Intelの次世代プロセス技術が、ようやく光明を見せ始めた。
IntelのCEO Lip-Bu Tan氏は2025年第3四半期決算説明会で、 18Aプロセスの歩留まりが月7%のペースで改善している と明らかにした。これは、 業界平均の改善率 に到達したことを意味する。新規プロセスノードの立ち上げにおいて、この改善ペースは極めて重要だ。歩留まりが予測可能な速度で向上すれば、量産計画が立てられ、製品リリースが現実的になる。
この進展により、IntelはCore Ultra 300シリーズ Panther Lake プロセッサの量産を 2025年後半に開始 できる見込みだ。最初のPanther Lake搭載デバイスは2025年末までにリリースされる可能性があるが、大半は2026年に市場投入される。
しかし、 手放しで喜べる状況ではない 。
Tan氏が2025年3月にIntelに加わった当初、18Aの歩留まりは 予測不能で不安定 だった。過去7〜8ヶ月で、Intelはようやく 予測可能な改善パス を確立した。しかし、Intelが望むコスト水準に到達するのは 2026年末 、そして 業界標準の歩留まりに到達するのは2027年 だ。
つまり、18Aプロセスが真に競争力を持つのは、 まだ2年以上先 だ。それまでの間、Intelは歩留まりの低さによる高コストを抱えながら、製品を市場に投入しなければならない。これは、Intelの収益性に重大な影響を与える。
目次
18Aプロセスとは:Intelの命運を握る技術
まず、18AプロセスがIntelにとってなぜこれほど重要かを理解する必要がある。
Intelの次世代プロセス技術
18Aは、Intelの最先端プロセスノードであり、 1.8nmクラスの製造技術 を意味する(「A」はオングストローム単位を示す)。これは、TSMCの2nmプロセスやSamsungの2nmプロセスに相当する世代だ。
18Aは、IntelがファウンドリビジネスでTSMCやSamsungと競争するための 鍵となる技術 だ。もし18Aが成功すれば、Intelは外部顧客からチップ製造を受託し、新たな収益源を確保できる。しかし、もし18Aが失敗すれば、Intelのファウンドリ戦略は崩壊し、同社の未来は暗澹たるものになる。
Panther Lakeに採用
18Aの最初の大規模採用製品が、 Panther Lake (Core Ultra 300シリーズ)だ。
Panther Lakeは、Intelのモバイル向けCPUで、2025年後半から2026年にかけてリリースされる予定だ。これは、現行のArrow Lake(Core Ultra 200シリーズ)の後継であり、18Aプロセスで製造される。
Panther Lakeの成功は、18Aプロセスの品質に直接依存する。もし歩留まりが低ければ、製造コストが高騰し、Intelの利益率が圧迫される。もしチップの性能や効率が期待に届かなければ、市場での競争力を失う。
RibbonFETとPowerVia
18Aプロセスは、2つの革新的技術を導入する。
第一に、RibbonFET だ。これは、Intelのゲートオールアラウンドトランジスタ(GAA)技術で、従来のFinFETに代わる次世代トランジスタ構造だ。RibbonFETは、より高い電流駆動能力と低いリーク電流を実現し、性能と電力効率を向上させる。
第二に、PowerVia だ。これは、バックサイド電力供給技術で、チップの裏面から電力を供給する。これにより、信号と電力の経路が分離され、電力供給の効率が向上し、性能の向上とチップ面積の削減が可能になる。
これらの技術は、理論上は素晴らしい。しかし、 実装の難易度が極めて高い 。新しいトランジスタ構造と新しい電力供給方式を同時に導入することは、製造プロセスの複雑さを大幅に増加させる。そして、その複雑さが 歩留まりの低さ につながっている。
歩留まり改善の現状:月7%は「ようやく普通」
では、月7%の歩留まり改善率は、どれほど意味があるのか。
業界平均の改善率に到達
Tan氏によれば、18Aプロセスは現在、 業界平均の歩留まり改善率である月7%を達成 している。
