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【朗報】VKD3D-Proton 3.0、FSR4をLinuxに導入。旧世代GPUも実験的サポート、NVIDIAユーザーも恩恵

Linux PCゲーマーに、朗報が届いた。

ValveのSteam Play(Proton)で使用される VKD3D-Proton 3.0 がリリースされ、 AMD FidelityFX Super Resolution 4(FSR4) のサポートが追加された。これにより、Linux環境でもFSR4の恩恵を受けられるようになる。

VKD3D-Protonは、Direct3D 12をVulkan APIに変換するレイヤーで、WindowsゲームをLinuxで動作させるために不可欠な技術だ。今回のバージョン3.0は、 FSRソフトウェアスタック史上最大のアップデート と位置づけられるFSR4を、Linux環境に導入する重要なリリースだ。

しかし、注目すべきはそれだけではない。

正式なFSR4サポートは RDNA 4以降のGPU専用 だが、VKD3D-Proton 3.0には 実験的に旧世代GPUでもFSR4を動作させるエミュレーション機能 が含まれている。RDNA 2やRDNA 3のユーザーも、ソースからビルドすれば、FSR4を試せる。ただし、 パフォーマンスペナルティ がある。

さらに興味深いのは、この機能が AMD GPU専用ではない 可能性だ。VKD3D-Protonの性質上、NVIDIAやIntelのGPUでも動作する可能性がある。つまり、 NVIDIA GeForceユーザーもFSR4を使える かもしれない。

加えて、VKD3D-Proton 3.0は AMD Anti-Lag のサポート、 DXBCシェーダーバックエンドの完全書き直し 、 D3D12 Work Graphsの実験的サポート など、多数の機能強化を含む。

これは、Linux PCゲーミングにとって 大きな前進 だ。

VKD3D-Protonとは:Linux PCゲーミングの要

まず、VKD3D-Protonがどのような役割を果たすかを理解する必要がある。

Direct3D 12をVulkan APIに変換

VKD3D-Protonは、MicrosoftのDirect3D 12(D3D12)をKhronosのVulkan APIに変換するレイヤーだ。

WindowsゲームのほとんどはDirect3D 12を使用している。しかし、LinuxはDirect3Dをネイティブにサポートしていない。そこで、D3D12をVulkanに変換することで、WindowsゲームをLinuxで動作させる。この変換を担うのが、VKD3D-Protonだ。

ValveのProtonで使用

VKD3D-Protonは、ValveのSteam Play(Proton)で使用されている。

ProtonはWineをベースにしたLinux互換レイヤーで、SteamのWindowsゲームをLinuxで動作させる。VKD3D-Protonは、Protonの中でD3D12ゲームを処理する部分を担当する。

つまり、 VKD3D-Protonの性能と互換性が、Linux PCゲーミング体験を左右する 。

開発はオープンソースコミュニティ

VKD3D-Protonは、Valve社員のHans-Kristian Arntzen氏を中心に、オープンソースコミュニティで開発されている。

Valveの支援を受けつつ、コミュニティの協力により継続的に改善されている。今回のバージョン3.0も、多数のコントリビューターの努力の成果だ。

FSR4サポート:Vulkan拡張経由で実装

VKD3D-Proton 3.0の最大の目玉は、 AMD FSR4のサポート だ。

VK_KHR_shader_float8とcooperative matrixを使用

FSR4は、Vulkan拡張の VK_KHR_shader_float8 と cooperative matrix を経由して実装されている。

これらは、機械学習ワークロードを効率的に処理するためのVulkan拡張だ。FSR4はAI強化アップスケーリング技術であり、機械学習を活用する。そのため、これらの拡張が必要になる。

正式サポートはRDNA 4以降のみ

VKD3D-Protonの公式ビルドでは、FSR4は VK_KHR_shader_float8がネイティブにサポートされている場合のみ 有効化される。

これは、 RDNA 4以降のGPU を意味する。RDNA 4は、float8演算をハードウェアで直接サポートし、FSR4の機械学習処理を高速に実行できる。

つまり、AMD Radeon RX 9000シリーズのユーザーのみが、正式にFSR4を利用できる。

実験的にRDNA 2・3もサポート

しかし、VKD3D-Proton 3.0には かなりハッキーなエミュレーションパス が含まれている。

このエミュレーションは、 INT8とfloat16のcooperative matrix を使用し、float8演算を模倣する。RDNA 2やRDNA 3は、float8をネイティブにサポートしないが、INT8とfloat16はサポートする。これらを組み合わせることで、FSR4を動作させる。

