Microsoftが最新のWindows 11 Insider Preview Build 26200.5516で、人気の高いセットアップバイパス手法「bypassnro.cmd」を削除することを発表した。これにより、Windows 11の新規インストール時にインターネット接続とMicrosoftアカウントへのサインインが事実上強制されることになる。「セキュリティとユーザーエクスペリエンスの向上」を理由とするこの変更に対し、ユーザーからは強い批判の声が上がっている。
バイパス方法の削除とその影響
Windows 11 バージョン22H2の発売以降、Microsoftは Home エディションだけでなく Pro エディションにおいても、セットアップ時にインターネット接続とMicrosoftアカウントへのサインインを義務付けていた。しかし、多くのユーザーは「bypassnro」というコマンドをセットアップ中のコマンドプロンプトで実行することで、この要件をバイパスしてローカルアカウントでのインストールを可能にしていた。
今回の変更により、Microsoftは公式にこのバイパス手法を無効化し、「すべてのユーザーがインターネット接続とMicrosoftアカウントを使用してセットアップを完了する」ことを確実にすると発表。これはWindowsのプライバシーに関心の高いユーザーや、インターネット接続なしでWindowsを使用したいユーザーにとって大きな懸念事項となっている。
代替手段はまだ存在する
興味深いことに、「bypassnro.cmd」スクリプトが削除されても、その機能自体は完全に無効化されているわけではないようだ。Twitter/Xユーザーの@phantomofearth氏によれば、レジストリを直接編集することで同様の効果を得ることができるという:
reg add HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\OOBE /v BypassNRO /t REG_DWORD /d 1 /f
shutdown /r /t 0
このコマンドをコマンドプロンプトで実行するか、regeditでレジストリエディタを開き、HKLM\SOFTWARE\Microsoft\Windows\CurrentVersion\OOBE
に「BypassNRO」という名前のDWORD値を作成して「1」を設定し、再起動することで効果が得られるとされている。
ただし、Microsoftがこの方法も将来的に完全に無効化する可能性は高い。Windows Centralによれば、Microsoftはこのレジストリ値自体を削除して、この種のバイパス手法を完全に防止する可能性があるという。
ユーザーからの反発
この変更に対し、多くのユーザーから批判の声が上がっている。特に以下の点が懸念されている:
- プライバシーの問題: Microsoftアカウントの強制は、ユーザーの個人情報収集を容易にする
- オフライン環境での使用: インターネット接続が限られている場所でのWindows 11の導入が困難に
- 企業環境での導入: ドメイン環境でのデプロイが複雑化する可能性
この動きは、すでに厳しいハードウェア要件(TPM 2.0、Secure Bootなど)を課しているWindows 11に対するさらなる制約と見なされており、一部のユーザーはLinuxベースのオペレーティングシステムなど代替ソリューションへの移行を検討し始めているという。
特に、Valveが近くデスクトップPC向けにSteamOSをリリースする予定があることを考えると、この変更はWindows 11の市場シェアに悪影響を及ぼす可能性がある。ゲームハンドヘルドにおいても、Windows 11ベースの機器よりもSteamOS 3.8が稼働する機器の方がパフォーマンスが優れているケースがあり、ブロートウェア(不要なプリインストールソフト)のないオペレーティングシステムへの移行が加速する可能性も指摘されている。
既存のインストールへの影響
なお、この変更はすでにMicrosoftアカウントなしでセットアップされているWindows 11 PCには影響しない。変更はWindows 11のインストールとセットアップエクスペリエンスにのみ影響し、OSがインターネット接続とMicrosoftアカウントを必要とする箇所に限定される。
今後の展開
「bypassnro.cmd」コマンドの削除は現在、最新のWindows 11ベータビルドでテスト中であり、今後数週間以内にWindows 11の製品版にも展開される可能性が高い。
Microsoftが代替バイパス方法も含めて完全に無効化するかどうかは不明だが、同社の方針としては、すべてのWindows 11ユーザーをMicrosoftエコシステムに統合する方向性が強まっていることは明らかだ。
また、高度なユーザー向けの代替手段として、unattend.xmlインストールの使用も可能だが、これには新規のWindowsインストールイメージの作成など、より複雑な作業が必要となる。
筆者のコメント
Microsoftの今回の動きは、「セキュリティとユーザーエクスペリエンスの向上」という名目で行われているものの、実質的にはユーザーの選択肢を制限し、同社のエコシステムへの依存を強化するものと言わざるを得ない。
特に企業環境や教育環境など、集中管理が必要な場所での展開が複雑化する可能性がある点は見過ごせない問題だ。確かにMicrosoftアカウントを使用することでクラウド同期などの恩恵は得られるが、それを強制するのではなく、あくまでもユーザーの選択肢として残すべきではないだろうか。
この傾向が続けば、Windows 11の採用率に悪影響を及ぼす可能性も否定できない。現在でもWindows 10からWindows 11への移行が思うように進んでいない状況で、さらなる制約を課すことは賢明とは言えないかもしれない。
最後に、レジストリ編集による代替手段が現時点では機能しているとはいえ、今後のアップデートで完全に無効化される可能性が高いことを考えると、長期的にはMicrosoftアカウントの使用を受け入れるか、代替OSへの移行を検討する必要が出てくるかもしれない。
※本記事はWindows 11 Insider Preview Build 26200.5516のリリースノートおよびWindows Central、その他の報道に基づいています。状況は今後のアップデートにより変化する可能性があります。
情報・参考



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