中国市場でIntelの「IPO」(Intel Performance Optimization)対応PCの販売が開始された。これはIntelが公認する大幅オーバークロック設定を施したPCで、Arrow Lake(Core Ultra 200S)CPUのクロック速度やメモリ周波数、電力制限などを工場出荷時から大幅に引き上げ、標準構成と比べて約10%の性能向上を実現している。しかも驚くべきことに、これらの過激な設定にもかかわらず販売店による保証が付くという異例の施策だ。
Intel IPOとは何か – 工場出荷時から大幅にオーバークロック
「IPO」(Intel Performance Optimization)とはIntelが2025年初頭のCESで発表した性能向上施策のセットだ。Arrow Lake(Core Ultra 200S)デスクトップCPUをターゲットとしており、ゲームや業務アプリケーションなど様々なワークロードでの性能向上を目的としている。
IPOでは具体的に以下の設定が変更される(Core Ultra 7 256K)
- Pコア: 5.2GHz → 5.4GHz(+200MHz)
- Eコア: 4.6GHz → 4.9GHz(+300MHz)
- リングバス: 3.9GHz → 4.0GHz(+100MHz)
- NGU: 2.6GHz → 3.1GHz(+500MHz)
- D2D: 2.1GHz → 3.1GHz(+1000MHz)
- PL1電力制限: 125W → 280W(+155W)
- PL2電力制限: 250W → 350W(+100W)
- DDR5メモリ周波数: 8000MT/s → 8400MT/s(+400MT/s)
- メモリタイミング: 大幅に最適化(TREFIを65536に引き上げなど)
これらの変更はマザーボードのBIOSに適用され、通常のオーバークロックと違い、工場出荷時からこれらの設定が適用されている点が特徴だ。
性能向上と価格
IPO対応PCは通常の同構成PCと比較して約10%の性能向上を実現していると販売ページには記載されている。特に注目すべきはメモリレイテンシの改善で、AIDA64のテストでは80.8nsから65.8nsへと大幅に向上している。
価格については、Core i7-14700KFとGeForce RTX 5070 Tiを搭載した構成で14,899元(約2,000ドル、約30万円)、Core Ultra 7 256Kを搭載した構成では16,009元(約2,200ドル、約33万円)となっている。
保証付きオーバークロックという新しい試み
IPO対応PCの最も注目すべき特徴は、これらの過激なオーバークロック設定にもかかわらず、販売店による保証が付くという点だ。通常、オーバークロックはユーザー自身のリスクで行うものであり、メーカー保証の対象外となるのが一般的だ。
Intelは公式にIPO対応PCに保証を付けるとは明言していないようだが、IPOを「OC(オーバークロック)」とは別カテゴリとして位置づけており、中国のB2B向け(システムインテグレーターやOEMメーカー向け)に提供している。
これにより、通常はオーバークロックに手を出さない一般ユーザーでも、安心して高性能なPCを使用できる環境が整いつつある。
中国限定の取り組み、世界展開は未定
現時点では、IPO対応PCは中国市場限定で販売されており、世界展開については不明だ。中国では攀升(IPASON)、麦咖啡(MAXSUN)などの販売店がIPO対応PCを提供している。
このプログラムはCore Ultra 200S「Arrow Lake」プロセッサを主なターゲットとしているが、報道によれば一部のIntel Core i7-14700K「Raptor Lake Refresh」搭載PCもIPO対応として販売されているという。
筆者のコメント
IntelのIPOプログラムは、Arrow Lake CPUの性能を最大限に引き出すための興味深い施策だが、いくつかの懸念点も浮かび上がる。最も気になるのは、PL1を125Wから280Wへ、PL2を250Wから350Wへと大幅に引き上げている点だ。
これは過去にIntel第13世代・第14世代CPUがデフォルトで電力無制限設定になっていた事を思い起こさせる。i7 14700Kで300W以上、i9 14900KSに至っては400Wにも達した、再度それに匹敵する電力設定を公認するというのはリスクを伴う決断に思える。
また、D2DやNGUクロックの大幅な引き上げも、Arrow Lakeの初期ロットでは安全マージンを取って控えめに設定されていた部分であり、それを一気に引き上げる今回の施策は、Intelが当初の設定を過度に保守的にしていたことを間接的に認めたことになる。
保証付きとはいえ、高温下で長期間使用した場合のCPUやマザーボードの耐久性への影響は未知数だ。特に日本のような高温多湿の環境では、中国市場でテストされた設定が同様に安定するとは限らない。
しかし一方で、IPOはArrow Lake CPUの真の実力を引き出すための取り組みとして評価できる面もある。特にD2DとNGUクロックの引き上げは、メモリレイテンシを大幅に改善し、ゲーム性能向上に寄与する重要な要素だ。
日本市場にもこの施策が展開されるのか、また展開された場合に同様の保証が付くのかは今後の動向を注視する必要がある。IPOはIntelの性能競争力を高める良策かもしれないが、長期的な信頼性とのバランスが取れているかは時間が経たないと分からないだろう。
※本記事はWccftech、UNIKO Hardwareの報道および中国メディアBenの記事に基づいています。オーバークロックは自己責任で行ってください。
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