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【情弱狩り】「Cinebench=シングル性能」という大嘘。ベンチマーク至上主義者がハマる深い沼

「CPUのシングル性能を知りたい? じゃあCinebenchを回そう」

もしあなたが自作PC初心者なら、その考えは今すぐドブに捨てるべきだ。
そして、もしあなたが自称「PCに詳しい人」で、いまだにCinebenchのスコアだけを見て「Intelのシングル性能は最強」などとドヤ顔で語っているなら、残念ながら状況はさらに深刻である。救いようがない。

……と言うと反発されそうだが、これは人格の話ではない。
「指標を正しく理解せずに語る行為」が致命的だ、という意味だ。

本記事では、多くのメディアがスポンサーへの配慮で避けて通る「CPUベンチマークの欺瞞」「本当のシングル性能とは何か」について、徹底的な事実ベースで解説する。

これを読み終えたとき、Core Ultra 200SやRyzen 9000シリーズの見え方は、確実に変わるはずだ。

Cinebenchは「シングル性能」ではない。正体はFPU偏重のレンダリングテストだ

まず結論から言う。
Cinebenchは、一般的なPC利用におけるシングル性能を測るベンチマークではない。

Cinebench R23や2024は、Cinema 4Dのレンダリングエンジンを用いたテストだ。
この処理内容は、極めて偏っている。

  • 浮動小数点演算(FPU)が主体
  • SIMD(AVX系命令)を多用
  • 命令が連続的で分岐が少ない
  • キャッシュヒット率が高い理想環境

要するに、「1コアでどれだけ綺麗に数式を回せるか」という、実験室的条件を測っているに過ぎない。
もちろん、レンダリング用途においては極めて有効な指標だ。問題は、それを「PC性能の万能な物差し」として使うことにある。

現実のPC利用はどうか。
OS操作、Webブラウジング、ゲームのロジック処理、スクリプト実行、コンパイル。
これらはすべて、整数演算(ALU)と複雑な条件分岐、そしてキャッシュミスの塊である。

Cinebenchのスコアが高いからといって、Excelの処理が速くなるわけでも、ゲームの1% Low FPSが安定するわけでもない。
「Cinebench=シングル性能」という図式は、メーカーとメディアが作り上げた幻想だ。

PassMarkも万能ではない。「合成スコア」という罠

「ではPassMarkなら信頼できるのか?」

答えはNOである。
確かにPassMarkは整数・浮動小数点演算を混在させており、Cinebenchよりは現実に近い。

しかし問題は残る。
テスト時間が短く、データがキャッシュに完全に収まってしまうことだ。
現実のアプリケーションは、メモリ待ちと分岐ミスを前提に動いている。

PassMarkは「テスト用紙の上での数学」であり、実務やゲームは「泥臭い実戦」だ。
これを同列に扱うこと自体がナンセンスである。

Intel vs AMD:なぜベンチマークと実性能は乖離するのか

この乖離は偶然ではない。両社の設計思想の違いが原因である。

Intel:ベンチマークに強い高クロック設計(直線番長)

Intel CPUは長年にわたり、高クロックと強力なFPU/SIMD性能を武器にしてきた。
CinebenchのようなFPU主体テストでは、この特性が最大限に活きる。スコアが伸びるのは当然だ。
しかしその代償として、消費電力の増大や、分岐ミス時の回復コスト、フロントエンド詰まりへの弱さといった問題を抱えやすい。
直線番長であっても、現実の道は直線ばかりではないのだ。

AMD Zen:実アプリを見据えた設計(実務の王者)

一方、AMDのZenアーキテクチャは、太い整数演算パイプライン、極めて優秀な分岐予測、実アプリ重視のフロントエンドを一貫して重視してきた。

Intelが排気量とブースト圧で強引に直線を走るアメ車なら、RyzenはBMW 3シリーズのようなスポーツセダンだ。
複雑な条件分岐というコーナーに差し掛かっても、ステアリングを切った瞬間にスッとノーズがインに入る。あの気持ちの良い回頭性そのものだ。
もたつきやアンダーステア(分岐ミス)を知らない卓越したハンドリングで、実アプリという峠道をスイスイと駆け抜けていく。
面積効率の良さも含め、「実際にソフトを動かしたときの意のままになる速さ」にフォーカスしているのだ。

