ゲーミングPC界隈で、今「Ryzen X3D」シリーズが神格化されている。大容量L3キャッシュがもたらす圧倒的なゲーム性能。コアなゲーマーにとって、それは勝利を約束する絶対的な存在だ。CPUの人気ランキングを見ても、Ryzen 7 9800X3D(現在¥76,980~)は堂々の1位。多くのユーザーがその魔力に惹かれているのがよくわかる。
だが、PCショップ店員としてあえて言おう。「ちょっと待て、そのCPUは本当に必要か?」と。
今日の記事は、思考停止でX3Dを選ぼうとしている8割の一般ゲーマーに対する、現役PC店員からの強烈な警告だ。予算分配の重要性を理解し、賢いゲーマーになってほしい。
目次
最大の過ち:貧弱なGPUに最強のCPUを組み合わせる愚行
まず、自作PCの基本に立ち返ろう。ゲーミングPCの性能は、何よりもGPUで決まる。CPUは、そのGPU性能を最大限に引き出すための「相方」に過ぎない。
にもかかわらず、多くの初心者はこのバランスを完全に見誤っている。貧弱なGPUに、オーバースペックなX3D CPUを組み合わせる。これは、例えるなら軽自動車のフレームにF1のエンジンを載せるようなものだ。エンジンだけが空回りし、そのパワーが全くタイヤに伝わらない。実に愚かな選択だと言わざるを得ない。
では、どのレベルのGPUからX3D CPUは意味を成すのか?GearTuneとしての結論は明確だ。
- NVIDIA GeForce RTX 5070 Ti
- AMD Radeon RX 9070 XT
この2つのGPUが、X3D CPUの恩恵を体感できる最低ラインだ。これ未満のGPUを使っている、あるいは搭載する予定なのであれば、X3D CPUの追加キャッシュは宝の持ち腐れ。フレームレートはほとんど変わらない。あなたが支払う数万円の追加コストは、文字通りドブに捨てるようなものだ。
その予算があるなら、まずはGPUをワンランク上のモデルにしろ。それが最も賢明な投資だ。
お前はプロか?特殊なゲームをやるのか?X3Dが必要な特殊な人々
「いや、俺はRTX 5070 Ti以上を使っているぞ!」という声が聞こえてきそうだ。では、次の質問だ。お前は、その性能が本当に必要なのか?
X3D CPUが真価を発揮するのは、ごく一部の特殊な環境下に限られる。
- フレームレートが勝敗に直結する、競技系FPSのガチ勢
コンマ1秒を争う世界で、フレームレートのわずかな落ち込みも許されないプロゲーマーやそれに準ずるプレイヤー。 - 『Escape from Tarkov』のような特殊なゲームのプレイヤー
Tarkovのように、CPUのキャッシュ量が異常なまでにパフォーマンスを左右する、最適化に問題を抱えたゲームを本気でプレイしているユーザー。 - 高画質設定での安定したゲーム配信者
ゲームプレイと配信エンコードを同時に行い、視聴者に最高の体験を届けたいプロのストリーマー。
このいずれにも当てはまらないのであれば、お前がX3Dの恩恵を体感できる場面は、ほとんどない。そう、ほとんどの一般ゲーマーには、X3Dは全くもって不要なのだ。
賢者の選択:Ryzen 7 9700Xという「最適解」
では、我々一般ゲーマーは何を選ぶべきなのか?答えは既に出ている。Ryzen 7 9700Xだ。
9800X3Dとの価格差は約30,000円。この3万円があれば何ができる?SSDを1TBから2TBに増設できる。メモリを64GBにできる。PCケースや電源をワンランク上の高品質なモデルにできる。そのどれもが、X3D CPUを選ぶよりもはるかにPC全体の快適性を向上させる、賢い投資だ。
そもそも、Ryzen 7 9700Xの性能を侮ってはいけない。最新のZen 5アーキテクチャを採用したこのCPUは、それ単体でほとんど全てのゲームを快適にプレイできる、驚異的なポテンシャルを秘めている。RTX 5070 TiやRX 9070 XTと組み合わせても、その性能を十二分に引き出すことが可能だ。
旧世代の王「7800X3D」がいまだに最強クラスという事実
さらに言えば、CPU人気ランキングで未だ上位に君臨するRyzen 7 7800X3Dの存在が、この議論をさらに面白くする。
キャッシュが有効なゲームであれば、この旧世代の王者は最新の9700Xを大幅に上回るパフォーマンスを発揮する。つまり、「どうしてもキャッシュの恩恵が欲しいが、予算は抑えたい」というニッチな需要に対しては、7800X3Dがいまだに最適解なのだ。
この事実が何を意味するか?最新の9800X3Dが必要になるユーザーがいかに限定的か、ということだ。ほとんどのユーザーは9700Xで十分。どうしてもキャッシュが欲しい一部のユーザーですら、7800X3Dで満足できてしまう。これが市場のリアルな答えだ。
「X3Dは低発熱」という神話のウソ
「でも、X3Dモデルは発熱が低くて扱いやすいって言うじゃないか!」という反論もあるだろう。確かに、ゲーム中の実際の消費電力や発熱はX3Dモデルの方が低くなる傾向にある。
だが、冷静に考えてほしい。Ryzen 7 9700Xのデフォルト設定はTDP 65W、PPT 88Wだ。このレベルのCPUがフルパワーで動作したところで、たかが知れている。DeepCool AK400やサイズ 虎徹のような、数千円で買える定番の空冷クーラーで余裕で冷却可能だ。
「冷却が楽だから」という理由で3万円もの追加コストを支払うのは、あまりにも馬鹿げている。
最終結論:お前が買うべきは「9700X」だ
繰り返しになるが、結論は揺るがない。ほとんどのPCゲーマーに、Ryzen X3D CPUは必要ない。
- 予算25万円以下でゲーミングPCを組むなら、X3Dは基本的に選択肢に入らない。
- RTX 5070 Ti未満のGPUなら、無理してX3Dを選ぶな。
- プロの配信者でも、Tarkovの住人でも、FPSのトップランカーでもないなら、Ryzen 7 9700Xを選べ。
浮いた3万円でGPUを強化しろ。SSDを増設しろ。それがお前のゲーミングライフを最も豊かにする、唯一の方法だ。思考停止で「最強」のラベルに飛びつくのは、もうやめにしよう。
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