ってはいけない。
1. Eコアはゲームには「邪魔」な存在
ゲームが必要とするのは、爆速で動くPコアだけだ。Eコアはゲーム処理には非力すぎる。
通常はOSがうまく割り振るが、古いゲームや一部の環境では、重い処理が誤ってEコアに割り振られる事故(スケジューリング・ミス)が起きる。その瞬間、フレームレートはガクンと落ち込む。ゲーマーにとって、Eコアはリスク要因でしかない。
筆者の経験上、Eコアは無効化したほうがFPSが安定するケースさえあるのが現実だ。
2. 「省エネ」という嘘
「Eコアは効率化のためにある」と言われるが、これも疑わしい。
IPC(クロックあたりの処理能力)で見ると、EコアはPコアより圧倒的に効率が悪い。同じタスクを処理させるなら、「高性能なPコアで一瞬で終わらせて、すぐにスリープさせる方が、トータルでの消費電力は低くなることが多いのだ。
Core Ultra 200Sシリーズに搭載された最新Eコア「Skymont」ではIPCが大幅に向上しており、以前ほどの「お荷物感」は減った。だが、それでも一般用途(ブラウジングやゲーム等)であえて積極的に使う理由はない。
ではなぜEコアを載せるのか? 答えは「ベンチマークのスコアを稼ぐため」だ。
物理的に大きなPコアはたくさんは載せられない。隙間に小さなEコアを詰め込めば、見かけ上のコア数が増え、マルチスレッドのベンチマークスコアだけは飛躍的に伸びる。
つまり、Intelのハイブリッド構成は、ユーザーの体験よりも「スペック競争でAMDに見劣りしないため」の苦肉の策という側面が強い。
「Core Ultra 200S」のレイテンシ問題
2024年登場のIntel最新作「Core Ultra 200S (Arrow Lake)」にも、ゲーマー泣かせの事情がある。
省電力性は向上したが、構造をタイル(チップレット)型に変更したことで、メモリやコア間のレイテンシ(遅延)が悪化してしまったのだ。
ゲームは「大量のデータ転送」より「素早い応答」を重視する。このレイテンシ悪化により、前世代(第14世代)よりも総合的なゲーム性能が低下する現象が起きている。「最新だから最強」とは限らない。
AMDの罠:Ryzen 9の「CCDまたぎ」
AMDのハイエンド、Ryzen 9(12コア/16コアモデル)にも罠がある。
これらは2つのチップ(CCD)を繋ぎ合わせて作られているが、ゲーム処理がこの2つのチップにまたがってしまうと、通信に時間がかかり強烈なレイテンシが発生する。
クロックで上回るはずの Ryzen 9 9950Xに対し、Ryzen 7 9700Xの方が安定したゲームパフォーマンスを出せるのはこのためだ。
「大は小を兼ねる」と思ってRyzen 9を買っても、ゲーム中はRyzen 7と同じ(あるいは制御トラブルのリスクがある分、不利な)状態で動いているのが現実だ。
結論:「質」の高い8コアを選べ
IntelとAMDの「Pコア(高性能コア)」を同世代で比較した場合、実はAMDのRyzenコアの方が基礎性能が高いことが多い。
Intelはクロック周波数を無理やり上げることで性能を稼いでいるが、AMDはアーキテクチャの優秀さで勝負している。
ベンチマーク上のシングルスレッド性能では、Intelが勝つことが多い。だが、ワットパフォーマンスや実運用での効率を考えれば、RyzenのPコアの方が「質」が良いと言える。
そして、その質の高いコアが8つあれば、ゲームには十分すぎるのだ。
※【補足】Ryzenの「Eコア」について
AMD Ryzenシリーズにも、一部モデルには「Zen 4c/5c」と呼ばれる高密度コアが搭載されている。これらは便宜上Eコアと呼ばれることもあるが、Intelとは決定的に異なる。
AMDの”c”コアは、メインコア(Pコア)と同じアーキテクチャを持ち、L3キャッシュ容量と動作クロック以外の基本設計は共通している。Intelのように「全く別の種類のコア」が載っているわけではないため、互換性やスケジューリングの問題は起きにくい。
総合結論:結局、何を買うべきか
ここまでの議論を整理し、GearTuneとしての「買いの結論」を提示する。
1. ゲーマーの最適解
- CPU: AMD Ryzen 7 7800X3D / 9800X3D
- 理由: シングルCCDのためレイテンシ問題がなく、Eコアのようなスケジューリング問題も存在しない。純粋にゲームに特化した、現時点で地球上最高のゲーミングCPUだ。
2. クリエイター兼ゲーマーの最適解
- CPU: AMD Ryzen 9 9900X / 9950X / 9900X3D / 9950X3D
- 理由: 同等のマルチスレッド性能を持つIntel製CPUよりも低発熱、低消費電力で安定した性能を発揮できる。ゲーム性能重視な場合は「3D V-Cache」モデルを選ぶことで最高のパフォーマンスを得られる。
3. コスパ重視の最適解
- CPU: AMD Ryzen 5 7600 / 9600(X)
- 理由: 6コアだが、RyzenのPコアは優秀だ。安価なIntel Core i5(Eコア搭載版)よりも、ゲームにおける挙動は素直で扱いやすい。
4.こだわりはないが、汎用性を求める人の最適解
- CPU: AMD Ryzen 7 7700(X) / 9700X
- 理由: 8コアあるのでどんな用途でも快適にこなせる。X3Dのような特大キャッシュは乗っていないが、ほとんどのゲームを快適にプレイできる基礎体力を持つ。
筆者のコメント Eコアこそが「次の主役」になる日
記事内容と真逆のことを書くが、多くのゲーマーにとって、現在のEコアは「邪魔者」あるいは「ベンチマークの水増し」にしか見えないかもしれない。だが、視点をデータセンターや半導体の歴史に移すと、まったく違った景色が見えてくる。
歴史は繰り返す――いや、「韻を踏む」と言ったほうが正しいか。
2000年代前半、Intelは「Pentium 4(NetBurst)」でクロック周波数の向上に狂奔し、結果として発熱と消費電力の壁にぶつかり自滅した。その時、Intelを救ったのは、当時「非力なモバイル向け」と見なされていたPentium M(Banias)アーキテクチャだった。これが後にCore 2 Duoへと進化し、現在のCoreシリーズの礎となったのだ。
今、Pコア(高性能コア)は再び「NetBurstの悪夢」に近づいている。6GHzに達するクロック、爆発的な消費電力。物理法則の限界は近い。
一方で、Intelはサーバー向けCPU「Sierra Forest」において、Eコアのみを144基以上搭載する戦略に舵を切った。最新のEコア(Skymont)のIPCは、一昔前のハイエンドPコアに匹敵するまで進化している。
この流れが示唆する未来は一つだ。
現在の「Pコア+Eコア」というハイブリッド構成は、Pコアという恐竜が絶滅し、進化した哺乳類(Eコア)が覇権を握るまでの「過渡期のあだ花」に過ぎないのかもしれない。
かつてモバイル用のPentium Mがメインストリームを塗り替えたように、そう遠くない未来、極限まで高効率化されたEコアが「Core」の正統な後継者として、Pコアを過去のものにする日が来るだろう。
我々が今「Eコアはゲームに向かない」と切り捨てているその石ころこそが、実は次世代の覇権を握るダイヤの原石なのだとしたら――。
自作PCという趣味は、こうした技術の分水嶺をリアルタイムで目撃できるからこそ、やめられないのだ。

















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