ただし、このエミュレーションパスは デフォルトでは有効化されておらず 、ソースからビルドする際に適切なビルドフラグを指定する必要がある。

パフォーマンスペナルティがある

エミュレーションパスには、 かなりのパフォーマンスペナルティ がある。

float8演算をINT8とfloat16で模倣するため、計算量が増加し、処理速度が低下する。具体的にどの程度のペナルティかは明示されていないが、 体感できるレベル である可能性が高い。

つまり、RDNA 2・3でFSR4を使うことは可能だが、 ネイティブのRDNA 4ほどの性能は出ない 。

NVIDIAやIntel GPUでも動作する可能性

さらに興味深いのは、FSR4が AMD GPU専用ではない 可能性だ。

VKD3D-ProtonはGPUメーカー非依存

VKD3D-ProtonはVulkan APIを使用しており、 特定のGPUメーカーに依存しない 。

Vulkan拡張がサポートされていれば、AMD、NVIDIA、IntelのいずれのGPUでも動作する。VK_KHR_shader_float8やcooperative matrixをサポートするGPUであれば、理論上はFSR4を利用できる。

NVIDIAユーザーもFSR4を使える可能性

報道によれば、FSR4は NVIDIAやIntel GPUでも動作する可能性 が示唆されている。

これは、VKD3D-Protonのオープンでクロスプラットフォームな性質によるものだ。もしNVIDIA GeForceがVulkan拡張をサポートしていれば、FSR4が動作する可能性がある。

ただし、これはあくまで可能性であり、実際に動作するかは検証が必要だ。また、NVIDIAのドライバがどこまでVulkan拡張をサポートするかにも依存する。

DLSS 4はサポートされず

一方で、 NVIDIA DLSS 4はVKD3D-Protonでサポートされていない 。

DLSS 4はNVIDIA独自技術であり、オープンなVulkan拡張として提供されていない。そのため、VKD3D-ProtonではDLSSを利用できない。

Linux環境でNVIDIA GPUを使用するゲーマーにとって、FSR4が動作すれば 代替手段 となる可能性がある。

その他の主要機能強化

VKD3D-Proton 3.0は、FSR4だけでなく、多数の機能強化を含む。

AMD Anti-Lag対応

VKD3D-Proton 3.0は、 AMD Anti-Lag をサポートする。

Anti-Lagは、入力遅延を削減する技術で、ゲーミング体験を向上させる。特に、競技性の高いFPSゲームやMOBAで効果を発揮する。VKD3D-Protonがこれをサポートすることで、Linux環境でもAMD GPUの性能を最大限に引き出せる。

DXBCシェーダーバックエンドの完全書き直し

VKD3D-Proton 3.0では、 DXBCシェーダーバックエンドが完全に書き直された 。

DXBC(DirectX Bytecode)は、Direct3D 11で使用されるシェーダーフォーマットだ。VKD3D-ProtonはD3D12を主にサポートするが、一部のゲームやアプリケーションはDXBCを使用する。

このバックエンドの書き直しにより、 互換性と性能が向上 する。より多くのゲームが正しく動作し、パフォーマンスも改善される。

D3D12 Work Graphsの実験的サポート

D3D12 Work Graphsの 実験的サポート が追加された。

Work Graphsは、Direct3D 12の新機能で、GPUワークロードをより柔軟に管理できる。これは、最新のゲームやレンダリング技術で使用される。VKD3D-Protonがこれをサポートすることで、最新のD3D12ゲームとの互換性が向上する。

