メモリ市場が、かつてない混乱に陥っている。
ASUS、MSI、その他の大手PCメーカーが 「パニック購入」 を開始し、スポット市場でメモリの在庫確保に奔走している。その結果、DRAM価格は 2025年だけで172%上昇 し、DDR5 16Gbのスポット価格は 1ヶ月で2倍 に到達した。
さらに深刻なのは、 この供給不足が2027年まで続く 可能性があることだ。
この異常事態は、AI需要の爆発的拡大、メーカーの生産能力削減、そしてサプライチェーン全体の調整不足が重なって発生した。そして今、そのツケが 我々PCゲーマーに回ってきている 。
メモリ価格の高騰は、PC全体の価格を押し上げ、自作PCの魅力を損なう。この危機を、我々はどう乗り切るべきか。
目次
何が起きているのか:パニック購入の実態
メモリ業界で今起きていることを、時系列で整理しよう。
1. サムスンがDDR5の契約価格設定を停止
最大手メモリメーカーのサムスンが、 DDR5 DRAMの契約価格設定を停止 した。これは、価格が急激に変動しており、固定価格での契約が不可能になったことを意味する。
他のメーカー(SK hynix、Micronなど)も同様の措置を取る可能性が高い。
2. 大手PCメーカーがスポット市場で買い漁り
ASUS、MSI、その他のPCメーカーが、 スポット市場で大量のメモリを購入 している。
通常、PCメーカーは長期契約でメモリを確保するが、供給不足を見越して 「今買えるものは全て買う」 という状況になっている。これが「パニック購入」だ。
3. 価格が急騰
その結果
- DDR5 16Gbスポット価格: 1ヶ月で2倍以上に
- DRAM価格全体: 2025年だけで172%上昇
- DDR4価格: 生産終了(EOL)に伴い、在庫枯渇で急騰
4. 供給不足は2027年まで継続
業界関係者の予測では、 この供給不足は2027年まで続く 可能性がある。
つまり、 今後2年間、メモリ価格は高止まりする ということだ。
なぜこうなったのか:3つの要因
この異常事態の背景には、以下の3つの要因がある。
1. AI需要の爆発的拡大
データセンター向けのAI需要 が、メモリ市場を圧迫している。
ChatGPT、画像生成AI、機械学習インフラ――これらは全て、膨大なメモリを消費する。メモリメーカーは、 サーバー向けDDR5やHBM(High Bandwidth Memory)の生産を優先 し、コンシューマー向けDDR4/DDR5の供給を後回しにしている。
つまり、 我々PCゲーマーは、AI市場の「しわ寄せ」を受けている のだ。
2. メーカーの生産能力削減
皮肉なことに、この供給不足は メーカー自身が招いた 面もある。
サムスン、SK hynixなどの大手メーカーは、 利益確保のために生産能力を削減 していた。過去数年、DRAM価格が低迷していたため、供給過剰を避けて価格を安定させようとしたのだ。
しかし、AI需要が急激に拡大した今、 生産能力が需要に追いつかない 。そして、生産能力を増やすには時間がかかる。
3. DDR4の生産終了(EOL)
DDR4が 生産終了(End-of-Life) フェーズに入ったことも、混乱を助長している。
DDR5への移行期において、DDR4の在庫が枯渇すれば、価格が急騰する。実際、DDR4の価格は DDR5と逆転 し、在庫確保が困難になっている。
価格はどこまで上がるのか
では、具体的にメモリ価格はどこまで上がるのか。
現在の価格動向
- DDR5 32GB(16GB x 2)キット: 15,000円前後(9月時点) → 3万円以上(2025年11月17日現在)
- DDR4 16GB(16GB x 2)キット: 8,000円前後(9月時点)→16,000円以上(2025年11月17日現在)
2026年以降の予測
業界アナリストによれば
- 2026年Q1〜Q2: さらに20〜30%上昇の可能性
- 2026年Q3以降: 生産能力増強により、価格は横ばいか微減
- 2027年: 供給が正常化し、価格が下落に転じる(楽観的シナリオ)
つまり、 少なくとも1年間は高値が続く 可能性が高い。
PCゲーマーへの影響
この異常事態は、我々PCゲーマーに以下の影響をもたらす。
1. PC全体の価格上昇
メモリ価格の上昇は、 PC全体の価格を押し上げる 。
- 自作PC: メモリだけで数万円のコスト増
