ロジクールの功績と限界
誤解を招かないよう前置きしておくが、ロジクール製品は良い。特に初心者にはおすすめで、コスパも性能も悪くない。多くのゲーマーにとって、最初のゲーミングデバイスがロジクール製品だったという経験があるだろう。私が金欠学生だった頃、メインで使っていたDeathAdderが壊れた際、当時3,000円以下で購入できたG100sには大変救われた。
しかし、今ではゲームで中級者以上になってくるとロジクールを選ぶことは少なくなる。というか特定のゲームでは必須な機能や、根本的な性能、機構が搭載されておらず選べなくなってしまっているのだ。なぜこのようなことが起こるのか、詳しく見ていこう。
ラピッドトリガー機能の欠如
代表的な問題点は、ラピッドトリガー機能の欠如だ。ゲーミングデバイス御三家(ロジクール、Razer、SteelSeries)の中でいまだにラピッドトリガーを搭載していないのはロジクールだけだ。2024年に入ってもこの状況が変わっていないのは驚きだ。
ラピッドトリガーとは何か簡単に説明しよう。これは、キーボードのキーのアクチュエーションポイント(キーが反応する位置)を調整できる機能だ。通常、キーを完全に押し下げる必要があるが、ラピッドトリガー機能を使えば、キーを戻し切らない状況でも、再びキーを押すだけで入力を認識させることができる。これにより、反応速度が向上し、特にストッピングが重要なFPSゲームなどで素早い操作が可能になる。
プロゲーマーや上級者にとって、この機能は非常に重要だ。ミリ秒単位の反応速度の違いが勝敗を分ける世界では、このような機能の有無が大きな影響を与える。にもかかわらず、ロジクールはこの機能を搭載していない。これは、競技シーンでロジクール製品が選ばれにくい大きな理由の一つだ。
新技術採用の遅れ
2024年になってようやく光学式キーボードを出す始末だ。他社が何年も前から光学スイッチを採用し、その恩恵を謳歌しているのに対し、ロジクールの対応の遅さは目を見張るものがある。
光学スイッチの利点は何か。従来の機械式スイッチと比べて、耐久性が高く、応答速度が速い。また、チャタリング(誤作動)のリスクも低減される。ゲーマーにとって、これらの特性は非常に重要だ。にもかかわらず、ロジクールはこの技術の採用に後れを取ってしまった。
2024年にラピッドトリガー機能の無いただの光学式キーボードを30,000円超えの価格で発売するのは常軌を逸しているとしか思えない。
ハイエンド製品は儲からない?
では、なぜロジクールはこのような状況に陥ってしまったのか。理由は簡単だ。ハイエンド帯製品は儲からないのだ。
競技人口を見てみよう。基本的にはピラミッド形状で初心者から上級者まで分布している。中級者以下の人口が圧倒的に多いのだ。母数が多い方にマーケティングをした方が儲かるのは明白だ。
この図を見れば一目瞭然だ。ロジクールは、このピラミッドの下部に位置する大多数のユーザーをターゲットにしているのだ。確かに、ビジネス的には正しい判断かもしれない。しかし、それはゲーミングデバイスメーカーとしての本質を見失うことにつながっていないだろうか。
開発コストの問題
それに加えて、ハイエンド製品は開発コストが大きいというのも理由の一つだろう。新技術の研究開発、高品質な部品の調達、厳密な品質管理など、ハイエンド製品の開発には多くの資金と時間が必要だ。対して、既存の技術を用いた中級以下の製品なら、比較的低コストで大量生産できる。
ロジクールは、このコストと利益のバランスを重視しすぎているように見える。確かに、企業として利益を追求するのは当然だ。しかし、技術革新を怠ることは、長期的には大きな損失につながる可能性がある。
巧妙な初心者向けマーケティング
ここで、ロジクールの強みについて触れておこう。それは、彼らの巧妙なマーケティング戦略だ。
最初に使ったデバイスメーカーには愛着がわくこともあり、ロジクールは着々と信者を増やしている。初心者向けデバイスの展開数が多く、広告の出し方も絶妙な上手さだ。「ゲーミングデバイスといえばロジクール」というイメージを、上手く植え付けることに成功している。
特に注目すべきは、大手PCショップや家電量販店と直接契約を結び、販売推奨商品になっていることが多い点だ。店頭で「ゲーミングマウスならどれがいいですか?」と尋ねれば、多くの場合「ロジクールがおすすめです」という回答が返ってくるだろう。