新規プロセスノードの立ち上げにおいて、歩留まり(良品率)は最初は低く、時間とともに改善される。この改善のペースが、量産の実現可能性を左右する。月7%の改善率は、 標準的なペース だ。特別に速いわけでも、遅いわけでもない。つまり、Intelは ようやく普通の状態に到達した のだ。
当初は予測不能で不安定だった
しかし、ここに至るまでの道のりは平坦ではなかった。
Tan氏が2025年3月にIntelに加わった当初、彼は 歩留まりに不満を持ち、進捗が不安定であることに不満 だった。つまり、歩留まりの改善が予測できず、月によって大きく変動していた可能性がある。
このような不安定さは、量産計画を立てる上で致命的だ。歩留まりが予測できなければ、どれだけのチップを製造できるかが分からず、顧客への納期も確約できない。これでは、ビジネスとして成立しない。
過去7〜8ヶ月で予測可能なパスを確立
過去7〜8ヶ月の間に、Intelは 予測可能な歩留まり改善パス を確立した。
これは、毎月一定のペースで歩留まりが向上していることを意味する。この予測可能性により、Intelは量産計画を立て、Panther Lakeのリリースを確約できるようになった。
Tan氏のリーダーシップが、この改善に寄与した可能性がある。彼は半導体業界で長年の経験を持ち、製造プロセスの改善に精通している。彼の就任後、Intelの製造チームは明確な目標とロードマップを得たのかもしれない。
しかし、真の競争力獲得は2027年
月7%の改善率は、量産を可能にする。しかし、 競争力のあるコストで製造できる かどうかは別の問題だ。
Intelが望むコスト水準は2026年末
Tan氏は、18Aの歩留まりが Intelの望むコスト水準に到達するのは2026年末 だと明言した。
つまり、2025年後半から2026年前半にかけて製造されるPanther Lakeは、 歩留まりが低く、製造コストが高い 状態で生産される。この高コストは、Intelの利益率を圧迫する。
Intelは、この高コストを製品価格に転嫁するか、それとも利益率を犠牲にして市場シェアを維持するかの選択を迫られる。いずれにせよ、 財務的には厳しい 。
業界標準の歩留まりは2027年
さらに、 業界標準の歩留まりに到達するのは2027年 だという。
業界標準とは、TSMCやSamsungのような競合他社が達成している歩留まり水準を意味する。つまり、IntelがTSMCやSamsungと対等に競争できるコストと品質でチップを製造できるのは、 2027年になってから だ。
これは、Intelのファウンドリビジネスにとって深刻な問題だ。外部顧客は、TSMCやSamsungと同等かそれ以下のコストと品質を求める。もしIntelが2027年までそれを提供できないなら、顧客は他社に流れる。
2年以上の遅れ
TSMCは、2nmプロセス(N2)を2025年後半に量産開始する予定だ。Samsungも、2nmプロセスを2025年に量産開始している。これらの競合他社は、既に高い歩留まりと競争力のあるコストを達成している、またはまもなく達成する。
一方、Intelが業界標準に到達するのは2027年だ。つまり、Intelは 2年以上の遅れ を抱えている。この遅れは、ファウンドリビジネスにおける競争力を大きく損なう。
Panther Lake量産の見通し
では、Panther Lakeの量産とリリースはどうなるのか。
2025年後半に量産開始
Intelは、 2025年後半にPanther Lakeの大量生産を開始 する予定だ。
これは、歩留まりが実用レベルに達したことで可能になった。ただし、前述の通り、この時点での歩留まりは Intelが望むコスト水準には達していない 。
2025年末に最初のデバイス、大半は2026年
最初のPanther Lake搭載デバイスは、 2025年末までにリリースされる 可能性がある。
しかし、大半のPanther Lake搭載デバイスは 2026年に市場投入される 見込みだ。これは、量産初期は供給量が限られるため、一部のプレミアム製品やリファレンスデザインのみがリリースされ、広範な製品展開は2026年にずれ込むことを意味する。