- BTO PC: メーカーがコスト増を価格転嫁
- ゲーミングノート: メモリ換装が困難なため、初期構成の選択が重要に
2. メモリアップグレードの困難化
「後でメモリを増やせばいい」という戦略が、 使えなくなる 。
今32GBが10万円のPCを買い、後で64GBにアップグレードしようとしても、メモリだけで数万円かかる可能性がある。
3. DDR4プラットフォームの魅力低下
DDR4の在庫枯渇により、 DDR4プラットフォームは「安価な選択肢」ではなくなる 。
むしろ、DDR5の方が入手しやすく、長期的には賢明な選択になる可能性がある。
我々はどう対応すべきか
この危機に対して、PCゲーマーが取るべき戦略は明確だ。
1. 今すぐメモリを買う(必要なら)
もしPC構築やアップグレードを計画しているなら、 今すぐメモリを購入すべき だ。
価格は今後さらに上昇する可能性が高く、 「待てば安くなる」という保証はない 。むしろ、今が「最後の買い時」かもしれない。
2. 必要以上に買わない(投機は避ける)
ただし、 転売目的や過剰な在庫確保は避けるべき だ。
メモリは消耗品ではなく、数年間使えるパーツだ。自分が実際に使う量だけを購入し、市場の混乱を助長しないことが重要だ。
3. DDR5を選ぶ(DDR4は避ける)
新規構築の場合、 DDR5プラットフォームを選ぶべき だ。
DDR4は生産終了に向かっており、将来的な入手性に不安がある。DDR5なら、供給が安定する2027年以降も長く使える。
4. BTO PCの場合、初期構成でメモリを最大化
BTOを購入する場合、 初期構成でメモリを最大化 すべきだ。
後からメモリを追加するより、今のBTO価格に含まれている方が結果的に安い可能性が高い。
5. 中古市場に注意
メモリ価格の高騰により、 中古市場でも価格が上昇 する可能性がある。
中古メモリを購入する場合、動作保証や互換性を慎重に確認すべきだ。不良品を掴まされれば、さらなる出費につながる。
メーカーの責任と市場の構造的問題
この異常事態は、 メーカーの判断ミス と 市場の構造的問題 の両方が原因だ。
メーカーの判断ミス
サムスン、SK hynixなどは、利益確保のために生産能力を削減した。これは 短期的な利益を優先し、長期的な供給責任を怠った と言える。
AI需要の急拡大は予測困難だったかもしれないが、 サプライチェーン全体への影響を軽視した責任は重い 。
市場の構造的問題
メモリ市場は、 少数の大手メーカーに支配されている (サムスン、SK hynix、Micronで市場の90%以上)。
この寡占状態が、価格変動を増幅させている。競争が不十分なため、メーカーは供給量を調整することで価格をコントロールできる。
つまり、 我々消費者は、メーカーの戦略に翻弄されるしかない のが現実だ。
結論:冷静に、しかし迅速に行動すべき
メモリ市場の「パニック購入」は、確かに深刻な事態だ。
しかし、 パニックに陥る必要はない 。冷静に状況を見極め、適切なタイミングで行動すれば、損失を最小限に抑えることができる。
今すぐPC構築やアップグレードが必要なら、今がメモリの買い時だ。 価格は今後さらに上昇する可能性が高く、2027年まで高止まりする見込みだ。
一方で、 急ぐ必要がないなら、2027年の供給正常化を待つのも一つの手 だ。ただし、その間PCの構築は我慢することになる。
いずれにせよ、 市場の動きを正しく理解し、自分の状況に合った判断をすること が、賢い消費者の姿勢だ。
筆者のコメント
メモリ市場のこの混乱を見ていると、AI需要の拡大が、いかに広範囲に影響を及ぼしているかが分かる。データセンターが優先され、PCゲーマーが後回しにされる――これは、GPU市場でも起きたことだ。
しかし、我々は無力ではない。 市場の動きを読み、適切なタイミングで行動する力 を持っている。
メーカーのパニック購入に巻き込まれて焦るのではなく、 自分が本当に必要なものを見極め、冷静に判断する 。それが、この危機を乗り切る唯一の方法だ。
そして、この経験は教訓となる。 サプライチェーンの脆弱性、寡占市場の問題、AI需要の影響 ――これらを理解することで、次の危機に備えることができる。
情報・参考
















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