歴史を正しく認識しろ:RyzenはどこでIntelに追いついたのか

ここで重要なのは、「いつAMDがIntelに並んだのか」という歴史認識だ。
多くの人がここを間違えている。答えは以下の通りだ。

  1. Zen / Zen+(黎明期):
    衝撃的だったが、シングル性能ではまだIntel未満。追いつく兆しを見せた段階。
  2. Zen 2(転換点):
    ここで革命が起きた。 IPCの大幅向上により、分岐・整数性能で飛躍。初めてIntelと同じ土俵に立った。
  3. Zen 3(完成形):
    CCX統合によるレイテンシ改善で弱点を克服。ゲーム・実アプリで明確にIntelを逆転。これこそが現代Ryzenの完成形だ。
  4. Zen 4(拡張):
    Zen 3の思想を引き継ぎ、FPU・AVX強化やDDR5対応を行った「拡張世代」。
  5. Zen 5(再進化):
    フロントエンドを刷新し、整数・浮動・分岐すべてに手が入った。再び起きた本質的進化である。

この流れを理解せずに、「IntelとAMDはシングル性能で拮抗している」などと語るのは、単なる表層理解である。

Zen 5とCore Ultra 200S:勝負はIPCと設計効率だ

最新世代を見ても、その差は歴然としている。

Core Ultra 200S(Arrow Lake)は最新の3nmプロセスを採用し、巨大なPコアを搭載している。
だが、実アプリでのIPC向上は限定的だ。
これは性能不足というより、プロセス進化をIPCに変換する設計哲学が、依然として高クロック・FPU中心の延長線にあり、実アプリでの効率向上に直結しにくいことを示している。

一方のZen 5は、IPCを全域で底上げし、面積効率に優れ、ワットパフォーマンスが高い。
「総合的なシングル性能」という観点では、方向性が明確に優れている。

なぜAVX-512の差がベンチに出ないのか

Zen 5は完全なネイティブAVX-512に対応している。
Zen 4の「256bit×2」とは違う、本物の512bit実行幅だ。
それでも多くのベンチマークで差が出ない理由は明白だ。

ベンチマークソフトが本気でAVX-512を使っていないからである。

Intelの一般向けCPUがAVX-512非対応である以上、ソフト側が忖度してAVX2止まりで最適化しているだけだ。
これはAI処理や科学計算では明確な武器になるが、古い物差しであるベンチマークでは測れないポテンシャルが眠っている。

今は差が見えなくても、ソフトウェアが追いついた瞬間に評価は一変するだろう。

結論:数字遊びから卒業しろ

まとめよう。

  1. Cinebenchはレンダリング性能だ。 OSやゲームの快適性とは別物だ。
  2. 本当のシングル性能はALUと分岐にある。 ここで強いのがZenアーキテクチャだ。
  3. RyzenがIntelに並んだのはZen 2からだ。 そしてZen 3で完成し、Zen 5で再び進化した。
  4. AVX-512が効かないのはソフト側の問題だ。 ハードウェアとしてはAMDが完全に先行している。

ベンチマークの数字が高い=速いCPU、ではない。
自分の用途が何かを理解しろ。それができれば、買うべきCPUは自ずと決まる。

PC選びで最も恥ずかしいのは、性能不足のパーツを買うことではない。
意味のない数字に踊らされ、賢いつもりでいることだ。

ベンチマークは答えではない。考える材料に過ぎない。

筆者のコメント

正直に言うと、この記事を書くにあたって特別な新情報は何も使っていない。
CPUベンチマークの性質と、実アプリの挙動を普通に考えれば分かる話を並べただけだ。

それでも「Cinebench=シングル性能」という雑な理解が、
2025年になっても平然と語られている現実には、軽い絶望すら覚える。

ベンチマークは便利だ。
だが便利さと正しさは別物である。
数字を読む力がない人ほど、数字にすがる。

Intelが悪いわけでも、AMDが偉いわけでもない。
問題なのは、指標の意味を理解しないまま語った気になる人間が多すぎることだ。

もしこの記事を読んで不快になったなら、それは人格を否定されたからではない。
思考停止を指摘されたからだ。

次は「じゃあ何を見ればいいのか」を書く。
ベンチマーク信仰から卒業したい人だけ、読めばいい。

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