この戦略は非常に効果的だ。多くの初心者ゲーマーは、詳しい知識がないまま店員の推奨に従ってロジクール製品を購入する。そして、使い心地の良さから、そのままロジクールの信者となってしまうのだ。
ロジクール信者の形成と問題点
店員にロジクール製品がおすすめと言われてしまうと、多くの人は深く考えることなく、いわば「脳死」で信者になってしまう。これは決して誇張ではない。実際、多くのゲーマーコミュニティで「ロジクール信者」と呼ばれる人々を見かける。彼らは、他社製品の良さを認めようとせず、ロジクール製品を無条件に擁護する傾向がある。
このような「信者」の存在は、ゲーミングデバイス業界全体にとって必ずしも良いことではない。なぜなら、彼らの存在が技術進歩への無関心を助長する可能性があるからだ。「ロジクールが最高」と信じ込んでいる人は、他社の革新的な技術や機能に目を向けようとしない。結果として、業界全体の技術革新が鈍化する恐れがある。
中級者以上はロジクールから卒業しよう
上達せず中級者以下止まりの人には支持されているので、ロジクールは商売的には大成功を収めている。しかし、デバイスにこだわり始める中級者以上のゲーマーは、徐々にロジクール製品を「卒業」し、他メーカーのハイエンド製品に流れていく傾向がある。
これは自然な流れだ。ゲームスキルが向上するにつれて、より高度な機能や性能を求めるようになる。そして、ロジクールの製品がその要求を満たせないことに気づくのだ。
では、中級者以上のゲーマーはどこに流れていくのか。代表的なのは、Razer、SteelSeries、Wootingなどだ。これらのメーカーは、ラピッドトリガー機能を搭載したキーボードや、最新の光学スイッチを採用した製品を提供している。
例えば、Razerの「Huntsman」シリーズは、光学スイッチとラピッドトリガー機能を組み合わせた先進的なキーボードだ。SteelSeriesの「Apex Pro」シリーズも、キーのアクチュエーションポイントを自由に調整できる機能を搭載している。これらの製品は、高度なゲーミング体験を求めるユーザーから高い支持を得ている。
ロジクールの今後
今の説明でロジクールがゲーマーよりお金儲けを重視していることを理解してもらえたと思う。しかし、この状況が永遠に続くとは限らない。ロジクールも、徐々にではあるが変化の兆しを見せている。
例えば、2024年にはPRO X 60シリーズで光学スイッチを採用したキーボードを発表した。これは遅すぎるものの、ロジクールが技術革新の必要性を認識し始めた証拠と言えるだろう。
また、ロジクールがハイエンド市場に再挑戦する可能性も考えられる。現在の戦略が中長期的に見て持続可能でないことは、ロジクール自身も認識しているはずだ。今後、徐々にではあるがハイエンド製品のラインナップを強化していく可能性は高い。
ゲーマーとしての選択
結論として、ロジクール製品が悪いわけではない。しかし、中級者以上のゲーマーにとっては、必ずしもベストな選択肢とは言えない場合が多い。重要なのは、自分のスキルレベルとニーズに合わせて適切なデバイスを選択することだ。
ロジクールの製品が自分に合っていると感じるなら、それを使い続けるのも一つの選択だ。しかし、より高度な機能や性能を求めるなら、他のメーカーの製品も検討する価値は十分にある。
また、ゲーマーとして常に技術の進歩に注目することも重要だ。新しい技術や機能が、あなたのゲームプレイをどのように向上させる可能性があるか、常に考える習慣をつけよう。
ゲーミングデバイスメーカーと言うより、マーケティング会社に成り下がってしまったロジクールは、今後どのような道を歩むのだろうか。技術革新に力を入れ、真のゲーミングデバイスメーカーとして復活を遂げるのか。それとも、現状維持のまま徐々に競争力を失っていくのか。
私たちゲーマーにできることは、賢明な消費者として、真に優れた製品を選び、支持することだ。そうすることで、業界全体の発展に寄与できるはずだ。
最後に強調しておきたい。これはロジクールを貶めるためのものではない。むしろ、ロジクールには再び技術革新の最前線に立ってほしいという願いを込めている。彼らの持つ技術力と経験は、間違いなくゲーミングデバイス業界に大きな貢献をもたらす可能性を秘めている。
ゲーマーの皆さん、自分に最適なデバイスを選ぶ目を養い、常に新しい可能性を追求しよう。そうすることが、結果的に業界全体の発展につながり、私たちのゲーム体験をより豊かなものにしてくれるはずだ。
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