ただし、現時点では実験的サポートであり、安定性や性能は保証されていない。

Opacity Micromapsの実験的サポート

Opacity Micromapsの 実験的サポート も追加された。

Opacity Micromapsは、レイトレーシングにおける半透明オブジェクトの処理を効率化する技術だ。これにより、レイトレーシング性能が向上する。

Upstream Wineでのシェーダーリソースパス対応

Upstream Wine環境でのシェーダーリソースパスに対応した。

これにより、VKD3D-ProtonがWineの最新バージョンとより良く統合され、互換性が向上する。

各種パフォーマンス最適化

その他、多数のパフォーマンス最適化が実施されている。

これにより、全体的なゲーミング性能が向上し、よりスムーズなゲーム体験が可能になる。

Linux PCゲーマーへの影響

この状況は、Linux PCゲーマーにとって何を意味するのか。

Steam Deckユーザーに恩恵

ValveのSteam DeckはProtonを使用しており、VKD3D-Proton 3.0の恩恵を直接受ける。

Steam DeckにはAMD APUが搭載されているが、現行モデルはRDNA 2ベースだ。つまり、正式なFSR4サポートは受けられない。しかし、実験的エミュレーションパスを有効化すれば、FSR4を試せる可能性がある。

もし次世代Steam DeckがRDNA 4を搭載すれば、正式にFSR4を利用でき、ゲーミング体験が大幅に向上する。

Linuxデスクトップゲーマーにも朗報

Linuxデスクトップでゲームをプレイするユーザーにとっても、これは朗報だ。

AMD RX 9000シリーズを使用しているなら、正式にFSR4を利用できる。旧世代のRDNA 2・3を使用しているなら、実験的にFSR4を試せる。さらに、NVIDIAやIntel GPUでも動作する可能性がある。

Linuxゲーミング環境は、長年Windowsに劣ると見なされてきた。しかし、ProtonやVKD3D-Protonの進化により、その差は着実に縮まっている。FSR4のサポートは、その一歩だ。

ソースからビルドする必要がある場合も

実験的エミュレーションパスを利用するには、 ソースからビルドする 必要がある。

これは、一般的なLinuxユーザーには敷居が高い。ビルド環境の構築、依存関係の解決、ビルドフラグの指定など、技術的知識が必要だ。

ただし、将来的にはSteamやディストリビューションのパッケージマネージャーで、この機能が有効化されたビルドが提供される可能性もある。

結論:Linux PCゲーミングの大きな前進

VKD3D-Proton 3.0は、 Linux PCゲーミングにとって大きな前進 だ。

FSR4のサポートにより、最新のAI強化アップスケーリング技術をLinux環境で利用できる。正式にはRDNA 4専用だが、実験的に旧世代GPUもサポートされ、NVIDIAやIntel GPUでも動作する可能性がある。

Anti-Lag対応、シェーダーバックエンド書き直し、Work Graphsサポートなど、多数の機能強化により、 互換性と性能が向上 する。より多くのWindowsゲームがLinuxで快適に動作し、ゲーム体験が改善される。

Linux PCゲーマーは、この進化を歓迎すべきだ。 Windowsに依存せず、オープンなプラットフォームでゲームを楽しめる未来が、着実に近づいている。

そして、 Valveとオープンソースコミュニティに感謝すべきだ。 彼らの努力なくして、Linux PCゲーミングの今日の進歩はなかった。VKD3D-Proton 3.0は、その努力の結晶だ。

筆者のコメント

VKD3D-Proton 3.0のFSR4サポートは、技術的に非常に興味深い。

FSR4がVulkan拡張経由で実装されていることは、 オープンでクロスプラットフォームな設計思想 を反映している。これにより、AMD GPU専用ではなく、NVIDIAやIntelのGPUでも動作する可能性がある。

対照的に、NVIDIA DLSS 4は独自技術であり、VKD3D-Protonでサポートされていない。これは、NVIDIAの閉鎖的戦略の限界を示している。Linux環境では、オープンな技術の方が広く普及しやすい。

実験的エミュレーションパスは、技術的に「ハッキー」だが、 ユーザーに選択肢を提供する という点で評価できる。パフォーマンスペナルティがあっても、旧世代GPUでFSR4を試せることは価値がある。

個人的には、Steam DeckがRDNA 4を搭載する次世代モデルに期待している。もしそうなれば、携帯ゲーミングデバイスとして 最強のプラットフォーム になる可能性がある。

Linuxゲーミングは、確実に進化している。Windows独占の時代は、終わりつつある。

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