AMDのRX 9070シリーズが好調な滑り出しを見せる一方で、定価(MSRP)での販売については混乱が広がっている。一部小売店がMSRP価格での注文をキャンセルして価格を引き上げる事例が相次いで報告され、「定価は初回出荷分のみの偽装価格ではないか」との疑念が広がる中、AMD側は「MSRPは発売時限定ではない」と反論。両者の主張の真相を探る。
目次
小売店が注文キャンセル・価格引き上げ
イギリスの大手オンラインショップ「Ebuyer」で、RX 9070 XTを定価(£569.99、約11.4万円)で注文した複数のユーザーが、翌日になって注文キャンセルのメールを受け取る事態が発生。さらに同モデルの価格が£150(約3万円)値上げされていることが判明し、多くのユーザーから怒りの声が上がっている。
Redditには以下のような報告が寄せられている
「発売と同時にサイトでRX 9070 XTを注文し、問題なく支払いも完了した。しかし今日メールが来て注文はキャンセルされ、今では価格が£150も高くなっている」
「買い物かごに£569のSapphire Pulseを入れたが、住所入力と配送方法を選んで支払いページに進むと、”魔法のように”£667に変わっていた!」
特に問題視されているのが、小売店側の「この価格での追加在庫は入荷予定がない」という説明だ。これは実質的に、MSRP価格は発売日の限られた在庫にのみ適用され、その後は値上げされることを意味する。
ユーザーからの内部告発も
ある顧客は、Ebuyerに電話で問い合わせた際、誤って保留にされていないまま、スタッフ同士の会話を聞いてしまったという
「今朝電話したら、保留にしたつもりが実際には保留になっておらず、マネージャーと思われる人が『低価格での注文はキャンセルするように』と指示しているのが聞こえた。担当者は混乱していた」
また別のユーザーは、Sapphire Pulse RX 9070 XTの価格が変更された後も、ショッピングカートのキャッシュには「在庫:460、入荷は25~27日後」と表示されていたと報告。これは、MSRP価格での注文をキャンセルしながら、同じカードを値上げして再販する意図があることを示唆している。
AMDの反応:「MSRPは一時的ではない」
これらの事態を受け、AMDのFrank Azor氏は声明を発表。「RX 9070シリーズのMSRPが発売時限定という噂は完全に間違っている」と述べ、「AIBパートナーやチャネルと協力して価格を一貫して維持し、在庫レベルを時間をかけて補充していく」と説明した。
さらに、「小売業者にMSRPでのRX 9070 XTの販売を奨励していく」としているが、具体的にどのような手段で、いつ効果が現れるかについては言及されていない。
地域による大きな差
報告によると、この問題には地域差が大きいという。アメリカではMicroCenterなどの実店舗を中心に比較的多くのMSRP在庫が確保され、購入に成功したユーザーはAMDのマーケティング写真にも登場しているという。
一方、欧州では在庫が極めて限られており、オンライン販売ではさらに状況が悪化。MSRPでの購入はほぼ不可能な状態だという。AMDも「EUでは米国と比較して在庫レベルがはるかに低いため、地域によって価格が変動する可能性がある」と認めている。
小売店とAIBパートナーの言い分
一部のAIBパートナーからは匿名で「AMDが当初AIBへの販売価格を650~700ドル程度で設定していたが、後になってMSRPを599ドルに引き下げた」という情報も出ている。
この説によれば、AMDは限定的に50ドルのリベートを提供し、その分だけMSRPでの販売を可能にしたという。しかし、AIB側にとっては全てのベースモデルを新しいMSRPで販売すれば利益がゼロになるため、持続不可能な状況になっているとのこと。
「見せかけのMSRP」という疑惑
Hardware Unboxedは「大量の供給があるRX 9070 XTだが、MSRPでの販売はそのごく一部。これは偽装MSRPの臭いがする」と指摘。
「MSRPからわずか5~10%高いだけなら、AIBや小売店の通常のプレミアムとして消費者も許容できただろうが、実際には20%以上の上乗せがある。これは常軌を逸している」と批判している。
筆者のコメント
今回の一連の出来事は、GPUメーカーの「MSRP戦略」の裏側を垣間見せるものだ。表向きには魅力的な希望小売価格を発表しながら、実際には限定的な在庫しかその価格では販売せず、大多数は上乗せ価格で販売するという手法は、過去にも見られた。
AMDがこの問題にどう対応するかは、同社の「ゲーマーへの約束」の真価が問われる試金石となるだろう。MSRP表示はマーケティング戦略の一環に過ぎないのか、それとも本当に消費者に対する約束なのか。
特に注目すべきは、「MSRP在庫の補充」がどの程度行われるかだ。もし本当にAMDが小売店に圧力をかけ、定価での販売を大量に実現できれば、消費者の信頼を勝ち取る大きなチャンスとなる。一方、「努力はするが結果は保証できない」という対応に終始すれば、今回の低価格訴求は単なる「おとり商法」という批判を免れないだろう。
いずれにせよ、グラフィックカード市場が「実際に手に入る価格」と「メーカー発表の希望小売価格」の乖離という問題を解決できないままでいることは、消費者にとって残念な現実だ。
※本記事はReddit、VideoCardz、およびWccftechの情報に基づいています。状況は日々変化する可能性があり、正確な情報は各社公式発表をご確認ください。
情報・参考

コメント