NVIDIAがGDC 2025(Game Developers Conference)に向けた発表で、「GeForce RTX 50シリーズの出荷量はRTX 40シリーズの同期間比で2倍」と主張し、価格の安定化も近いと述べた。しかし、MSRP(希望小売価格)での入手が依然として困難な市場実態との乖離が指摘され、この発表に対する懐疑的な見方が広がっている。
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NVIDIAの主張:「出荷量は2倍、価格安定化に向けて取り組み中」
NVIDIAはGDC 2025に向けた報道関係者向けブリーフィングで、RTX 50シリーズの出荷状況について説明。同社のJustin Walker氏によれば、RTX 50シリーズは発売後5週間の出荷量がRTX 40シリーズの同期間と比較して2倍に達したという。
「私たちはAIBパートナー(グラフィックカードメーカー)だけでなく、小売パートナーとも密接に協力して、MSRPでの供給が確保されるようにしています」とWalker氏は述べ、「最終的に最も効果的な方法は、より多くの供給を店頭に届けることです。供給が需要に追いつけば、価格は安定すると予想しています」と説明した。
NVIDIAによれば、RTX 50シリーズは店頭に並ぶと即座に売り切れる状況が続いているが、すでに出荷量は増加しており、パートナー各社と共に供給を需要に近づけるために「残業して」取り組んでいるという。具体的な時期は明言しなかったものの、「まもなく」状況が改善するとの見通しを示した。
「2倍の出荷量」に対する懐疑的な見方
NVIDIAの「2倍の出荷量」という主張に対しては、業界から複数の懐疑的な見方が示されている。最も大きな問題点として指摘されているのは、比較対象の不公平さだ。
RTX 40シリーズの発売時には、最初の5週間はRTX 4090のみが市場に存在していた。一方、RTX 50シリーズは5週間の間にRTX 5090、RTX 5080、RTX 5070 Ti、RTX 5070の4モデルが発売されている。
つまり、NVIDIAの比較は「単一の高級モデル(RTX 4090)」と「4つの異なるモデルの合計出荷量」を対比しているにすぎず、これでは公平な比較とは言えない。より正確な比較のためには、RTX 40シリーズの全モデルを同様の期間で集計する必要があるが、そのようなデータは提示されていない。
また、NVIDIAが発表したグラフには具体的な数値が含まれておらず、「曖昧な表現」によって実態が分かりにくくなっているとの批判もある。世界中の大手小売店でさえRTX 5090の在庫はわずか数十台程度だったとの報告もあり、「2倍の出荷量」という主張と市場の実感には大きな乖離がある。
MSRPの「神話化」と現実の価格情勢
現在のGPU市場で最も深刻な問題の一つは、MSRP(希望小売価格)での製品入手が事実上不可能になっている状況だ。NVIDIA・AMD共に定価を発表しているが、実際の店頭では「プレミアムモデル」と称してMSRPから30-40%も上乗せされた価格でしか販売されていないケースが多い。
この状況について、TweakTownは「MSRPは神話なのか?」という挑発的な見出しの記事を掲載。実際の市場では、例えばRTX 5070(MSRP 549ドル)が、上位モデルであるRTX 5070 Ti(MSRP 749ドル)よりも高い価格で販売されているケースも報告されている。
NVIDIA製品だけでなく、AMDのRadeon RX 9070 XTも同様の問題を抱えており、これは業界全体の傾向となっている。製品の需要が供給を大幅に上回る状況が続いているためだ。
「プレミアムモデル」という名の高額カード
近年のGPU市場では「プレミアムモデル」が主流となっている。これらはAIBパートナーが設計した改良型冷却システムやオーバークロック設定、派手なLEDライティングなどを搭載した上位モデルだ。従来から、PC自作派はこうした高級モデルを好む傾向にあった。
問題は、現在のプレミアムモデルがMSRPから40%も価格が上乗せされていることだ。例えば、MSRPが749ドルのRTX 5070 Tiが、実際には1,000ドル以上で販売されているケースが一般的になっている。
特に懸念されるのは、この価格差がGPUの価値を大きく損なっている点だ。本来なら「上位モデルよりも高いコストパフォーマンス」が売りのミドルレンジカードが、異常な価格設定により魅力を失っている。
市場の実態:Amazonランキングの動向
一部の報道では、Amazonのベストセラーランキングでは近日RTX 5070が1位になったとの情報もある。これは状況改善の兆しとも取れるが、実際の在庫状況は依然として厳しく、MSRPに近い価格帯での販売にはさらに数週間を要するとの見方が優勢だ。
小売店の多くは「次のRTX 50シリーズの入荷は数週間後」と告知しており、NVIDIAの「出荷量増加」の主張と実際の市場状況には依然としてギャップがある。
市場への影響と消費者への示唆
この状況が続く限り、消費者は以下のような選択肢を検討する必要があるだろう
- 待機戦略: NVIDIAが約束する「価格安定化」を待つ。ただし具体的な時期は不明。
- 代替製品検討: AMDのRadeon RX 9070シリーズも同様の問題を抱えるが、供給状況は若干良好との報告もある。
業界アナリストの多くは、少なくとも2025年前半いっぱいは供給不足と価格高騰が続くと予測しており、夏以降の改善を期待する見方が多い。
筆者のコメント
NVIDIAの「出荷量2倍」という主張には、技術的には誤りがないのかもしれないが、実質的には「比較対象を操作した」印象操作とも取れる要素がある。1モデルと4モデルの出荷数を比較すれば、当然後者の方が総数は多くなる。
現在のGPU市場の最大の問題は、公式に発表されたMSRPが「幻」と化している点だ。消費者はベンチマークやレビューを見てコストパフォーマンスを判断するが、それらは全てMSRPを基準にしている。実際の購入時には全く異なる価格設定に直面することになり、期待していた価値が得られないという失望感が広がっている。
MSRP近辺の価格で購入できる「ベーシックモデル」と、プレミアム価格のハイエンドモデルという従来の棲み分けは健全なものだった。しかし現状では「プレミアム価格のみ」という歪んだ市場が形成されており、これはゲーマーやクリエイターにとって非常に不利益な状況だ。
NVIDIAが約束する「価格安定化」が実現するかどうかは、今後の供給量拡大にかかっている。これまでの経緯を見る限り、楽観的な見通しを持つことは難しいが、少なくとも市場が改善方向に向かおうとしている兆しは感じられる。
RTX 50シリーズやRadeon RX 9000シリーズを検討している消費者は、焦って割高な価格で購入するよりも、もう少し様子を見る方が賢明かもしれない。そして何より、公表されているベンチマーク結果と「実際に購入できる価格」の乖離を念頭に置いて判断することが重要だろう。
※本記事は2025年3月現在の情報に基づいています。市場状況は日々変化する可能性があります。
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