高コストが価格に影響する可能性
歩留まりが低い状態での量産は、製造コストが高い。このコストは、 最終製品価格に反映される 可能性がある。
つまり、Panther Lake搭載のノートPCやデスクトップPCは、通常より高価になるかもしれない。あるいは、Intelが利益率を犠牲にして価格を抑えるかもしれないが、それは同社の財務状況をさらに悪化させる。
PCユーザーへの影響
この状況は、我々PCユーザーにとって何を意味するのか。
Panther Lake搭載PCは2026年が本命
2025年末にリリースされるPanther Lake搭載デバイスは、おそらく 限定的 だ。
本格的な製品展開は2026年になる。もしPanther Lake搭載PCの購入を検討しているなら、 2026年まで待つ方が賢明 だろう。その頃には供給が安定し、価格も落ち着く。
性能向上は期待できる
18Aプロセスは、RibbonFETとPowerViaという革新的技術を導入する。
これにより、Panther Lakeは 性能と電力効率の向上 が期待できる。特に、モバイル向けCPUとして、バッテリー寿命の延長と高性能の両立が可能になるかもしれない。
ただし、これは 歩留まりが改善され、プロセス技術が安定した後 の話だ。初期ロットでは、性能のばらつきや予期しない問題が発生する可能性もある。
Arrow Lakeの評価も考慮すべき
Panther Lakeの前世代であるArrow Lake(Core Ultra 200シリーズ)は、市場で 厳しい評価 を受けている。
特に、ゲーミング性能が期待を下回り、「fumbled the football(ボールを落とした)」とIntel自身が認めている。もしPanther Lakeも同様の問題を抱えるなら、購入を見送るべきだ。
リリース後のレビューやベンチマークを待ち、実際の性能を確認してから判断すべきだろう。
結論:ようやく光明が見えたが、道のりは長い
Intelの18Aプロセスは、 ようやく予測可能な歩留まり改善を達成 した。
月7%の改善率は業界平均であり、これによりPanther Lakeの量産が2025年後半に可能になる。これは、Intelにとって重要なマイルストーンだ。長年の苦闘の末、ようやく次世代プロセス技術が実用段階に到達した。
しかし、 真の競争力獲得は2027年 だ。Intelが望むコスト水準に到達するのは2026年末、業界標準の歩留まりに到達するのは2027年だ。それまでの間、Intelは高コストと低利益率に苦しむ。
Panther Lakeの成功は、Intelの未来を左右する。 しかし、その成功は保証されていない。歩留まりの改善、性能の向上、コストの削減――これら全てを達成しなければ、Intelは競争に勝てない。
我々PCユーザーは、慎重に見守る必要がある。 期待しすぎず、しかし可能性を否定せず。2026年のPanther Lake本格展開を待ち、実際の製品を評価してから判断すべきだ。
筆者のコメント
Intelの18A歩留まり改善は、確かに朗報だ。しかし、「月7%の改善率」が業界平均であるという事実は、 Intelが特別に優れているわけではない ことを意味する。
Tan氏のリーダーシップにより、Intelはようやく「普通の状態」に戻った。しかし、TSMCやSamsungは既に先を行っている。Intelが追いつくには、さらなる努力が必要だ。
個人的には、 2027年まで業界標準に達しない という事実が最も懸念される。ファウンドリビジネスで成功するには、競合他社と同等かそれ以上の技術が必要だ。2年以上の遅れは、顧客の信頼を失うには十分だ。
Panther Lakeは、Intelにとって重要な製品だ。しかし、Arrow Lakeの失敗を見れば、楽観視はできない。Intelには、もう失敗する余裕はない。次の一手が、同社の運命を決める。














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